英雄への非難。
少年が即座に背後へと視線を向ければ、そこには十二、三才程の小さな男児の姿。
足早に少年の元へと駆け寄り、そして足を止めた。
「うおっ、これお供え物だったのか!?」
咄嗟に状況を理解し、即座に林檎を元の場所へと戻す少年。
そして、直ぐ様弁解した。
「ははははっ!! いや、このリンゴ虫食ってねーかなって思って確認してたんだよ! 本当に!」
ーー当たってはいるが。
「ん? 兄ちゃんその痣、もしかして炎のーー」
すると男児は、両頬の刻印を見るや否や、改めてその事実を少年へ向け問い質してくる。
「あー、分かったから小百合には内緒にしてくれ。あいつ説教長いんだよ」
「……」
「てかこれ、あんたの親の墓か? 随分と粗末なもんだなぁ。こんなとこにあったら鬼に荒らされるぞ、おい」
言いながら千影は積み上げられた小石を見遣り、再び言葉を繋げた。
「誰かを埋葬する時はだな、もう少し時と場所を考えてーー」
「……にが、英雄だ」
「ん? 何か言ったか坊主?」
ポツリ、呟き声を発した男児へ、少年は俄かに疑問符を浮かべる。
次の瞬間、男児が潔く言い放った。
「何が英雄だよ! 十年前、誰も救えなかった癖に!!」
その言葉に、指摘に、少年の動きが、瞬間的に停止する。
「英雄なら、何で父ちゃんと母ちゃんを救ってくれなかったんだ!! 炎の生まれ変わりなんて、本当は嘘っぱちなんだろ!!」
その鋭い罵声が、思いが、少年の胸に重く、深く突き刺さる。
「俺は信じない、小百合様もお前も炎も。みんな大っ嫌いだ!!」
そうして吐き捨て、今度は勢いよく山道を駆け降りていく。
「ちっ……おい待て坊主!」
即座に後へ続こうとした少年の身体は、次の瞬間豪快に地面へ伏せる事となった。
「ぐふっ!!」
何事かと視界を上げれば、真上に一人の青年の姿。
「捕まえましたよ、千影様」
少年、千影の体を羽交い締めにしながら、緑髪の青年はにっこりと端正な笑みを浮かべていた。
「……遼園、お前どんだけタイミング悪ぃんだ」