地下勇者
いつものように使者がきた。
今回の魔王は庭の穴に巣を作っただそうだ。
……なめとるのか、そんなアリの巣のような魔王水を流し込んで溺死させてしまえ。
数日後使者が再びやってきた。
なんだ、魔王を溺死させられんかったのか?
なに? 魔王は無事溺死したが新しい魔王が王都の地下に迷宮を作って困っている?
まぁ迷宮を作るのは魔王の習性だからな。
それにしても王都の真下か、いや実は珍しいことではないんだ。
魔王とは意味のある所に迷宮を建てたがる、狂王とか大魔術師とか呼ばれた魔王もわざわざ交通の便の良い町外れに迷宮を作っていたしな。
街の繁栄と迷宮は切っても切り離せないのが現実だ。
何で町が繁栄するのかって? それはあれだ、冒険者や騎士が名誉を得る為、一攫千金の為やってくる、そうすれば宿や食堂、武器屋に道具屋に神殿と大もうけだ、迷宮側も餌である人間が勝手にやってくるので入れ食い状態だ。
WINWINな関係なのだよ。
だったら勇者召喚する必要は無いのではって?
それを言ったらおしまいだ、と言うかだな、国としては邪悪な魔王に立ち向かうと言うポーズが必要なのだよ。そうしないと国民からサボっていると思われるからな。
貴族が贅沢できるのは貴族の仕事をしているからだ。
だからサボっていると思われないためにも勇者と言う看板が必要なのだ。
ところでこれは使者と言うか人間にはナイショなのだが実は魔王側も同じような所があったりする。
魔王が部下を養うためには人間の魂や肉、魔力を喰らう。
そのために効率がいいのが勝手に人間がやって来る迷宮と言うわけだ。
魔王としては迷宮の奥深くに潜んで人間が罠に掛かるのを待つだけで良いのだが部下の中には人間を支配して魔族の世界を作りたいというものたちも少なくない。
だからそういった連中の意識を逸らすために罠の数を程々にして要所をやる気の在る魔物に守護させる。
いわゆる階層ボスというやつだ。
こうして人間と魔族の利益が複雑に絡み合った迷宮が出来上がる。
そう言うわけで迷宮探索と相性の良い勇者が呼ばれるようにしないとな。
改良した魔方陣で勇者を召喚する。
今度の勇者は……
土竜だった。
どりゅうでは無くモグラの方だった。
これはいかんな、流石の私もモグラを勇者と言って引き渡すわけにもいかん。
さてどうしたものか。
するとモグラが言った。
「なるほど分かりました、地下の平和を乱す者を退治すれば良いんですね」
言うなりモグラは地下に潜って言った。
最近のモグラは喋るんだな……さて使者達にはなんと説明したものか。
1週間後、使者達がやって来て迷宮の拡張が止んだと報告を受けた。
迷宮の拡張が止まるとはすなわち支配者である魔王が死んだということ。
つまり勇者が勝ったのだ。
使者達は報告を終えると同時に王都に帰って行った。これから迷宮の後処理が待っているそうだ。
その数日後、モグラ勇者がやって来た。
「どうも、無事魔王らしき存在を退治しました」
ご苦労様、魔王ってどんなヤツだったんだい?
「ええとですね、色々いて分かりませんでした。なので手当たり次第穴に引きずり込んで始末しました。
あとでっかい虹色のミミズが居ましてね、とても美味しかったです」
ああ、オチが読めた。