王の希望
ウィドとミロク族の戦いは熾烈を極めていた。
「なぜこの者たちは退かない!」
五つものウィンザースターから発せられるレーザーは、常人には畏怖するべきものだった。だが十三傑は後退する術を知らないかのように猪突する。八人を失い、カムナを含む五人になっても、攻撃の手は緩まない。そしてとうとう一人がウィドの右手を切断することに成功した。
ウィドは呻き蹲った。
「とどめだ!」
五人の一人がウィドの首筋に狙いを定める。日本刀のような切れ味を持つ刀を降り下ろそうとしていた時だった。
「舐めないで頂きたい」
捕捉する術を失ったウィドのウィンザースターが乱射を始めた。目測する事が出来ない、その強烈なレーザーは彼女を中心に降り注ぐ。周囲にいる二人と自らの身体も貫く。ウィドは身体の一部を欠損し、虫の息だった。
「最後まで恐ろしい女だった」
止めを刺すことなく賛辞を贈ったカムナは残った二人を引き連れ、塔の入り口へと向かった。
三階の広間で戦っていたランザとファーメッツはランザが優勢だった。刀を構えていたファーメッツはランザの圧倒的な怪力に苦戦していた。周囲の骨董品を掴み、遠距離から投擲してくる。
「どうしました? 戦いがお好きなのでは?」
ファーメッツは壁際に追い込まれた。投擲を止め突進してくるランザをギリギリのところで躱した。壁に皹が入る。ファーメッツは転倒しながらランザの足を斬った。だが刃は足を切り落とせず、表皮を斬っただけに留まった。
「恐ろしく頑丈なんだな」
「これでも勝機はあるとお考えですか?」
膝まづくファーメッツをランザは見下ろす。すると襟に隠れていたフラムが目に飛び込んできた。
「それは、フラム!」
ファーメッツは立ち上がった。
「ああ、この胸の。……フラムというのか」
能力持ちと分かってランザの警戒度が高まる。
だがおかしい。フラムは身体に吸収されるはず……。
かつての自分を思い出し黙考した。王権の獲得しか眼中になかったランザに欲が芽生える。
「そのフラム、頂きましょう。そしてついでに王権を!」
「欲をかくと手に入る物も入らないぞ」
ランザは再び床に転がっていた骨董品を手に取って振り回し、ファーメッツとの距離を縮めていく。ファーメッツは防戦一方だった。
そして距離が縮まったところで、体当たりへと移行した。
ランザに弾き飛ばされ、壁にぶつかったファーメッツは崩れ落ちる。
ランザが巨腕で器用にファーメッツのフラムを取った。そしてそのまま飲み込む。
ランザが体に異変を感じ始めた時、フラムを抜き取ったファーメッツの身体が大きくっている事に気づいた。そして顔も変化し、本当の姿を現した。「あ、あなたは!!」
その時、腹に響くような爆発音が響き、階下から光の筋が伸びた。ランザはその閃光に見覚えがあった。
これは……!!
アウデイウスとカムナ達は二階の広間で鉢合わせした。
「見たところ貴族ではないようだが……」
「私はムエイを取り戻しに来た。邪魔するなら相手になろう」
「生憎、そのムエイが必要なんでな」
アウデイウスが言い終わるや、側近の一人が抜刀し斬りかかった。アウデイウスは佩いていた剣を抜き構える。
剣と刀がぶつかる音が聞こえるかに思えた。だがフラムを纏うアウデイウスの剣は、その刀をバターのように斬った。その切っ先を斬りかかった側近は寸でのところで躱す。
仕留められなかった事に舌打ちしたアウデイウスは剣を見せる。
「わが剣クランタムは金属ぐらいなら容易く斬れる。腰に佩く名刀を鉄くずにしたければ、かかってくるがいい」
刀を斬られた側近は、もう一つの刀を抜いた。
フラムの嵌ったクランタムを持ったアウデイウスにしても三対一は出来るだけ避けたいところだった。
三人は出来るだけ有利な体勢を取りたかったが、何せこの階はそこまで広くない。
時間が過ぎていく。
その時、アウデイウスの背後、階下から足音が聞こえてきた。アウデイウスはそちらを見ることが出来ない。
二人か……。挟撃されると拙いな。
アウデイウスは立ち位置を変える。
緊迫した状況の中、カムナは緊張を解きアウデイウスの背後を見た。
誰が来た?
アウデイウスは横目でその人物を確認した。
そこにはメディーサを連れたゼルトが立っていた。
「アリスタ様の仇だ。消し飛べ」
ゼルトがメディーサの背中を押して階下へと走った。
ややふっくらしているメディーサは貯めていた少ないエネルギーを発散した。その爆発は白い閃光を発し、アウデイウスたちと二階を吹き飛ばした。階上の重みで二階が潰され、達磨落としみたいに二階だけが吹き飛ぶ。五人はそのまま潰された。
メディーサの爆発だと知ったランザは、一階分落下した。辛うじて意識喪失だけは免れたものの、二個目のフラムを取り入れた結果か、体が朽ち始めていた。
ファーメッツだった男は無傷で立ち上がり呟く。
「くだらん。せっかく弱くなって、強くなるための鍛錬を楽しみたかったのだが」
「そ、その姿は……!」そこにはカランドリ王が立っていた。「王!」
「貴族たちが力を増しているのには気づいていた。ただ私は乱戦の中、自分の力を試したかったのだが、やはり欲が絡むと民衆が困る。争奪戦は無効だ」
王の希望は空しく散った。
ランザは安堵しながら朽ちていく。
その戦いを陰から見守っていた人物がいた。
戦いを終えたアリスタの配下五人は一人も欠ける事無く無事故郷の地を踏んだ。
ラーナックには息子の死だけが報告された。




