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アイザック2

入試の結果を通達した1時間後。


「この通知について聞きたい」


まさかの王子来襲に硬直してしまった士官学校事務職達。


「私が次席となっているが首席は誰なんだ」


有無を言わさぬ言葉に士官学校事務局長ウィル・ド・ラクーンがアイザックの前に出て来た。

「騒々しいですよ。アイザック殿下」

アイザックの目の前に金髪碧眼の見慣れた容姿が現れた。

一瞬にしてアイザックの顔色がなくなる。

「こんな所で立ち話もなんですので奥の部屋へどうぞ」

冷ややかな眼差しのウィル事務局長がアイザックを促す。

「叔父上…」

アイザックはバツが悪そうな顔になるとそのままウィルの後に続き奥の部屋へと移動した。


通された部屋は来客用の部屋で調度品に贅を凝らしたものだった。


二人がソファーに着くと年配の女性がティーセットを持って入室する。

ウィルはティーセットを女性より受け取るとそのまま退出させる。


「まぁ一口飲んで落ち着こうか」

そう言うとウィルは手ずからティーポットを持つとカップへと紅茶を注ぎ、アイザックの目の前にカップを差し出す。

数分の沈黙の後、堰を切った様にアイザックは言葉を発した。

「叔父上。取り乱してしまい申し訳ございません」

深々と頭を下げるアイザックは苦悶の表情だった。

「王族が軽はずみに頭を下げるものではない」

ウィルはそんなアイザックを叱咤する。

表情の読めないウィルにアイザックは暗澹(あんたん)とした表情になってしまった。



ウィル・ド・ラクーン

彼は現国王の末弟でアイザックの叔父にあたる。

まだ結婚をしていない為に王家に席を置いていた。

年は今年28になったばかりとまだ若い。

小さい頃は兄弟共々『大きい兄上』と慕っていた。

だからこそ分かる。

顔にこそ出ていないが自分の軽はずみな行動にウィルが憤っている事が。



長い沈黙が二人を包みアイザックは居たたまれなさに紅茶を飲んだ。

カップが空になる頃アイザックは意を決して言葉を紡ぐ。

「叔父上。いつからこちらに?」

とても静かな問にウィルは顔を上げる。

「本来なら新学期からだったが、仕事の把握をしたかったので一足先に赴任した。正式な通達は来週になる。故に、人事を知っているのはごく(わず)かだ」

「そうでしたか…」

自分が知らない理由が分かりアイザックは肩を落とした。

自分だけ知らなかったのではないと…。

「入試の結果だったか?」

ウィルは興味なさ気に水を向ける。

「首席の名前はどうせ直ぐに分かるから言ってもかまわないが」

暗にそれまでは他言無用と目で訴えて来るが、アイザックとしては破格の対応なのは分かった。

「是非とも知りたいです。叔父上教えて頂けますか?」

自分はその為に来たのだからと強い眼差しでウィルを見る。

「うむ。首席はミッシェル・カリスだ」

「ミッシェル・カリス…。カリス伯爵家の者ですか?」

「いや。伯爵家ではない。伯爵家の縁者だ」

「只の縁者?その様な者に私は負けたのですか?」

「納得いかぬか?」

「勿論です。もし可能であれば成績を拝見したいのですが…」

「それで納得出来ると?」

「出来ませんが、出来る様に努めます」

「相変わらずだな…」

ふうとウィルはため息をつく。

「ところで総代の件だがミッシェル・カリスから辞退したい旨の話が来ている。慣例に(なら)い次席で王族でもあるアイザックにやってもらいたいのだが」

一瞬にしてアイザックは眉をひそめる。

「叔父上。それはお断り致します。ミッシェル・カリスには私からも総代をする様に手紙を書きましょう」

正直お情けで総代をさせてもらおうなんて考えられないし、後から次席で権力に物を言わせて総代をしたなどと有らぬ噂がたっても困る。

「分かった。手紙を書いたら私からも一言添えたいので私に寄越してくれ」

「分かりました」

「うむ。成績か…」

ウィルは頭に手を当てると数分考えにふける。

一つ大きな息を吐くと部屋を出て行った。

アイザックは無理難題を言っている自覚があった為、ウィルに呆れられたと思い項垂れてしまう。

しかし、数分して戻って来たウィルの手には数枚の紙が握られていた。

「これは極秘事項だ。他言はするな」

ウィルはそう言うとアイザックへその紙を渡す。

書かれていた物は入試結果内容だった。



アイザック・ド・ラクーン


学業成績

平均点数99

武術 ハイマスタークラス

剣術 ハイマスタークラス

魔術 マスタークラス

魔力値4500


自身の結果に満足気に口角が上がる。

次の紙を見るまでは



ミッシェル・カリス


学業成績

平均点数オールパーフェクト

武術 ハイマスタークラス

剣術 ハイマスタークラス

魔術 ハイマスタークラス

魔力値6000



あり得ない…。

それになんで私は平均点数99なのにミッシェルはオールパーフェクトって書かれているんだ?


「なんでここだけ数字ではないのですか?」

思わず指摘してしまう。

「今だかつてない成績だったのでな。今回を逃したらオールパーフェクトなんて成績書けないだろうと思ったんだ。なかなかナイスだろう?」

要らんからそんなアイディア。

アイザックは半眼になってしまう。

それにしても、なんだこの魔力値!

王族ですらないのに…否、貴族でさえないのにこの馬鹿げた数値は何だ!

王族を軽く凌駕しているぞ。

兄上でさえ自分とそれほど変わらないというのに…。

「何ですかこの魔力値。これじゃ魔術師団長並の魔力値ではないですか」

確か今の魔術師団長はラハン公爵の弟だったな。

歴代でも一二を争う程の実力者と言われているが、公爵家の者ならそれも頷けると言うもの。

アイザックは簡単な家系図を思い出す。

「そうだね」

アイザックの主張に何の感情もなくウィルが応える。

「それで貴族でないなんて冗談にも程がある」

なおもアイザックは食い下がった。

「結果は事実だ」

うっすらと目を細目ながらウィルは言う。

「…」

何も言えずアイザックは次の紙に手を掛けた。

次の紙は皆の成績が順番に書かれた物だった。

以外だったが、ジャックは3番だった。

しかし、次席と3番の能力差が開いている事に驚きもあった。


自分が出来ないのではなく上には上がいたという事か…。

ライアンの言う通りだったな。


項垂れたままアイザックはウィルにその紙を返した。

必要な情報は見たと…。

故に最後の紙に書かれていたミッシェルの本当の素性を知ることも女性である事にも気付きもせずに。

ウィルは苦笑しながらその紙を受け取った。


『これも運命なのかな』


可愛い甥っ子の手助けになればと余計な事をしようと思っていたが、どうやら本当に余計な事だったのかも知れない。

ウィルは一人納得するとアイザックへ再度紅茶を注ぐ。


確かに。

この時その事を知らなかったからこそ、二人はあんな事になったのだからウィルの思った通り運命だったのかもしれない。

お読み頂きありがとうございます。

書いている内にミッシェルはほぼ満点ではなく満点になってしまいました。

冒頭は折を見て修正致します。

また読んで頂けたら幸いです。

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