子ダヌキのゴンタは東京に行きたい
※しいなここみ様主催『瞬発力企画』参加作品です。お題は『東京』で、1時間ほどで書きましたw
※アンマンマン様主催『たぬき祭り』参加作品です。
「オイラ、東京さ行ぐ! 東京さ行っでビッグになるだ!」
子ダヌキのゴンタがいきなり言い出したので、お父さんダヌキもお母さんダヌキもびっくりです。
「どうしたんだべ、急に」
「んだ、何言ってるだ?」
「こんなド田舎で、ジジババを化かしたってしかたなかんべ!
こないだなんて、おどかしたババさはそのままぽっくりいっちまったし──。
オイラはもっと、若いたくさんのニンゲンを化かすようなビッグな化けダヌキになりてえだ!」
何を言っても止められそうにないので、お母さんダヌキは物知りの長老ダヌキを呼んできました。長老にゴンタを止めてもらおうと思ったのです。
「ゴンタよ、やめておけ。東京は恐ろしいところじゃ」
「へっちゃらだべ! 長老だって、オイラの化けっぷりが仲間うちで一番だって知ってっペよ。完ぺきに東京のナウなヤングに化けてみせるべ」
「形だけマネてもダメじゃ。おぬし、『東京音頭』も『東京ブギウギ』も踊れんじゃろ?
それではすぐに田舎者だとバレてしまうぞ」
「そ、それは──そんなの、誰かが踊ってるのを見て覚えるべさ!」
「それにの、東京では車がとんでもなく多い。
ワシらタヌキは、車の強い明かりで照らされると足がすくんでしまうんじゃ。仲間にも何人も車にはねられた者がおるじゃろ?
ろくに歩くことすら出来んぞ、どうやって暮らすんじゃ?」
「そ、それなら車の多いところでは鳥に化けるべ! 空を飛んで移動すれば──」
「それがのう──東京には空がないらしいぞ」
「ええええ!?」
空がないなんて、どういうことなんでしょう。ゴンタには想像もつきません。
「何でも、大きな布で空をすっぽりおおっているらしい。『東京ドーム』とか言うてな。
さあ、道も歩けない、空も飛べない。それでどうやって生きていくんじゃ?」
「うう、それは……」
言葉につまったゴンタに、長老が追い打ちをかけます。
「それにな、東京では今でもタヌキを食う風習があるらしいぞ」
「う、うそだべさ!?」
この辺りのような田舎でさえ、タヌキを食べるような習慣はとうの昔になくなっています。東京みたいな大都会に、まだそんな風習が残ってるんでしょうか。
「ソバとかウドンなんていう食べ物に、タヌキを乗っけて食うそうじゃ。
ほれ、東京あたりではタヌキがほとんどいなくなったとか、聞いたことあるじゃろ」
「ま、まさか、みんな食われちまったってことだべか?」
「まあ、そうなんじゃろうなぁ。
な、悪いことは言わん。東京に行くなどやめとけ」
「──」
肩を落としてだまってしまったゴンタに、長老はやさしく話しかけました。
「どうしても大都会に行きたいというなら、東京じゃなく大阪にしておくといい。
大阪人はキツネを好んで食べるけど、タヌキはほとんど食べないらしいぞ──知らんけど」