素直になれなくて
一方、村外れの水汲み場にて。
「……はぁ、本当にしつこいよな、あの兄ちゃん」
水汲みに使用する桶を井戸の傍に置き、小さく溜め息を吐く翔。
……それでも、内心気付いてはいた。
自分の父親と母親が死んでしまったのは、決して千影のせいではない事。
千影を恨んでも、両親が帰ってくる訳ではない事。
そして何より、英雄とはあくまで炎の事であり、彼自身ではない事。
「分かってる。分かってるよ。でも……」
それを認めてしまったら、許してしまったら。自分の運命は、両親の死は、”仕方のない事”として諦めるしかなくなる。
たとえ強情だと分かっていても、素直じゃなかったとしても。翔には、反発する以外の選択肢が思い浮かばなかった。
誰かのせいにしなければ、その事実がなくなってしまうような気がしたから。
それでも、やはり千影には悪い思いをさせてしまったと。翔自身、心の奥底で申し訳なくは感じていた。そうでなければ、こうして千影の事を考える必要もない。
「……話くらい、聞いてやるべきーーだったかな……」
ポツリ、井戸水に映る自らの姿を眺めながら。
翔はそう、自分に言い聞かせるように呟く。少しくらいは、自分も素直になるべきなのかもしれない、と。
ーーその時。