表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: あまやま 想
書店物語【女性視点】
9/21

書店物語【女性視点】(1)

 もうすぐ一年が終わろうとする年の暮れ、五年ぶりに大学のある町に戻ってきた。この年は本当に不運な一年だった。父と母を相次いで亡くした。また、上司との不倫が奥さんにばれて、職場を追われるようにして辞めた。


 大学時代の思い出が詰まったこの町には、不思議と嫌な思い出がない。振り返れば、人生の中で大学時代ほど楽しいときはなかったと思う。そんなことを考えながら、私は新居の片付けをゆっくりと進めていた。


 年が明けてから、ようやく引越しのときに使ったダンボールをきれいに整理して、家具の位置も納得のいくものとなった。すると、急に暇になってしまった。


 そこで私は大学の頃、よく行っていた「大橋書店」に行くことにした。おじさんとおばさんは元気にしているかな? ついでに今話題の「アホの壁」でも買って帰ることにしよう。


 店に着くと、そこには懐かしい雰囲気が漂っていた。年が明けてすぐだから、店には誰も客はいなかった。残念ながら、レジにいるのはおじさんやおばさんではなかった。


 それにしても暇だからと言ってレジで店員が眠りかぶるのはどうかと思う。思わず、いたずらしたくなった。


「あのー、すみません。『アホの壁』って本を探しているんですけど…」


 私はわざと大きい声で店員に尋ねてみた。店員はよほどびっくりしたのか、イスから落ちそうになったほどだ。私はそれを見て、笑いをこらえるのに必死だった。


「何の本を探しでしょうか?」


「『アホの壁』を探しているんですけど…。見つからないんですよ」


 店員が何事も無かったかのように顔上げた際に、今度は大声を上げそうになるほど驚いた。そして、一気に顔が引きつる。


 なんで昔、付き合っていた彼氏とこんな所で再会しないといけないのだろう…。いや、そんなはずはない。彼は東京で働いているはずだ。


 ここで働いているはずなんかない。そう思いたかったけど、ここにいるのは紛れもなく平賀雄太だった。一応確認してみる。


「もしかして、平賀君?」


 彼は黙ってうなずいた。彼はようやく私に気付いたらしい。私はすぐに気付いたのに…。これだから男はダメなんだ。


「中松さん、久しぶりだね。元気にしてた?」


 あまりにも突然すぎて、お互いにぎこちなかった。まあ、何の前触れもなく、突然五年ぶりの再会をしたんだからしかたない。でも、これが運命の再会にはならないだろうと私は確信していた。


「平賀君、エンジニアの仕事を辞めてから、地元に戻ってきたんだね。私もここに戻ってきたの」


 私は彼が本を探しているのを見ながら、当たり障りのない事実を述べた。二人の数少ない共通点。思った通り、彼はこの話に食いついてきた。


「ここに戻ってきたって、どういうこと? ここは中松さんの地元じゃないでしょ?」


 わたしはどうして、ここに引っ越してきたのか、そのいきさつを雄太に分かりやすく話した。彼は本を見つけて、レジに向かいながらも真剣に話を聞いてくれた。


 そのことがとてもうれしかった。思わず、昔のことを全て水に流そうと思ったほどだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ