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転生絵巻~テンショウエマキ~  作者: 木霊百合
一ノ巻.宿命(さだめ)
6/9

未だ遠き、和解への道

ーー数十分後。



「成る程、此処があの坊主の家か」



無事に握り飯を食し終え、千影は遼園と共に、改めてその場所を訪れる。


小さな掘建て小屋、とでも呼ぶべきか。その様相は、子供一人が何とか住める程度の簡素な造りのものだった。



「贅沢な暮らしーーとは程遠い感じだな」


「小百合様は天照(あまてらす)に住んでも良いと、そう何度も申されたそうなのですが……」


「成る程、本人の意志ってやつか」



そう確信めいた口調で話し、翔が思い描いていた通りの人間である事を理解すると、堪らず苦笑する。



「かなりの強情者だな、あいつも。ま、俺も昔はそうだったが」



そう口にしながら、小屋の目前へと潔く歩み寄った。


そのまま徐に手を伸ばし、引き戸を小さく叩きかけてーーしかしと、その行為は直ぐ様不発に終わる。


千影がその行為をするより早く、引き戸が小さく音をたてて開いたから。



「ーー!?」



驚愕しつつも瞬時に身を引けば、そこには水桶を握り締める翔の姿。


しかしこちらが想定外の来訪者であるにも関わらず、翔は千影と遼園を一瞥しただけで、特に気にした素振りもなく淡々と歩き始めた。



「ちょっ、おい待て!」



その小さな肩を、瞬時に千影が掴む。


それでも変わらず無表情な様子で、翔は千影に向け淡白に返す。



「……なに、兄ちゃん達」



そのあまりに素っ気のない応答に、千影の口調も幾分か強さを増した。



「何、ってこたぁねぇだろ。俺にあんな失言しといて」


「俺は事実を口にしただけだけど」


「……んだと?」



不意に眉を寄せた千影に、翔は更なる暴言を浴びせる。



「ーー英雄かぶれの癖に」



その一言が、千影の機嫌をより一層悪化させる結果となった。



「おい、勘違いすんなよ坊主。英雄ってのは周りが勝手に言ってるだけでーー」


「じゃあ、何? 英雄じゃないなら何だって言うの?」


「何って、そりゃあーー」



千影がその続きを話すより先に、翔は深く溜め息を吐き、そして冷淡に言い放った。



「いい身分だよね。みんなから崇められて。小百合様からも贔屓されてさ」


「おい、だからこっちの言い分もーー」


「俺、水汲みに行かなくちゃなんないから」



そうして千影の手を振り払い、再び水桶を手に歩き出す。


何とも無遠慮なその対応に、千影は怒りを露わにしながら吐き捨てた。



「ちっ、昔の俺はもうちょい素直な人間だったぞ!」


「……何か、最初と言ってた事変わってますね」


「細けぇ事ぁいんだよ! ったく……」



ぶつぶつと小言を並べながら、千影はぶっきらぼうに開かれた小屋の中へと足を踏み入れる。



「ちょ、千影様!?」



遼園がその行為の真意を目線で問い掛ければ、千影はそれに力強く答えた。




「ーーこうなりゃ、持久戦だ」




そう言いながら草鞋を適当に脱ぎ捨て、居間の中央へと歩み寄り、その場で堂々とあぐらをかく。



「えっ、千影様、稽古は!?」


「それどころじゃねぇし」


「……騙しましたね」



ゴゴゴゴゴ、と何やら遼園の背後で激しい何かが燃え上がるのを感じた。



「待て遼園。分かってる、分かってるから一旦落ち着こう、な?」



そうして妖術発動の構えをしていた遼園を、千影は慎重に、かつ迅速に諭す。



「小百合だって、あの坊主の事気にしてたんだろ? それなら俺の行為は、稽古に行くより断然意味のあるものだと思うぜ」



その言葉を耳にし、恐らく納得したのだろう。遼園は突き付けていた左手を降ろし、静かに頷きを返した。


そうして玄関脇の段になっている所へと腰を降ろし、改めて話し出す。




「分かりますか、千影様にも」




その疑問符に、千影は小さく首を縱に振った。

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