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アイザック4

入学式はウィルの就任の挨拶から始まり滞りなく進められていた。


「答辞。新入生代表ミッシェル・カリス」

司会進行をしている教諭がミッシェル・カリスの名を呼ぶ。

「はい」

すずやかな響きの声が凜と響く。

どんな奴だと壇上を見ていたら、とても小柄な男の子が答辞を述べていた。

薄紫色掛かった白銀の髪を後ろで一本の三つ編みに結わえ紺碧色の瞳は涼やかな印象があり入学する女生徒の大半の心を掴んでいる。

顔も中性的な感じでとても整っており物語に出てくる王子様さながらの風貌で正直男の自分からしても眼福(がんぷく)ものだ。

しかし、目を蕩けさせている女子とは反対に殆どの男子生徒が苦い顔つきをしている。


判る。


自分自身でも驚いているが、同じ男に対しての感情とは違うこの表現し難いモヤっとしたこの思い。

ミッシェル・カリス恐るべし…どんだけフェロモン出してんだ。

危なく陥落される所だった。

はぁ、とため息が出そうになる。



*******



数日すると教室にはある程度のグループが出来ていたがミッシェルは未だ一人でいる様だ。

まぁあれだけやらかしたんだから仕方がない。

健気にも一人一人声を掛けているが誰も相手にしない。

何故自分の所に来ないのか?面識は無くても総代の件で手紙を送ったのだからあちらから何か言ってきても良いものだが…。

流石に王族と話すのは気が引けるのか?

そんな事を考えながら私は日々ミッシェルを観察しながら公務を教室に持ち込んで処理していた。

だからケヴィンが来た時も近くで動向を伺っていたのだ。



その日、魔法騎士の第三分団長が指導の為に数人連れてきた部下と共に模範演技をしていた。

正直、私は仮ではあるが第二分団に席を置いている。

それがどう言う事かと言うと、こんな指導を受けるまでもなく剣に魔法を乗せる事が出来ると言う事だ。

軽く3つ程剣に魔法を乗せてやると回りのクラスメイトは感嘆の声を上げる。


ふん。

どうだ。


得意気にミッシェルの方を見ると第三分団長のケヴィン・ラハンがミッシェルの方へとツカツカと向かって行くのが見えた。

「どうした。やり方が分からないか?」

そう言って手を乗せる。

何か凄く親しげだな…。

何とはなしに口の動きで言葉を読んでいると

「昼休み裏庭で待っている。弁当宜しくな」

裏庭?

弁当?

ケヴィンからミッシェルへと視線を戻すと、ミッシェルの頬が紅潮している所だった。

何だその顔は!

はにかんだその顔は妙に胸に残った。

何だろう…。

アイザックは無意識に胸の所の服を握りしめた。



昼休み、ジャックにミッシェルの足止めを頼んだ。

勿論こっそり二人の事を観察する為、先に陣取るのが目的だ。

決してそこに他意はない。

多分二人は大きな木の木陰に陣取ると踏んで、真後ろの木の影に隠れた。

何度も言うが他意はない。

決してストーキングでもない。


数分するとケヴィン・ラハンが裏庭に着く。

案の定自分が隠れている木の反対側に陣取った。

クスリと何故か笑いが聞こえたが、隠密行動中の為に息を潜めていた。

間もなくしてミッシェルの声がとても嬉しそうに響く。

「ケヴィンお兄様。遅くなり申し訳ございません」

お兄様?

確かミッシェルはカリス伯爵家の縁者のはず。

疑問に思い耳を済ませていると、どうやら食事が始まったよ様だ。

「今日はお兄様に会えるとお話ししたら、料理長が気合いを入れてお兄様の好きな具材を沢山入れてくれましたの」

まさかの兄弟か!

するとミッシェルはラハン公爵家の第三子になる。

頭でラハン公爵家の家系図を思い描く。

確か公爵婦人がカリス家の出だったはず。

そう言えば上の兄弟も入学当初はミッシェルと同じカリス伯爵家の縁者として入っていたな。

あの変人宰相の考えそうな事だが、実際翻弄される家族はたまったものではないだろう。

しかし、そう言う事なら合点がいく。

頭が良く魔術に長けているのは父親系統。

文武に優れるのは母親系統と言った所か。

そんな風に考えていると、二人の会話は更に盛り上がっていた。

「嬉しいな。久し振りに好物にありつけるよ。宿舎の厨房は質より量だからね。後で料理長にお礼を言っておいてくれ」

「はい。もちろんですわ」

何か兄弟の会話と言うより…。

アイザックは身の置場に困る思いだった。


二人は食事を始めると

「お兄様お口にソースが」

とか

「お兄様それは私が狙っていた物でしたのに」

と言うミッシェルに

「一口だけだぞ。ほら、あ~ん」

とかバカップル丸出しの会話が続きアイザックは頭痛を覚えた。


食事も終盤になった頃ケヴィンがアイザックの事を誉め始めた。

「やはり殿下は凄いな。難なく魔法を3つも剣に乗せていた」

何?

何?

私の事か?

当たり前だろう。

アイザックは満更でもない顔で頷くとそれを否定するミッシェルの言葉で撃沈する。

「お兄様だって凄いですわ。本日は殿下と同じ3つの魔法しか乗せておりませんでしたが、本当はもっと乗せられる事も私は知っているのですのよ。殿下なんて目じゃないですわ」

悪かったな。

3つしか乗せられないんだよ。

どうよ!と言わんばかりに兄をべた褒めするミッシェルに心の中で悪態をつく。

「伊達にお兄様はこの若さで魔法騎士団の団長をしてはおりませんわ」

私だってここを卒業した暁には騎士団第二分団長及び総司令次官の位を拝命する事になっている。

第三分団長とは格が違う。

そんな事を思っているアイザックの脇で更に昼メロドラマは繰り返された。


大体なんなんだ兄弟のくせして「私の理想そのもの」ってブラコンにしてもたちが悪い。

さっきから訳も解らずイライラしている自分がそこにはあった。

大体もってこんな風に他人を気にする事も珍しい。

半ば拷問にも近い兄弟の会話にイライラしているとケヴィンがすっと立ち上がり

「頑張れよ」と一言言うとその場を離れて行った。

ミッシェルは楽しそうにバスケットを片付けている。

その後ろ姿を見ていたら凄く残忍な気持ちが沸き上がって来て、気が付いたら後ろから声をかけていた。


「君はラハン公爵家の第三子になるのかな」


嫌味を含んだ声に振り替えるミッシェルはとても驚いた顔をし、一瞬後にはとても青い顔をしていた。

「ひっ…で…殿下」

ミッシェルは思いっきり顔をひきつらせながらアイザックを見る。

いいねその顔。

凄く良い。

何処までも残忍な気持ちを隠すことなく更に追い討ちをかける。

「お化けでも見た様な反応ありがとう」

にこやかに、けれど残忍めいた顔で

「でも驚いたな」

と、とても楽しそうに笑って見せると

「何の事でしょうか」

と、とぼけるミッシェル。

後が無いことは分かっているだろうに。

冷ややかな眼差しを向け

「さっき一緒にいたのは魔法騎士団第三分団長ケヴィン・ラハンでラハン公爵家の第二子。そんな彼を君は『お兄様』と呼んでいたよね。因みに女言葉だった」

とミッシェルに言い訳出来ない様に言葉を落とす。

まさかミッシェルがおネェだとはな。

まぁ時々違和感があったからそれは良いが、さてどうしようか。

「君にそういう気があるとは知らなかったが、他人の趣旨趣向にとやかく言う気はないから安心して」

「へっ?」

ミッシェルは鳩が豆鉄砲でも食らった様な顔になる。

「同性愛者でなければ、おネエ系でも全然私は気にしないから」

あくまでも寛容な振りをして努めて優しく言うとミッシェルは安心した様にそっと胸を撫で下ろす。

あどけない顔でアイザックを見るミッシェルにアイザックはまた胸にモヤっとしたものを感じる。

安心しきった顔でこちらを見ているけど…

ごめんね。

逃がさないから…

「ラハン公爵家は成人前はラハン家の者だとばれない様にしなければならないんだったよね」

ミッシェルははっとした様にアイザックを見る。

「私にばれちゃったね。困ったよね」

意識して人の悪い笑みを称える。

「ねぇ。皆には黙っていてもらいたい?」

小動物の様にプルプルと怯えている様子に変なスイッチが入ってしまう。

「はい」

顔を引きつらせつつミッシェルはアイザックを見続けながら言う。

あぁ、今初めて君は私を見ているんだね。

凄くゾクゾクする。

「黙っている代わりに、デビューするまでの半年間私の小間使いをしてもらおうかな」

アイザックは不適な微笑を浮かべてミッシェルを地に落とした。


「嫌だなんて言わないよね」


悪魔の様な眼差しを向けて、それはもうとても嬉しそうに囁く。

アイザックは自分の知らない一面を感慨深く感じていた。


きっと楽しい半年間になるよ。

だから、絶対に逃さないから…。



お読み頂きありがとうございます。

また読んで頂けたら幸いです。

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