踏み出した一歩
鉄扇子(以下鉄扇)を渡されてからのタマフジは時折午前中の狩りにも同行するようになった
下草を鳴らさぬよう、木々に当たらぬよう走る事は己の身体を使いこなす以上に難しい事であった
『ザザッ』「ケェーケェー」バタバタバタ
思いの外近くから雉らしき鳥が飛び立つ
「ひゃっ!」「え?どこにいたの??」
「フフッ、おひい様は音を立てずに走る事に気を向けすぎて感じられてませんね」
「??」小首を傾げるタマフジ
「ん〜、少し実践してみましょうか」
マヤに誘われ林の開けた場所へ移動する、中央にタマフジを立たせ自分は林との境界辺りに立ち
「良く見ていて下さい?」と大きく左右に蛇行しながらタマフジの目の前まで歩いて来る
「同じ事をします、今度は良〜く耳を澄ましながら見ていて下さい」と同じ動きを繰り返す
『ザッ』『カサッ』『サッ』『ジャッ』
「その様子だとちゃんと聴こえたみたいですね?」
目を見開きコクコクと頷くタマフジに
「じゃあ目を瞑って下さい、もう一回やりますのでおひい様は私の居場所を指差して下さいな」
目を閉じ耳に集中すると聴こえてくる周囲の音、それは驚くほど多彩であった。今までの自分の耳は寝ぼけていたのだろうか?と思える程に
「行きますよ?」マヤの声にピッと指さすタマフジ、微かな音を感じる度にマヤを指さす、そして
「良くできました」マヤの弾んだ声と共に指した手が暖かな温もりに包まれる
マヤの両手に包まれた自分の手を見た途端に涙が溢れ出す
「ふぇっ?大丈夫ですかおひい様?」「びっくりしちゃいました?それとも痛かったですか?」
狼狽するマヤに抱きつきながらタマフジが答える
「ちがうの、うれしいの、うれしいんだけどなみだかでちゃうの」抱きつく力を更に込める
落ち着くまで暫し抱き合っていた二人だが「もうだいじょぶ…」の声で離れる、タマフジの涙の跡を拭ってやると照れたように笑う
「人は思っている以上に目で見えた物事に頼っているんです」「だけどそれ以外、音とか匂い、肌や髪の感覚を足してやるともっと観える世界が広がりますよ」
「匂いも?」
「ええ、帰ったら試してみましょうね♪」タマフジと指切りをする
「じゃあ最後にもう一回、今度は本気でやります」「ホントはシズルの方が得意なんだけど、私も出来ますので」とタマフジから離れて行く
「目は瞑りましたね?行きます」
マヤの声に指さそうとするが、それ以降何も聞こえてこない、まごまごするうちに再び包まれる指に驚いて目を開く
「え?えっ?」
何が起こったのか分からずに狼狽えるタマフジに少し得意そうな顔を向け
「まだまだですね、おひい様!」
と言い放つ、が、表情を曇らせて
「あ〜、もう獲物を追いかけてる時間が無くなりそう…」と太陽の位置を確認して眉を下げる
「仕方ない、今日は川で魚を獲って帰りますか」
「タマフジのせい?ごめんなさい…」
「ううん、大丈夫ですよ」「これを覚えておくと武の鍛錬にも役に立ちますから」と頭を撫でる
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「姫様、何か良いことが有りましたか?」
シズルが魚を手早く捌きながら問いかける
「マヤねえさまに"おと"のたいせつさをおしえてもらったの」
帰るなり軒下に陣取り、嬉々として耳を澄ませているタマフジが答える
鳥の飛び立つ音に驚いた事、意識して聴くと驚くほど沢山の音が聴こえた事、マヤの居場所を指し当てられた事、最後は全く分からなかった事、嬉しそうに身振り手振りを交えて話す
「良い学びを得られたようですね、姫様」
目尻に涙を浮かべ微笑むシズルタを見たマフジが心配そうに問いかける
「シズルねえさま、どこかいたいの?」
「大丈夫ですよ、姫様」「これは姫様の成長が嬉しくて出た涙ですので」
シズルの言葉を聞いたタマフジがマヤとのやり取りを思い出し胸の辺りをギュッと押さえる
「タマフジもね、マヤねえさまに『良くできました』っていわれてないちゃったの」『シズルねえさまとおんなじ?』
「ええ、ええ、同じですとも」愛しさが込み上げ抱き締めようと手を伸ばしかける、が
「シズルねえさま、おさかなのにおいがいっぱいする」と半歩後ずさられる
自らの手を見下ろし思い出す、魚の内臓を取り串を打っている途中だったのだ
丁度焚き付け用の枝を拾って来たマヤを見つけ「マヤねえさま〜、においのことすこしわかった〜」と駆け出してゆく
「おぉっ?ホントに?」「おひい様凄いねぇ」
「うん、シズルねえさまがおしえてくれた〜」
「はぁ〜、流石シズルだねぇ」
ガックリと落ち込むシズルに小枝を渡しながら「どうしたの?」と問い掛けるとマヤの鼻先に左手をかざす
「あぁ〜、成る程、ご愁傷さま」「丁度いいから暫く手は洗わないでいて、おひい様の訓練のために」
絶望の眼差しでマヤを見つめるがタマフジの為と言われると嫌とは言えない
結局風呂できちんと洗うまでの間、匂いでシズルの場所を当てるゲームに付き合わされ、タマフジからやや距離を置かれる事に落ち込むシズルであった
ペ「うぅ〜ん、コンパクトに、コンパクトに…」
マヤ「出来もしない事に労力を注ぎ込むのは止めた方が良くない?」
シズル「まぁまぁ、努力する事に意義があるのですよマヤ」
ペ「今回はタマフジの成長の切っ掛けなので丁寧に書きたかったんですよ…」
タマフジ ペタペタ(胸を触りつつ)「おおきくなってないよ…」
ペ「大丈夫、成長した姿の絵は生成出来てる」「シズルよりは大きくなるよ」
タマフジ「ほんと?わ〜い!」
シズル「創主様、ちょっとあちらに…」ズルズル
ペ「いやぁ~〜」




