閑話 帰郷そして…
未来のお話です
指定BGM、ドラゴン◯エストの祠で流れる哀しげなBGMを脳内で流して頂けるとより効果的(?)かと思います
寝台に1人の老婆が横たわっている、翠銀の長髪、尖った耳、若かりし頃はさぞ美しかったと思われる顔には避け得ぬ時の枷が色濃く見える
薄っすらと開いている瞳に映る天井をぼんやりと見ながら彼女は己の過去を思い返していた
『楽しかったねぇ…、タマフジ様が居て、シズルとマヤが居て、あっちこっち旅して…』
『みんなアタシを置いて行っちまった、エルフに産まれた事を後悔する時が来るなんてねぇ…』
『翠衣楼はどうなったのかねぇ、ムラサキの子が継いでくれてれば良いんだけどねぇ』
つ…と目尻から涙が流れ落ちる
『こんな時に思い出すのが翠衣楼だなんて、やっぱりアタシの故郷はヤマットなんだね…』
と、枕元に気配が生じた、首を向けようにも思うように動かせない程衰えた我が身に深いため息が漏れる
「とうとうお迎えかい?苦しみたくないから一思いに連れてっておくれな」
「はぁ~、姫様のお願いだったから来たのに死神かなにかと勘違いですか…」
「まあまあ、あれから随分と経つから仕方ないよ」
ドキリ、と心臓が跳ねる、狭い視界のなか辛うじて見える服装に覚えがあった
「シズルとマヤ…なのかい?」
「他に居ないでしょうに…」
視界に入る場所まで移り笑顔を向けている二人を見て震える唇が辛うじて言葉を紡ぐ
「最後にアンタ達を見てから何十年経ったと思ってるんだい?姿が全然変わって無いじゃないか…」
「そこはまあ乙女の秘密って事で納得して欲しいです、それより行きますよ」
「あぁ、やっぱりお迎えだったんだねぇ…」
「シズルはそういった事もやってますが、私は違いますよ?」
「余計な事は言わないの! 向こうの確認は取れてるんでしょう?急ぎますよ」
「「権能解放!」」
白と黒の光の奔流、その後に佇む二人の背にはそれぞれ青白い悪魔の羽と黒い天使の羽が有った
「アンタ達いったい…?」
「さ、跳びますよ」
左右から手を握り淡々と呪を紡ぐ
「「我等「堕ちし光と」「昇りし闇が」呪力を捧げ途を接ぐ」」
「「かの地を此方へ、此方をかの地へ」」
床に現れた陣と天井に現れた陣が交差した瞬間、三人の姿は蓬莱に有るアスタリスの寝室から忽然と消え去っていた
刹那の浮遊感が収まると閉じていた目を開くアスタリス、微かに見覚えのある天井、嗅ぎ覚えのある空気感
ワナワナと震える唇、止めることが出来ない涙
「こ…、ここは…!?」
「姫様との約束です」
「もしその時が来たらアスタリスさんを故郷に返して欲しいって」
「あ・・・あぁ…」
「タマ…フジ様…」
「今度こそ本当にお別れです、おひい様を可愛がってくれて有難うございました」
「姫様を慈しんで下さり感謝しています、それでは」
深々と頭を下げ扉に向かう『バンッ!』と意図的に大きな音を立て戸を開くと幻のように消えて行った
その音に驚いた店の者が何事かと部屋を覗き込む、確かこの部屋は開かずの部屋だったはずだと
その部屋の寝台の上に横たわる老婆の姿に驚き、テーブルの上に纏めてある細剣と皮鎧に驚き主人を呼びに走る
息せき切って駆け付けた紅は横たわる老婆を見て目を見開いた、母から聞いていた翠衣楼の本当の主人アスタリスが年を重ねたらこうであろうという姿にそっくりだったからだ
「も…もしかしてアスタリス様…ですか?」
「アンタ…は?」
「母ムラサキから翠衣楼の主人を受け継ぎました、クレナイと申します」
「!」
「ぐっ…お、おおおお」
今度こそ嗚咽を漏らし涙を流すアスタリスの手をしっかりと握り、同じように涙を流すクレナイ
「母が言っておりました、アスタリス様は必ず帰って来ると、そのためにこの部屋は手を付けづに置くんだ、と」
「アスタリス様、どのようにして帰られたのかは聞きません、お疲れでしょうからお休みくださいませ、お世話は私がさせて頂きます」
使用人に指示を出し柔らかな笑顔を向けるクレナイの顔を見ながらアスタリスは眠りに落ちた
「アスタリス様、旅のお話を聞かせて下さいね…」
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七日後、アスタリスは沢山の娘達に囲まれ旅立った、その口元は微かに微笑んでいるようにも見えたと言う
『なんだい、アンタ達が迎えに来てくれたのかい?アサギ、トウヤ』
『なんだとはひどい言い方じゃない?ねえ?』
『ホントですよ、黒い羽根の天使様からお願いされたのに』
『っ!…、最後まで敵わないねぇ…』
『さ、旅に出てからの話を聞かせてよアスタ』
『あぁ、時間はたっぷり有りそうだからねぇ』
埋葬後、人気の無くなった碑の前で空を見上げるメイド服姿の二人
「私達に深く関わりの有る人はアスタリスさんで最後ですね…」
「ええ、これでこの世界に残る理由も無くなりました、マスターを探す放浪に戻りましょう」
そう言い残して何処かへ消え去ったシズルとマヤの姿を見たものは未来永劫現れなかった
「あるいは有ったかもしれない物語」の準最終回です
ちょいと時間を空けて似非建国紀に取り掛かりたいと思ってますので、しばしお付き合いのほどを
書くかどうか迷ったのですが、生み出したキャラクターは今際の際まで面倒を見るのが信条
頑張った人には幸せなHeaven's Lifeを!(スペル合ってるかな?)
正直、両親と妹の臨終に立ち会った身としては書いてて辛い部分も有りました(なら書くなって?ごもっとも)
セルフカウンセリングの一環ですので読み飛ばして頂いても構いません
マヤ「そんなの後書きに書くなって…」




