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短編集  作者: あまやま 想
私が変わらないと何も変わらない
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私が変わらないと何も変わらない②

 あれから随分長い年月が経った。


 父の介護に疲れて果てて、もう数え切れないほど一思いに父と無理心中したら楽だろうな…と手にかけようとしたことか。でも、父は入退院を繰り返していたから、家に帰ってきた機会にサクッとやってしまったとしても、すぐに病院からの安否確認でばれてしまうから何もできなかった。かたや、どうして親の年金目当てで逝去したことを隠して不正受給できるか不思議でならない。


 世の中は極めて質の悪い天網恢々に覆われていて、どうでも良い細かいことは重箱の隅をこれでもかとつつかれる。一方でとんでもない大悪党は平気ですり抜けて、聖人面して生きているんだから納得いかない。「天網恢恢疎にして漏らしまくり」の間違いではないでは無いかと思う。


 もう飽きるなんて生優しい言葉で言い表せないほど、ずっと同じことを考え続けた。とにかく楽になりたかった。何でこんなことをしないと行けないのか…と忸怩たる思いで生きていた。


 もう考えるのも…感じるのも、外界からのちょっとしたあらゆる刺激にさえも嫌になって、父を残してでも1人で旅立とうと考え始めた矢先、父はあまりにもあっけなく逝ってしまった。


死因は食事を喉に詰まらせてしまったこと。


なんだ? それは…と思ったが、病院の説明によれば、だんだん飲食物を飲み込む力が弱っていたらしい。そのような説明を父の主治医から何度も受けていたはずなのに、死因説明の際に初めて聞いたような気分だった。


初めて聞いたような気持ちだと何で分かるのかと言うと、主治医から説明を受けるたびに主治医と署名を交わし、お互いに書類を持っていたからだ。あまりにも上の空だったかはか主治医がカルテに挟んだ書類を取り出して「説明した上で息子さんのサインももらってますよ」

と力強く訴える。最近は訴訟されるのが怖いから医者もきちんと対応した証拠を残すのに必死である。大正の頃よりもさらに世知辛い世の中で、夏目漱石氏もさぞかしびっくりされていることだろう。


 父が亡くなった後はこれまで介護であんなに忙しかったのに、拍子抜けするほど暇になった。仕事以外は全て自分の時間に使えることがこんなにありがたいなんて、今さらながらに知った。


介護している時は温泉行きたいとか旅行行きたいとかあれこれ浮かんでいたのに、いざ自由にできる状態になると体が思うように動かなくて、仕事以外はただゴロゴロして過ごす毎日…。よほど介護疲れしていたのだろうか? 何もやる気が起きない。

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