反旗
突如として現れたベリエルにファルナブルは硬直した。
アンデベルグ、ウルスナ二人に苦戦していた中、師範と二人で取り押さえたベリエルが加わる。
絶体絶命の危機を感じ、逃走も考えた。
そう考えた瞬間ベリエルは剣を振い、ウルスナの頭を撥ね飛ばした。
えっ……。
――先刻。
収監されているベリエルの下に、剣を持った所長のカロストが姿を見せた。独居房の中で胡坐をかいていたベリエルは話しかける。
「今日は服装が違うじゃないか」
「ああ、今日は私服だ。それよりももうすぐフラムが落ちてくる」
「フラム?」
「手にすれば限りない力が手に入る天からの恵みだ」
「……、それを私に言ってどうする」
「欲しくはないか?」
「どうせ私は出られない。それに力なぞ今はどうでもいい」
「……何が欲しい」
「自由だ」
連日のカロストとの会話で、ベリエルの考えは変化していた。
「そうか、無欲なんだな。それぐらいの望みならくれてやろう」
カロストは持っていた剣を、通路に突き刺した。
「とりあえず、しばらくするとフラムが落ちてくる。それを追え」
そう言い残してカロストは姿を消した。
剣が通路に刺さったままになっている。
「おい、長い手」
「どうしたベリエルの旦那」
「あの剣、取れるか?」
「造作もない」長い手は鉄格子から手を伸ばした。そして剣を掴む。「欲しいのか?」
「ああ、それを私にくれ。そしたらここから出してやる」
長い手はベリエルの前に剣を投げた。
鉄格子越しにベリエルは剣をとる。そして構え、鉄格子を剣で容易く切り裂いた。
「良い剣だ」
独居房から出たベリエルは伸びをし、深く深呼吸をした。
「おい旦那、開けてくれ」
「ちょっと離れていろ」
再び剣を振い、長い手が収監されていた独居房の鉄格子を壊す。
「さあ、外出だ」
中央監獄がベリエルによって突破された。
監獄では警報が鳴り響き、看守たちは対応に追われていた。
「くそっ、所長が旅行休暇の時になんという失態だ。早く軍に派遣を要請するんだ!」
看守たちは武器を持ち、脱走してくる囚人たちの制圧に向かった。
「ベリエル貴様!! 何をする!!」
アンデベルグは叫ぶ。ベリエルは剣に付いた血を薙いで落とした。
「もうラネル族の束縛はいらない。私が欲しいのは自由だ。アンデベルグ、お前を倒して私は自由になる」
火球をアンデベルグが放つも、ベリエルはその剣を薙いで掻き消した。
混乱していたファルナブルは、少しずつ状況を把握し始めた。
敵の敵は味方ってところか……。だが油断は出来ない。
ベリエルとは距離を置いた状態でアンデベルグを注視する。
アンデベルグは右足を踏み込み地震を起こした。
くそっ! またか!
ファルナブルは小刻みに飛び跳ね、バランスを保とうとする。ベリエルはアンデベルグに向かって跳躍した。アンデベルグは跳躍したベリエルに対し、すかさず二発の火球を放つ。
「この技は効かない事は知っているはずだ」
ベリエルは宙で二回剣を薙ぎ、火球を打ち消す。そしてそのままアンデベルグに肉薄しようとしていた。
アンデベルグは後ろに飛び退り、再び地面を蹴る。大地に皹が入り、着地したベリエルはそこに足を挟んでしまった。
数メートル離れた位置からアンデベルグは両手を前に出し念じる。
「助太刀するぞ!」
アンデベルグにファルナブルが駆けて中段蹴りを放とうとした。アンデベルグは伸ばした腕を解除し、防御する。
「鬱陶しい!」
アンデベルグは強い風を纏い、ファルナブルを弾き飛ばす。そして再び両手を前に出し、ベリエルを狙った。アンデベルグから放たれた人の頭ほどの黒い球は、真っすぐにベリエルへと飛んでいく。ギリギリで嵌った足を引き抜いたベリエルは寸でのところでその黒球を躱した。ベリエルの上着の一部が持っていかれる。そしてその黒球は近くにあった岩を音もなく削り取り、綺麗な穴が開いた。
何だあれは!
着地したファルナブルは驚異的な威力に瞠目する。
服が破れたベリエルは上着を破いた。隆とした体が露になる。




