はろうぃん怖い(4)
しばらくすると孫娘のほのかがいる集団がやって来た。魔女の宅急便のキキやら、ワンピースのあばずれ女やら、ポケモンのピカ何とかやら、今流行の名前が分からないキャラクターの格好をした五人組がやって来た。
「トリック・オア・トリート…」
この集団も他の集団と同じように、忍が玄関先で布団を強いて寝ている姿をみて言葉を失う。忍は心の中でニヤニヤしていた。
「ほのかのばあちゃん、どうしたの?」
当然の疑問だろう。十代後半の少女達がこの光景を見て、これがハロウィンへのささやかな抗議だと思いもしないだろう。それどころか、何事かと心配するのが当然である。
「ばあちゃん…、こんな所で何やってるの?」
ほのかの声がさっきとうって変わって弱々しい。先程、ほのかが出て行く前に説明できれば良かったのだが、ほのかが出て行った後に思いついたから仕方ない。
しかし、ほのかには「まんじゅうこわい」の話をよく聞かせているからきっと分かってくれるに違いない。
「はろうぃん、こわいよ…」
「は?」
女子高生の集団が不安な顔で互いを見つめ合う。そして、ほのかを除く四名が一歩後ずさりした。ほのかが後ろを振り返る。
「まんじゅう、こわいよ…」
「あっ、そう言うことか…」
ようやく、ほのかが気付いてくれたようだ。ほのかが他の四人にごにょごにょとささやく。すると、他の四名も安心したようで、いたずらっぽい笑顔さえ浮かべている。
ほのかは玄関に置いてあるクッキーの袋を開けて、忍に食べさせようとする。その間も忍はうわごとのように「はろうぃん、こわいよ…」とつぶやきながら、おいしそうにクッキーを食べる。他の四人は布団の周りにクッキーの袋を並べる。
「うちのばあちゃんね、実はクッキーが大好きなの…」
「へぇ〜」
「で、本当に怖い物は何ですか?」
ほのかの友人の一人が茶目っ気たっぷりに訪ねる。この子はきっと頭の回転が速いに違いない。
「今は熱いコーヒーが怖い…」
そして、女子高生の集団は一斉に吹き出す。きっと、全員まんじゅう怖いの話を知っているのだろう。知らなければ、こうはうまくいかない。
「ほのか、あんたのばあちゃんがコーヒー怖いってよ」
「熱々のコーヒーを入れてあげないとね」
「はいはい」
そう言って、ほのかは他の子にそそのかされて、コーヒーを入れに台所へと入っていった。
「ほのか、私の分だけでなく、全員の分を用意して上げなさい」
「はーい」
ほのかがコーヒを入れている間に、他の四名にクッキーの袋を二つずつ渡した。平成生まれの娘達が古典漫才を知っている。まだまだ日本も捨てたものでないな。忍はそう思った。
コーヒーを飲みながら、女子高生の集団としばし話をする。忍の思いを少しだけ話すと、少女達は驚きながらもこんなことを言った。
「ただ、頭ごなしに『今どきの若者は…』なんて言う私の祖母よりも、面白おかしくユーモアたっぷりに抗議できるほのかのばあちゃんの方がすごいと思います」
「最初、玄関先に布団をしいて寝ているのを見て軽く引いたけど、これも仮装の一つだと思うとなかなか面白いですね」
忍は彼女達の話を聞きながら、少し大人気なかったかな…とか、やり過ぎたかな…とか思案するのであった。
少女達がコーヒーを飲み終えて、玄関先から出て行く。彼女達を見送った後、忍は布団から出て、布団を元の場所へと戻した。それから、六個のコーヒーカップを流しへ持って行き、丁寧に洗うのであった。