模範試合6
翌日、2グループに別れた7人の総当たり戦が催された。
前半のグループにはアイザックとジャックが、後半のグループには私といった具合で、上手く残れば決勝の4人で2人とは対戦する事になる。
午前の前半戦を見学していると、やはりどの生徒もアイザックより劣る。
あえてそう組まれたのか、それとも偶然か。
多分前者だろうと当たりを付ける。
何故ならクラスで私達の他に5本の指に入る顔ぶれは何故か私が相手をする運命のようだからだ。
「先生達はどんだけごますっているんだか」
辟易としながらそう呟いてしまった。
「そうですね。私もそう思いますよ」
隣にやって来た体格の良い男が同意する。
髪はブロンド、瞳はヘーゼルと色合いだけは落ち着いた感じの男だ。
その代わり顔立ちが華やかだ。
「こうやって声を掛けるのは初めてだね。私はレイモンド・アクセルだ。宜しく」
人の良い笑みを称えてそう名乗る。
「アクセルと言うと辺境伯ですね。こちらこそはじめまして。ミッシェル・カリスです」
そう言うとお互いに軽く握手をする。
なかなか離さない手をどうしようか?と考えていると、一瞬レイモンドが私の顔を覗き込む。
そして私の手を離し、自身の手で口許を覆うと何やら考え再び私の方を見た。
「先日ペレッタ公爵家の夜会で殿下と踊っていたよね」
レイモンドは探る様に私を見る。
「エスコートして来たのはケヴィン・ラハン」
何か確信めいた問い掛けに私は一瞬躊躇してしまう。
「もしかしてケヴィン殿の婚約者ですか?」
おっ……お兄様の婚約者!!
それならどんなに嬉しいか。
思わず想像してしまい顔を赤らめてしまった。
「どうやら正解の様ですね。何故男装を?」
レイモンドは優しく問い掛けて来るが、初めて話す人間にあまりにも突っ込んだ質問だと思う。
アクセル辺境伯は頭脳明晰勇猛果敢なお方だと聞いている。
頭の回転だけは血は争えないものだと感心してしまった。
「単に似合っていたからでしょうか?ドレスよりも動きやすいですしね」
「成る程、確かにそうですね。あのヒラヒラのドレスでは有事の際に動き辛いですからね」
何処までも戦闘思考だな……と思ってしまう。
「それに、あれほどの美人ではケヴィン殿も気が気ではないでしょうから男装は賛成でしょう」
そう言うとニコリと微笑まれてしまった。
「ですが、どうでしょうか?私は将来の辺境伯です。対して、ケヴィン殿はそうではない」
これは、自分に乗り替えろと言う事かしら?
「リアン様がラハン公爵位をお継ぎになったら、伯爵位をケヴィン様が継ぐ事になっております」
そう訂正しておく。
今は嫡男のリアンが伯爵位を名乗っているからだ。
これは順当な事。
普通は判るよね。
「これはこれは。良くご存知ですね」
レイモンドは大仰にそう言うとすっと目を細めた。
「しかし、伯爵位より辺境伯の方が身分は上です。貴女を最大限に活かせるのは我がアクセル家だと思いますが」
「それは戦闘能力としてという意味ですか?」
「そうですね。それも含みです」
レイモンドは尚もニコリと笑む。
そして、そんな彼に悟ってしまう。
多分彼とは何処までも平行線なのだろうと。
だから敢えてここで言っておく。
「私は私よりも弱い男性は好みではありませんから」
それだけ言うとニコリと微笑みその場を後にした。
「おやおや、手厳しい」
レイモンドがふざける様にそう言うのを背後で感じながら、私はアイザック達の元へと歩き出した。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。




