少年、稽古サボる
「あ~あ、今頃小百合の奴騒いでんだろうなぁ」
同じ頃、天照の神社から少し離れた山道にて。
緑の草花と、家屋三階建て分くらいはありそうな程の高さを誇る巨木が、辺りに鬱蒼と生い茂っている。
そしてその頂点付近にある枝に凭れ、少年は小さく欠伸を漏らした。
紅色に染まる両眼の下に、紋様のような印を浮かび上がらせている。
「ふぁ~あ。まぁ稽古っつったって、どうせ毎日同じ事の繰り返しなんだろうけどな」
そう言い切ると同時に両手を頭部へと回し、巨木の幹へと寄りかかった。
「な~にが英雄だ、やってられるかっての」
そうして気怠そうに瞼を閉じ、少年は眠りの態勢へと入る。
が、その時ーー
ぐぎゅるるる~
と、何とも間の抜けた音が少年の腹部から響いてきた。
「……やべぇ、そういや朝飯まだだったな」
眠気より食い気の方が勝ったのか、再び瞳を全開に開き、体をゆっくりと起き上がらせる。
「先に飯食ってからにすっかーーよっ、と」
そう口にしながらも飛び降り、高さ数十メートル程もあろう巨木から、両足で華麗に着地を決めてみせた。
「さて、と、近くに何か食べ物はーー」
そうして辺りをしきりに見渡してみれば、やはりと言って良いか、眼前に広がるのは明らかに食べにくそうな木の実と葉っぱ、緑の草花と立ち並ぶ木々のみ。
「まぁそうだな、こんな村はずれに都合よく食べ物がある訳ーー」
と、言いかけたところで、少年は思いがけない光景にふと動きを止める。
何故ならそこには、林檎や梨、蜜柑と言った色とりどりの果物が、積み上げられた小石と共に存在していたから。
「……マジか、探してみるもんだなぁ」
その事実に多少驚きはしたものの、しかしこの周辺に住む鬼や動物達が残していったものと考えれば、さほど珍しい事ではない。
すかさず果物の傍へと駆け寄り、少年は舌なめずりをする。
「へへっ。こんなところで虫の餌になるくらいなら、俺に食べられた方が何億倍もマシってもんだろ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、徐に、手近にあるリンゴを拾い上げた。
自らの衣服ーーそれも極力汚れの少ないところで軽く拭った後、入念に周りを確認する。
「……マジで虫、いねぇよな?」
その単語に特別含みを持たせ、林檎を何度も右掌の上で回しながら視認する。
ーーと、その時。唐突に、背後から甲高い声が響いてきた。
「お前っ、父ちゃんと母ちゃんのお供え物に何してんだっ!!」