表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生絵巻~テンショウエマキ~  作者: 木霊百合
一ノ巻.宿命(さだめ)
2/9

確かな英雄の証。刻印人種。

「しかしあいつの奔放ぶりにも困ったものだ。最近ますます悪化しているように思える」



そうして湯のみを盆へと戻し、小百合は溜め息混じりに小言を漏らす。



「まぁ、それを制御しきれていない私の責任とも言えるがな」


「小百合様はよくやられていますよ」


「……いや、それでも未だに母として見られてはいないだろう」



その事実を再確認するように呟き、小百合は怪訝そうに眉を寄せた。



「十年前、私はあいつの本当の母親を見殺しにしたのだからな。(ほむら)の刻印を守る為とは言え、非情な決断をしてしまったと思っている」



会話を続けながらゆっくりと千影の寝室へ足を踏み入れ、散乱していた本の一冊を手に取る。


表題『仁珊の英雄』と書かれた表紙の隅には、”著・紅葉志史”の文字が小さく記されていた。



(ほむら)様ーー千年程前、この国、仁珊を鬼の脅威から救ったと言われている三英雄の一人、でしたね」



確かめるような遼園の問い掛けに、小百合は手にした本を壁際の本棚へと仕舞いながら、大きく頷いた。



「あぁ。千年前の争いは、十年前の悪夢再来より壮絶なものだったと聞く」



その事実を話し、本棚へと背を向け、そのままもたれ掛かる。



「その圧倒的不利とも言われた戦いを終結へと導いたのが、(ほむら)含む三人の英雄達の存在だ。私の祖先、朱鷺(とき)もそのうちの一人である事は、既にお前も周知の事実だろう」



小百合の確信めいた口振りに、遼園は穏やかに肯定の意を唱える。



「えぇ、小百合様の予知能力は朱鷺(とき)様譲りのものですから」


「私のこれは八咫鏡(やたのかがみ)あってこそのものだ。朱鷺(とき)のような天性のものではない」



そうして即座に指摘し、不意に小百合は、障子の先に広がる緑の大地へと目線を向けた。


そこから入り込む穏やかな風に、彼女の端正な紫髪が(なび)く。



「あの両頬に示された刻印こそ、英雄である何よりの証拠。我が先祖、朱鷺(とき)の言伝を守り、それを全うする事こそ、我々天照(あまてらす)の巫女に与えられた使命でもあるのだからな」



ふと差し込む陽光に、彼女の白い素肌が照らし出される。



「『(ほむら)の魂、長き時を経てこの地に蘇る。仁珊に再び嵐吹き荒れる時、鏡は(ほむら)の刻印を示す、確かな鍵となるだろう』」


「……朱鷺が残した、最期の言葉ですね」


「あぁ、そしてその予言は的中した。あやつーー刻印人種の存在が、何かしら意味のあるものである事もまた確かなのだ」



その事実を改めて強調し、小百合は遼園へと向き直り鋭く言い放つ。



「恐らく、全てはまだほんの予兆に過ぎん。これ以上仁珊を危機に晒さぬ為にも、あいつに英雄としての自覚を持ってもらわねば」



そう言い切る、小百合の瞳には強い決意と志が宿っている。



遼園の顔付きも、徐に神妙なものへと変化していった。



「小百合様……」



彼女の名前を口にし、改めて付け加える。



「何処までも貴方にお供致します。力になれる事があれば、遠慮なくお申し付け下さいませ」


「あぁ、そうして貰えると有り難い」



主従の絆、と呼ぶに相応しいか。二人の間には、月並みの人間には存在しない確かな信頼関係があった。



「何はともあれ、千影を探さなくてはな。遼園、後は頼む」


「承知」



そうして短く了承し、遼園はゆっくりと両目を閉じ、何かを唱え始める。



次の瞬間、彼の身体はゆらりと空気中に溶け、その場から消え去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ