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転生の果てに  作者: 北丘淳士
リネール
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拉致

 仕事以外の時間、リネールは心拍数を落とし、出来るだけ長い時間生きられるよう暮らしていた。

 弟分のムリスの面倒を見続けなければならなかったからだ。

 休みの日、彼は安楽椅子に座って本を読んでいた。

 本は良い。私の心に安寧を与えてくれる。

 お茶を啜りながら窓から入って来る薫風にあたり耽読していた。その時、部屋の扉がノックされた。

「はい」

「入るぞ」入ってきたのは孤児院を住居にしている一人だった。「リネール、お客さんだ」

「え? 誰でしょう」

「さあな」

 リネールは本に栞を挟み、お茶を飲み干して応接間に向かった。

 部屋に入ると見覚えのない壮年の男性が座っていた。その男性は立ち上がり、品の良さそうな帽子を脱いで一礼する。

「あなたがリネールさんですか?」

「はい、そうですが……」

「私はオルスタと申します。以後よしなに」

 リネールは一礼した。

「お茶か何か要りますか?」

「いえ、結構です。それより重大なお話があります」リネールはオルスタの向かいに座った。「単刀直入に申し上げますが貴方に私たちの仲間になって頂きたい」

「仲間、ですか?」

「はい、私は反政府組織の者です」

「反政府組織……」

「ええ、貴方には不思議な力があると伺いました」

 この前の盾の事を見られていたのか……。

「今、この国は王の圧政で市民は苦しめられています。革命を起こし、この圧政から市民を救いたいのです!」

「圧政、ですか……」

「ええ、彼らは好き勝手に法を変え、私利私欲の為に国民が犠牲になっています。今こそ立ち上がるべき時なんです!」

 口角泡を飛ばす勢いで話始めたオルスタをリネールは手で制す。

「圧政のどこがいけないんですか? 私たちは何不自由なく暮らしていけているじゃないですか。誰かが政治をやっても誰かが割を食う事があるのです。あなたたちなら国政を上手く回せると仰りたいのですか?」

 オルスタは黙ってしまった。そしてしばらくリネールの黒い瞳を見つめ、重い溜息をついた。

「私の妻が憲兵隊に(さら)われてしまいました」意外な告白だった。「ある日憲兵たちが、王の命との一点張りで、強制的に連れ去ったのです」

「返してもらえなかったのですか?」

 オルスタは頷く。

「そうですか……」リネールは顎に手をついて考えた。そしてフラムを思い出す。「ですが、私には何の関係も無い事です。私は争いを好みません。この世界には他にも特殊な能力を持つ人たちがいます。その人たちを勧誘してはいかがですか?」

 オルスタは帽子を握りしめる。そしてポケットから一枚の名刺を出した。

「もし、気持ちが変わられたら、こちらまで連絡して下さい。同志があなたをお待ちしています」

「……わかりました。頂戴します」

 玄関で見送り、オルスタはリネールを何度か振り返って街の雑踏へと消えていった。


 仕事も終わり、リネールは袋一杯の果物とムリス用の薬を買って家路を歩いていた。良く熟れたリンゴを齧る。シャクシャクとして瑞々しく労働後の疲れを癒した。

 ムリスの容体は少しずつ良くなってはいるが完治は難しいのか……。

 リネールは薬のような複雑な物質変換は出来なかった。ただ自分の小指を削って金に換え、ムリスの回復を祈るのみだった。

「あら、リネールさん」

「あ、こんにちは奥さん」

「仕事帰り?」

「はい、奥さんは買い物ですか?」

「そうだけど、今日の昼頃、憲兵が孤児院に来ていたわよ」

「憲兵が、ですか?」

「ええ、何か揉めていたようでしたけど」

 憲兵が何の用だったんだろう。

 リンゴを種まで咀嚼してリネールは孤児院に戻った。

「ただいま」

「あっ、リネール! 大変だ!!」応接間にリネールと同年代の大人たちが集まっていた。「ムリスが連れ去られた!」

 リネールは持っていた紙袋を落とした。中の果実が転がり出る。

「なんだって、誰が!!」

「憲兵だ、昼頃やってきて……!」

 リネールは体を翻す。

「おい、リネール!」

 呼び止める仲間の声を無視してリネールは駆けた。玄関を出ても靴を履かずに、眠っていた走力が目を覚まし始める。

 なんで……、なんでムリスが!

 痩せていても笑顔を見せていた白皙のムリスの姿が頭の中を駆け巡る。砂埃を巻き上げ、憲兵の詰め所に到着するや、引き戸を叩いた。玄関の灯りがつき、中から私服の男が出てくる。

「なんだ!」

「ムリスを返して欲しい!」

「ムリス?」

「昼、お前たちが連れ去った孤児院の子だ!」

「……ああ、無理だ。もう王のところに渡してある」

「その王とやらはどこにいる!?」

「なんでお前に教えんといかんのだ?」

「いいから教えてくれ!」

 その時、背後に当てられた金属の棒から高圧電流が流れた。

「がっ!」

 リネールはそのまま気を失い崩れ落ちる。

「騒がしそうだったので気絶させましたが、良かったですか?」

「ああ、構わん」


 次にリネールが目を覚ましたのは夜の河川敷だった。体に力が戻っていたリネールは地面を殴る。

「くそっ! 何としても王の場所を探り当て、ムリスを取り戻してやる!」

 リネールは周りの住人に道を聞いて、その足で一旦孤児院へと帰った。

「リネール! 大丈夫だったのか?」

「大丈夫ではない!」

 出迎えてくれた仲間の心配を余所に彼は自分の部屋に閉じこもった。部屋には自分が買ってきた果物が入った紙袋が置いてある。仲間が置いたのだろう。

 空腹を覚えたリネールはリンゴを一つ取って齧った。昼間食べたリンゴより酸っぱく感じた。

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