J国の逆襲
しかし、J国の人々は諦めませんでした。いつかA国の人々も美味しいと思ってくれるようなパンを作ろうと、昼夜問わず研究を重ねました。
そしてついに、J国のパン職人たちは、長年の努力の末、それまでの常識を覆す、革新的な製法を開発することに成功したのです。
そのパンは、ふわふわで美味しく、香りも豊かで、一度食べたら忘れられない、まさに「夢のパン」でした。
J国内では、パンが飛ぶように売れました。
「なんておいしいんだ……これならあのバカ高いA国のパンを買わなくてもすむぞ……」
J国から次第にA国のパンがなくなりました。
「おかしいな……このところ、金が全然入ってこないぞ?」
A国の大統領は、日に日に減る収入報告に眉をひそめ、怒りの表情で商人を呼び出しました。真っ青な顔をして縮こまる商人。
「ど、どうやらJ国で画期的なパンができたようでして……」
「なんだと! そんなわけがあるか!」
大統領は商人から差し出されたパンを奪い取り、かぶりつきました。
(こんな、ぱさぱさのパンがうまいわけ……なんと!?)
大統領は手に持つパンを信じられないと見つめました。
淡い黄金色に輝く、まるで生まれたての赤ん坊のような、優しい丸み。鼻をくすぐる甘美な香り。舌の上で優しくほどけて焼きたての小麦の香ばしさと、ほんのりとした甘さの絶妙なハーモニー。懐かしい故郷の風景を呼び起こすような、温かく、そしてどこか幸福感に満ちた味でした。
(うまい、まさかこれ程のパンをあのJ国が作り出すとは……)
唇を噛み締めて肩を震わせる大統領を、周りの職員は震えながら見守りました。
J国のパンの噂はまたたくまにA国に広まりました。A国の人々は、こぞってJ国のパンを求めるようになりました。
「J国のパンは、本当に美味しいらしいぞ!」
「A国のパンよりも、ずっと美味しいという噂だ!」
「高くても良いから、一度食べてみたい!」
A国の人々は、J国のパンを求めて、店にに押し寄せました。
「2ドルかかってもいい。パンをくれ!!」
A国の人々が声を張りあげて商人に頼みました。
商人の話に、うれしくなったJ国は意気揚々とパンを作り売りました。
段々とA国のでは自国のパンは売れなくなりました。高くてもよいJ国のパンを買う。そんな風潮にA国の大統領は焦りました。
「このままではやばい。我が国のパン屋がつぶれてしまう!」
A国の人々はますますJ国のパンを求めました。
J国のパンの価値はどんどん上がります。
「4ドルでもいい、パンをくれ!」
「おれは6ドルでもいいぞ!!」
どんどんパンの価値は上昇し、いまや、パン1枚が何と、10ドルになりました。
J国では1円で買えるパンが、A国では10ドルも必要になるのです。