常春の園カクリヨ 2
食事を済ませお茶で一息つき、食卓代わりに選んだ平らな岩に湯呑みを置くとマヤが切り出す
「おひい様、着の身着のままで寝ちゃったから水浴びをしに行きましょう」「っと、その前にカクリヨを開かないとね」
「そうね、この島には危険な生物は居ないようですが万が一も有りますので」
一間程の大きさの陰陽紋を各々の掌を傷付けた血で描き、外縁に向かい合わせに立った二人は複雑な印を結びつつ呪を紡ぐ
「「我等「堕ちし光と」「昇りし闇が」血と呪力を捧げ願い乞う」」
「「木行、火行、土行、金行、水行」」
「「五生五剋の理をもって陰陽の門を開かん!」」
「「我等望むは安寧たる刻、久遠の園への道よ疾く現れよ!」」
二人の間にキラキラと光る粒子の柱が立つ
「おひい様、自分の荷物…とシーツを丸めて持って来て下さいませんか?」
コクリと頷き、トテトテと寝床へ向かう
三人で寝て尚余裕の有る大きさのシーツはタマフジの体躯では持て余すのだろう、自身の荷と併せ持ちヨロヨロとよろけながら柱の中へ入る
「此の世とは幾星霜の別れになります、姫様、申し訳御座いません」
「っ!?」
声にならぬ叫びはマヤの更なる叫びに掻き消される
「あ〜!湯呑・・・」
最後まで響く事無く現世より三人の気配が消え失せる、後には仄かな温もりを残した湯呑みが三つ残るのみであった
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カクリヨとは幽世であり隔離世である
現世に幾つも重なる並行世界、その一つに周波数を合わせ現身を持ったままに移行する、禁呪に極めてて近しい技である
並行世界を認知出来得る者が稀有であり、ましてや数多有る世界のうち三人の移行先を知覚出来る者は砂漠に落ちた一粒の砂金を探す事と等しい
その様な稀人が三人の姿を垣間見たとして「天女を見た」「妖怪に会った」等と己の常識に合わせた解釈をし、周りの人間に話しても取り合ってはもらえないだろう
高位の術者には認知する術を持つ者も有るが、並行世界の壁を超えて干渉する技などそれこそ神の御業の領域である
強力な術故の弊害も有る、外界(つまり元の世界)の様子を知る術が(認知力を持った人間以外は)無い、境界が乱れるため再び道を繋げるまでの猶予が一年余り有る、そしてカクリヨでの一年は外界での百年に等しい事
これらの事をかみ砕いて語って聞かせたタマフジは脱兎の如く駆け出し、既に消えつつある光にすがるかのように手を伸ばす
「ちちうえーっ! ちちうえーっ!」「ちちうぇ…とうさま~~っ!」枯れんばかりに声を絞る
シズル、マヤの二人に出来ることは左右から抱きしめ、その思いの幾ばくかでも受け止める事のみであり
そしてそれはタマフジが泣き疲れて眠ってしまうまで続けられたのであった
ペテちん「おかしい、全五話で終わらせる予定だったのに収まる気がしない…」
静留「創主様は設定魔だから…」
魔夜「長年あっためてた設定を生かせるのが嬉しくて語りすぎたんじゃないかな?」
ペテちん「特に呪文は頑張った、陰陽道や中華風を意識して」「行水シーンまで行けなかったけど…」