はろうぃん怖い(3)
「トリック・オア…」
早速、第一陣が帆足家にやって来た。玄関先で布団をしいて寝ている忍をみて、集団はひるんだようだ。
「はろうぃん、怖いよ…」
すかさず、忍は集団に決めゼリフを言う。玄関を開ければ、お菓子を持った人がいて、「トリック・オア・トリート」と決めゼリフを言えば、もれなくお菓子がもらえるはずなのに…。この家では玄関先に老人が寝ている。にわかに集団がざわつき出す。
「お菓子はもっと怖いよ…」
忍は必死に笑いをこらえながら、体調悪そうに畳み掛ける。しかし、この集団はまんじゅう怖いの話を知らないのか、忍の演技を冗談と捉えなかったようだ。
「あの…、どこか具合でも悪いんですか?」
「大丈夫ですか? こんな所で寝ていたら、風邪引きますよ」
「救急車を呼びましょうか?」
冗談じゃない! そんなことされたら、たまったものではない。全く、最近の若者は落語も知らないのかい…。慌てて、忍は飛び起きる。
「これは私の仮装だよ。せっかく、私が和風にアレンジしたと言うのに…。あんた達は『まんじゅう怖い』を知らないのかい?」
「何ですか? まんじゅう怖いって…」
はあ、やれやれ…。乗りかかった船だ。大学生の集団にさっくりと「まんじゅう怖い」の話を教える。すると、ようやく分かったらしい。さすがは大学生である。
「ハロウィンはお嫌いなんですか?」
トラとタヌキを足して二で割ったような生き物のかぶりモノをした女子高生がかまととぶって言う。いい歳して、ピカ何とかの格好をするとは…。きっと、私はかわいいと思っているおめでたい子だね。
「ああ、嫌いだね。何も考えずに海外のまねごとをするのは…。せめて、自分なりに解釈して、日本風にアレンジするぐらいの工夫は欲しいね」
「それで『まんじゅう欲しい』なんですね…。なかなか、面白い発想ですね」
「君はよく分かっているね。クッキーを持って帰りなさい!」
タッキーによく似た男子大生は物わかりがよかったので、クッキーの袋を三つも渡してしまった。
そうは言っても、ピカ何とかの女子大生がまた何か言いそうだったので、何か言う前に他の大学生にも一袋ずつ渡してさっさとお引き取りを願った。
さて、次はどんな集団がくるかな…。できれば、「まんじゅう怖い」を知っていて、絶妙な掛け合いができる人が来て欲しいな…。
そう言う、忍の思いとは裏腹に、落語が分かる人は驚くほどいなかった。大学生ほどではないにしても、玄関で布団を敷いて老人が寝ているシュールな絵を見て、誰もが引いてしまうのである。
何でこれが分からないのか? 仮装しているあなた方も私と劣らず、それなりにシュールだと言うのに…。
中には自分のことは棚に上げて、忍に向かって、
「そのような第三者をいたずらに心配させる行為は頂けませんな。まあ、クッキーは遠慮なく頂いていきますけど…」
と言う輩がいた。誰がうまいことを言えと言った。まあ、少しは切り返しができる分、さっきの大学生よりはまだマシなのかもしれないけど…。