表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の果てに  作者: 北丘淳士
リネール
34/39

仲間と王の実態

 翌朝、リネールはオルスタから貰った名刺を頼りに、ある酒場に行った。その酒場はまだ開店していなかった。とりあえず扉を叩く。

 叩いてしばらくすると、誰何の声もなく扉が開いた。

「まだ営業時間外だ」

「オルスタという男性に会いに来たのですが」

 口髭を生やし、いかにも酒場の亭主らしき男性は、出された名刺を見ると少し考えて口を開いた。

「中で待っていてくれ」

 通された酒場は場末の飲み屋といった小さな店だった。亭主の男は奥の階段を上がっていく。リネールは立ったまま待っていた。すると亭主と入れ替えにオルスタが降りてきた。

「やあ、リネールさん、ここに来られたという事は、気が変わったのですね」

「はい、私も王に借りがありますので」

「それは良かった。こちらからもお願いします」

「ええ、私の力で良ければ」

 リネールはオルスタと強く握手をした。


「この世界の情勢を知っていないリネールさんに私が説明しましょう」奥の応接間に通されたリネールは亭主からの酒を断ってオルスタの話を聞いていた。「この世界は『王』が支配しています。ただ王と呼ばれているのは王は名を名乗らず、世界の中心であるこの国の政治家を排除し武力を放棄させ、圧政を敷くようになりました。六十年前の事らしいです」

「王へ攻撃をしかけた軍とかいなかったのですか?」

「ええ、王に総攻撃をかける予定でしたが未遂に終わったとのことです」

「未遂に? なぜ!」

「分かりません。重火器が使えなくなったそうです。今の時代でも重火器は使えません。火薬、爆薬の類が使えないのです」

 そう言うと、オルスタは近くの机から銃を取り出した。そして弾を詰める。

「なにを……」

 そして、こめかみに銃を当て、戸惑うことなくトリガーを引いた。

 それを見ていたリネールは突然の事に顔を背け目を瞑る。だが撃鉄の音がするのみで発砲音は響かなかった。

「ごらんの通りです。爆薬が使えない。だからこの世界の経済は緩やかになってしまったんです」

 不思議な力だ。どういう力でこの世界を支配しているんだ……。

「王には二人の側近がいます。それぞれ剣と盾です。彼らも名乗らない。だから剣と盾と呼ばれています。剣が女性。盾と呼ばれる大柄な男性です」

 リネールは唾を飲んだ。

「その二人はどのような力を?」

 オルスタは首を振る。

「分かりません。彼らが能力を使うところを誰も見たことが無いのです」

「剣と盾と言われているぐらいなので、護衛でもしているのでしょうか?」

 弾丸を抜き取った銃を元に戻し、オルスタは頷いた。

「王が眠る時間があります。その時を護衛しているものだと思われます」

「眠る時間は決まっているのですか?」

「決まっています」

「ならその時間に攻め込めば……!」

 オルスタは小さく溜息をついた。

「王は、ほとんど寝ません」

「何時間ぐらいですか?」

「約三分です」


 二日後に仲間を紹介すると言われ、リネールは再び早朝、例の酒場にやってきた。

「いらっしゃい、待ってたよ」

 今度は亭主もリネールの顔を覚えていて、すぐに応接間に通された。中にはオルスタを含め四人の男女がいた。リネールは軽く会釈する。

「俺はエルドビスだ」

 長身の男が進んで手を出してきた。銀色の髪に彫の深い顔をしている。

「盾を作れるんだって?」

 早速、能力の事を聞いてくる。リネールは一瞬訝しんだが、互いに正体を知っておいた方が良いだろうと踏んだ。

「ああ、単なる盾ではなく攻撃にも使えます」

「やったじゃないか、オルスタ!」エルドビスは感嘆の声を上げた。「攻撃の要がいなかったから、これで王の盾を崩す事が出来るんじゃないか?」

 椅子に座っていたオルスタは力強く頷く。

「俺の能力も教えておいた方がフェアだな」

 そう言ってエルドビスはリネールの肩を叩き部屋を出ていった。リネールの視線はエルドビスを追う。扉が閉まり、何をするのだろうとリネールが室内に目を戻した時だった。さっきと同じ場所にエルドビスが立っていた。

「なっ……!」

「びっくりしたかい? 俺の能力は転移だ。座標を三つまで設定することが出来る」

「その力を……、どこで?」

「一年ぐらい前、仕事帰り目の前に白い宝石が落ちてきた。小指ぐらいの大きさだ」

「フラム!」

「ん? フラムと言うのかい?」

「ああ、フラムは手に入れたものの願いを叶えてくれる」

「じゃあ、俺は幸運だったんだな。俺はなまぐさだった。長い通勤時間に辟易していたから、この能力を手に入れたんだろうな」

 そう言って笑みを溢す。

「他の二人は?」

「私はアメルダ。治癒能力よ。そしてこっちがランドナ。彼の能力は説明が難しいわ。直接試した方が良いかも」

 ランドナと呼ばれた男は酒を飲んでいた。陰気な様子を漂わせている。

「私のは呪いの力だ。試しても良いが痛いぞ」

 呪いか……、物騒だな。

「私の能力も知っておいてもらったほうが良いかもしれない」

 ランドナの話を遮ったオルスタは、自分の能力を話した。


 複雑な能力だ……。これは頭脳戦になるかもしれない。

 三分の間に出来る事をリネールは組み立て始めた。


 王は謁見の間にて、ある老婆の声を聞いていた。

「何卒、王の力で、この子の病を治していただけないでしょうか?」

 老婆の隣では青白い顔をした子供が咳き込んでいる。

 王は立ち上がった。そして剣と盾の間を抜け子供に手を翳す。

「ああ、これならば簡単だ」

 王の右手が金色の光を放ち、その光が子供を包み込む。すると青白かったその肌が血色の良いものに変わっていく。

「おばあちゃん、何だか体が軽くなってきたよ!」

「おお……」思わず老婆は子供を抱きしめた。「有難うございます、有難うございます!」

 老婆は涕泣しながら謝辞を述べた。

「お礼は何が必要でしょうか?」

「礼などいらん。健やかに生活するがいい」


 老婆は何度も振り返って王に頭を下げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ