模範試合5
試合を終えたミッシェルは涼しい顔でアイザックとジャックの隣へと戻った。
「見事だったな。ミッシェル」
アイザックはそう言うと軽く肩に手を当てて来る。
「ありがとうございます」
軽く会釈しつつ礼を述べる。
「今の実力なら即戦力になるな」
冗談とも取れない事をジャックが述べる。
確か今は近隣諸国と臨戦態勢だったな。
と思いを巡らす。
唯一同盟を結んでいるのは王太子の婚約者の姫君がいるトウワ国だけ。
あそこは帝国の次に力を持っている為に今回の婚儀を快く思わない国もあるほどだ。
確か今週の週末に王宮で外交に来る姫君を歓迎する夜会もあったはず。
そんな時に私などが行っていいのだろうか?
それとも、私は力量を買われてアイザックの護衛も兼ねているのだろうか?
しかし、確か帯剣を許されているのは警護の騎士と要人の護衛のみ。
それもある程度の身分の者だけに許されている。
そんな事を真面目に考えてしまう。
すると、アイザックとジャックが何やら話をしており私の方を見ると
「今言った様に私が王族だからと手を抜くなよ。これは勝負なのだから」
真剣な面持ちでアイザックがそう言うとジャックも「そんな事はしないよ」と笑って同意する。
「では、優勝は私が頂きますかね」
冗談めかしてそう言うと
「期待している」
とだけ言われた。
剣の腕なら兄からの折り紙付き、アイザックごときに遅れを取るとは思えない。
そう思いニマリと笑う。
「明日の試合を楽しみにしている」
アイザックはそれだけ言うとポンと頭を軽く触って行く。
昨日からやけにスキンシップが多い様な気がする、一体なんなんだ?と、しげしげと見てしまった。
いつの間にか授業事態も終わっており現地解散とばかりにアイザックとジャックはその場を去って行った。
私も帰り支度をする為に校舎へと足を向けると数名の女子に行く手を阻まれてしまう。
「あの……ミッシェル様。先程の試合素敵でした」
「ともてお強いのですね」
「殿下からも直々にお声がかかるなんて凄いですわ」
何故かキャーキャー言われてしまうが
「ありがとうございます。私の様な若輩者にも殿下は心を砕いて下さる素晴らしい方ですね」
と、社交辞令宜しくそう言えば何故か更に黄色い悲鳴が鳴る。
挙げ句何故か貧血を起こすご令嬢もいて、仕方がないので横抱きにして医務室まで連れて行く事にした。
勿論彼女には重量軽減の魔法を掛けて。
背後で更に黄色い悲鳴が聞こえて来るがそれどころではない。
早く彼女を医務室に連れて行かなければ。
私は足早にその場を後にした。
*******
ある女子の視点。
ミッシェル様は全ての試合を1分かからず全て勝利された。
汗一つ流さず何時もの如く涼しげな眼差しはもう観賞に値すると思う。
殿下と王家縁のジャック様と親しげにお話され臆する事なく対話されている。
あまつさえ殿下の覚えもめでたく、とても親しくされる姿は堂々とされている。
もう紳士同盟なんて言っていたら誰かに取られてしまうんじゃないか。
そう思い
一歩踏み出すと数名の女子も動き出す。
負けじと前へ出てミッシェル様に称賛の言葉を述べる。
そんな私達にミッシェル様は傲る訳でもなく、それどころか殿下をお褒めになる気心と優しさ。
そう言って微笑まれるご尊顔は……うっ……悶絶ものですわ。
かくして私はあまりの興奮に失神。
気付けばミッシェル様に抱き抱えられて医務室まで運ばれる幸運に見舞われてしまい、もう死んでも良いかもなんて思ってしまいました。
あんなにしなやかな体躯なのに私を軽々とお運びになるなんて。
顔良し頭良し腕前良しと男としてパーフェクトなお方。
明日からは紳士同盟解散で頑張らなきゃ。
それにしても、いつもサボっている医務室の先生は何故か今日に限って常駐している。
本当に使えない先生だわ。
きっとお優しいミッシェル様の事。
先生がいなかったら私を手厚く介抱してくれていたと思うの。
そうして、颯爽と退室して行くミッシェル様を物憂げに見てしまいましたわ。
トホホホ……ですわ。
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