書店物語【女性視点】(2)
「じゃ、今この町に住んでいるんだ。いつ戻ったの?」
「年末に大学の近くに引っ越してきたの。早く仕事を見つけないといけないのに、なかなか見つからなくて大変なの」
私はお金を払い、彼は紙袋に本を入れて、私はそれを受け取った。ここで会話が終わると思ったら、会話が突然、不思議な方向に向かった。
「じゃ、ここで働かないか? ちょっと待って、おじさんを呼ぶから」
えっ、ちょっと待ってよ。私、まだ何も言ってないじゃない…と思ったときには彼は上で休んでいた店長を呼びに行った後だった。
全く…。勢いと思いつきで周りのことなんか何も考えずに行動するところは昔とまったく変わっていないようだった。お互いにいい歳になったと言うのに…。まるで大学時代と変わらないな…。
だから、ここは店長が平賀君の非常識な行動を諫めることに期待した。ところが…。
「これからはそういう事も次期店長に任せようと思う。だから、平賀君の好きなようにやっていいよ。七月までには一人前になってもらわないといけないから、いろいろ経験してもらおう」
店長はこともあろうに彼のやりたいようにやっていいよと言って、再び二階に上がってしまった。それより、こんな奴が次期店長で大丈夫なのか…。そう言えば、ここの店長はこんな感じのひとだったな…。
私はここで働きたいとは一言も言っていないのに、わずか五分ほどの間にここで働くことが決まってしまった。私、何も言ってい無いのに…。まあ…でも、仕事を探す手間が省けたし、いい仕事が見つかるまでのつなぎとして悪くないと思った。
「…と言うことは私は明日からここで働くことができるの?」
こうなったら、ここは平賀君の好意とちょっとした下心に期待しよう。ここは次期店長らしくバシッと決断して欲しいものである。
「そうみたいだね。では、明日は朝十時にお願いします」
そうみたいだね…って、何だよ。やっぱり彼は何も考えてはいない。ああ、優柔不断なところは相変わらずだな…。まあ、ここは彼に感謝しておこう。
「わかりました。それにしても、平賀君ってここの次期店長なんだね。よく頑張ったね。私、見直しちゃった。じゃあね」
そう言いながら私は店の外に出た。彼はうれしそうに手なんか振っている。男って本当に単純だ。