魔女の条件2.5~微笑みの裏と魔女
前作のあらすじ。
街中を歩いていたら、突然美形に襲われた一人の女の子。
彼女を問答無用で助け出した男は、犯人を警察に引き渡した後で合法的に拉致ったのでありました。
だけど彼女の知らない所で男には、二人が気が付かない所で運命は繋がっていたのです。
...うん、あんまり間違ってない(そうか?)
目の前にある光景に対して、一人の男性が内心でため息を漏らした。
判ってる、判っていた事だと己に叱咤激励をするものの、実のところを言えば「知った気になっていただけ」だと言う事に気がついた瞬間でもあった。
彼の目の前にあるのは、家族だった。それは良い。
母が居ないのは外出しているからではあるが、それは以前から聞かされていた町内会のオバサマ達限定旅行の為で父親が呪いでもかけそうな表情をこっそりしていた事を知っている身の上としては近所迷惑は勘弁して欲しいと思うし、さらりと「いかに母親がご近所の方々に愛されており日帰り旅行を楽しみにしているか」と言う事を語っておいたので何かしたりはしないだろう……恐らく。
あの無理難題父親は結局のところ、世間で言うところのヤンデレのバージョンアップ版であり。
天然無頓着母親はつまるところ、無意識で父親を掌の上で転がせている事に気が付かない無自覚に過ぎない。
父親が「あらゆる手段」を行使して引き寄せて手に入れた母親の為に、母親と娘には己の本性を完璧に隠し通しているのは尊敬に値すると思っているし、それに気がついてしまった己は父親の心情的に言えば本当は晒す気などさらさら無かっただろう事は理解しているが……その当たりはきちんと事情を説明する事でご勘弁いただいたのは過去の己の英断にグッジョブと言ってやりたいとたまに思う。
いや、正確には語ってしまうと父親の下僕とされるか手先となるか……同じ事か。それとも消されるかのいずれかになるし、それでも世間に本流とするヤンデレのパターンからすると最終的に父親と言う籠に自ら戻ってくる母親と言う前提がある以上は暴走しない点については本当に尊敬しているのだ。
どっちに対してかは内緒にしておくとして。
彼の一族は、植木と言う名前だ。
一部の人達の間では密かに「神かくしの一族」と呼ばれるのも遠い未来ではないだろうと彼は思うが、実際のところを言えば原因の1つが実の父親だと知っている以上は無駄に肩身を狭く感じてしまう。
いかに、当の神かくしされた人達があまり思いつめたりしていなくても。
「今日だったのか……」
その代わりとばかりに、自分自身はずいぶんと一族の中でも思いつめやすくなっているものだと感じたとしても。
「はじめまして、お兄さん」
「お前の兄じゃねえ」
条件反射的に答えたが、相手に堪えた様子はない。
目の前に居るのは見知らぬ他人で、知っている魂だと言う事を兄と呼ばれた彼は知っている。
しかし、見知らぬ他人である以上は彼の弟ではない……例え、実父と大して変わらぬ存在である年若い相手が将来的にあらゆる策謀を巡らせて書類上の義弟になるだろうと考えずとも予測出来てしまえるとは言っても、現時点では義理でも弟ではないし呼びたくもない。
べり
突っ込みどころ満載な音をして剥がしたのは、一人の女の子だ。
兄と呼ばれた人物と似ている、雰囲気を柔らかくした感じの女の子。本人は特出した所がないと公言しているし周囲も概ね認めるが、柔らかい雰囲気からご近所を含めた周囲からの評判はまずまずで……本人が極力目立つ事を嫌っている成果だというのも理由の1つではあるが。
「大丈夫か、香織」
「……大丈夫、ありがとう。アザカ兄さん」
植木香織と呼ばれた女の子は、植木鮮花の2つ年下の実の妹だ。
身長が20cmほど異なる為に出来たのだが、香織は今にも呼吸困難で死にそうになっていた。
目前の人物のおかげで。
「大西雄介です。香織と交際を前提として結婚をする挨拶に伺いました」
「帰れ」
香織の身長は、女の子の平均程度だ。
「では香織と……」
「行かせると思うかよ、俺が殺されるわ! そもそも前提が間違ってるし、顔を赤くするなドサクサに紛れて香織に手を出すな靴のまま上がろうとするな!」
対して、実兄と見知らぬ男性はどちらも20cmほど上だ。
「ああ、すみません……香織のあまりの素晴らしさにめまいを覚えてしまいまして……」
「え、病気……」
「言っておくけどコレ天然だから……香織も、それ別の意味で病気だけど単なる計算だから近づくな。俺が親父に殺される」
「え? ……と?」
つい先程、ちょっとした事件で知り合う羽目になった香織は抱き人形よろしく抱え上げられて調べられていた自宅に押しかけられ、ぎゅうぎゅうと抱きしめらけた為に人としてはみ出ては生命に関わる何かが体から出て行きそうになっている状態だったので空気を美味しく感じた。
「大西さん……って言うんだ?」
「そこからかよ!」
「香織のあまりに可愛さに我を忘れてしまいまして……」
平均顔よりはイケメンの類になるのだろうが、雄介も香織とは別の意味で目立つ事を由としない人種なのだろう。
出かけようかと思っていた所、玄関扉を開けたら口から何かが抜け出かけた実妹を見て思わず見知らぬ他人から妹を奪い返したのは兄として間違っているとは思わない。むしろ褒められるべき事だろう。
が。
「何やら騒がしいデスネー、香織チャン帰ってキマシタかー?」
「あ、お父さん……」
知っていたのだ、アザカは。
ある事情から「全て」と言っても良いだろう様々な事を。
幼い頃は事情が解らず放っておいたし、物事を知るようになったら逃げてしまおうかと思って無駄さ加減に絶望し、そうして今は受け入れながら淡々と流すと言う事に挑戦している。
残念なのは、植木鮮花と言う人物はツッコミ体質だったと言う所だろうか。
「……大西雄介と申します。香織さんと交際を前提に結婚のご挨拶に伺いました」
だから、知っていたのだ。
父親の本性を、母親の体質を。
妹の現実を、従兄弟たちの未来を。
己の……役割を。
それが、どれだけ理不尽だとしても。
「……ほう?」
遠からず、妹は目の前の人物に拉致られる様に持ち去られるだろう。
ただ、こちらとて単に手をこまねいていたわけではないのだ。
妹の関わってきた様々な諸事情もあるし、何しろこちらには最強の父親と最凶の母親がいる。
従兄弟達は軽く飛び越える事が出来るだろうとしても、このバカップル夫婦を本気で敵に回して簡単に何とかなる事がないと思い知る事になるだろう。
少なくとも、己の妻が泣くと言う事と妻によく似た娘のためならば。
あの男は世間様に顔向け出来ない様な事だって平気で、しかも軽く飛び越えるのだから。
それが。
少なくとも、最終的にはともかく一人で妹の幸せを守り切るには力不足な兄に出来る。
数少ない手助けだと、アザカは信じている。
終わり
植木花織
16歳。高校二年生。
植木初芽のまた従姉妹。家族構成は本文参照。
前世での因縁から逃れ切れずに明日で17歳になると言う誕生日前日に最悪の悪魔に捕まってみた。
実はあと20数時間逃れることが出来れば雄介とは一生係る事がなくいられたのだが、捕まってしまったので魂レベルで捕食される事になる。色々と知らない事や思い出せない事が多かったりするが…何とかなるだろう。
割りと母親に似たので実父の本性は知らないが、雄介の事はある程度理解している。
魔女としての素質はあるが、例え異世界に神隠されても速攻で連れ戻されるんだろうなあと言う意味からすれば…どうなんだろうね?
大西雄介
24歳。社会人。
己のあらゆる境遇を利用して本能が求める相手をゲットだぜ!ただし、植木さんちのお父さんは一筋縄じゃいかないよ!でも負けないよ!負けるなら香織にメロメロになる時だけだよ!と公言している。
香織とは実のことを言えば前世から魂レベルでの関わりがあるが、香織が17歳になるまでに捕まえる事が出来なければ永遠に入手出来ない運命だったが、本人はそれを全く知らないし思い出すこともない。インテリだが本能の男。
ちなみに作中の「交際を前提に結婚したい」セリフは間違いではありません。先に囲い込んで手を出せないようにしてから、じっくりとねちっこくベタ甘に交際をしたいそうです。それまでの人生の事があるとは言ってもヘヴィで難儀だな。あの世の育ての父親が草場の影で泣いてるぞ!生みの親もどっちも他界してるけどね。育ての母親は天然なので理解しているのかどうか…
植木鮮花
香織の2歳上の兄。己の名前に花の字がついているのでコンプレックスを持っているが硬派。
植木一族の特性を持っているが父親がちみっと無茶をしてしまった影響で己の親と妹は飛ばされないと言う「真実」を全て知っている。ある意味で不運な人物。
能力は持っていないので物理系の技術しか持っていないが、下手に妹達の様に能力を持ってしまうと人生が危険だから良かったと思っている…決して、残念だとは思ってない。思ってないったら思ってない。
父親の行った影響で、己の運命も捻じ曲げられてしまったこととかもあるが父親が怖いのと運命に逆らう事が無駄だと知っているので家族を見捨てられない律儀。なので、同性にも異性にも人気がある苦労性。
本当、苦労性。
今回の魔女はコイツだったりする。
Northwood植木
本名はヴェズルフェルニル・フレースヴェルグ・ラタトスク・植木。ノースウッドは仮の名前。
ご近所では「植木さんちの旦那さん」とか「寒木さん」などと呼ばれている。
元ネタは北欧系世界樹にある鷹と鷲と栗鼠。栗鼠の様な好奇心と鷹や鷲の様な猛々しさを併せ持ち止まり木に妻を選んだと言うだけだと本人は語っている。
香織と鮮花の実父。欧州系出身らしいが血統的には世界中らしいが本人にもよくわかっていない。
妻に一目惚れをしたのと、妻が植木さんちの存在だった事と、あらゆる能力を駆使しまくって神の好奇心的に受けてしまった為に様々な運命をねじ曲げてしまった人物。ある意味での元凶。
植木さんち一族がこうなった原因の1つでもあるが、決定打かと言えばそうでもない。
妻と娘には完全に隠しているが、息子には別の理由から知られてしまっている本性は一般的には人当たりがよく日本語には若干不自由な陽気な外国人をやっている。
前述の関係から実は魔女だったりするが、妻とあんまり変わらないかも知れない。
幼馴染
前作で可哀想な子にさせられた御曹司。大西雄介とは前述のとおり。
正妻の子供でありながら無意識で見せられ続けた夢のせいで国外で隔離されている。
心の平安は手に入れたので…まあ、良かったと言う事にしておけば良いんじゃないかな?




