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転生の果てに  作者: 北丘淳士
ライカ―ル・ハムラス
13/39

奥の手

 吹き飛ばされたパザウッドに向かって駆ける。そしてそのままの勢いで腹部を蹴り上げた。

 腹部を打ちぬかれたかに見えたパザウッドは腕でガードしていた。そのままライカ―ルの足を掴み、立ち上がって片手で振り回し地面に強く叩きつける。ライカ―ルは背中から叩きつけられた。地面にクレーターが出来る程の凄まじい威力だった。そのまま何度も叩きつける。

 だがライカ―ルは体を縮め、掴んでいるパザウッドの右手親指を握り、関節とは逆の方向に折る。

「ガッ!」

 パザウッドの拘束から解かれたライカ―ルは着地と共に飛び蹴りを放った。顎に命中したが、それをパザウッドは指が折れたはずの右手で叩き落した。

 回復している! しかも体格がさっきより大きくなっている!

 叩きつけられたライカ―ルにパザウッドは左拳で打ち下ろしの突きを放とうとしていた。

 極限まで高められたパザウッドの動体視力は、ゴムのように緩むライカ―ルを見た。

 マタダ!

 体全体が軟体生物のように頼りない。極限まで柔らかくなった身体から、爆発音と共に鋭い一撃が放たれた。音速を超えたその突きは衝撃波を放ち、破裂音が周囲に響き渡る。その衝撃波にパザウッドの鼓膜も破れる。

 ライカ―ルは身体を一本の太い杭のように硬質化させていた。蹴り足が深く陥没する。

 突如として現れた金属の棒に体を打ち抜かれたのと同等の衝撃だ。

 ライカ―ルの拳は金属のように陽光を返し、腹部に穴を開けた。

 これで倒れてくれ!

 胸部に大きな穴を開けられたパザウッドは倒れ込む。

 終わったか……。

 

 この力を知ったのは、マサンザにあるタスワラの石を破壊した前日だった。

 なぜ自分だけが一般人を超越した膂力を持つのかと疑問を持ったからだ。

 彼は自分の拳を見つめ、金属をイメージした。すると光沢のある純物質に変化した。

 確かに攻撃が当たる瞬間、金属の拳をイメージしている。これは僕に与えられたスキルではないのだろうか。疑問が徐々に確信に固まりつつあるライカ―ルは、翌日イメージを頭に作りながら、夜が明ける前にルマリノの村を出た。そして誰もが寝静まっている時に、タスワラの石に向かって自分のイメージしていた構えで突きを放つ。極限まで脱力した状態から、一気に力を蹴り足から腰、肩、拳を捻り体組織を金属、イメージとしてはチタンに変化させていく。

 効果は絶大だった。

 超音速の突きは、易々とタスワラの石を破壊せしめたのだ。

 我が目を疑う。だがこの技にも副作用があった。


 胸部に風穴を開けられたパザウッドは大の字に倒れた。

 もう終わりだ……。

 ライカ―ルのチタンの拳はゆっくりと肌色に戻りつつあった。

 有機物を無機物に変えたことで、回復の命令伝達が遅くなっている。骨の変形は容易だが、無機物を有機物に戻すのに時間が必要だった。

 だが開けられた穴はウジウジと修復しつつあった。

 嘘だろ……。何なんだフラムって! 早く、早く回復しろ! 俺の身体!

 ライカ―ルは、まともに体を動かせないままパザウッドは回復しつつある。

 まだ回復しきっていなかったが、パザウッドは片膝をつき、立ち上がる。以前と比べてパザウッドの体格は二倍近くまで膨れ上がっていた。

 まだ完璧に戻ってはいなかったがパザウッドはタックルを仕掛け、諸手刈りの要領でマウントをとる。そしてその巨腕でライカ―ルを殴っていく。ライカ―ルは首をゴムのように柔らかくさせ、ダメージを逃がす。大気を揺るがすようなパウンドを何発も叩き込んだパザウッドの身体に手刀を突き刺した。手刀はパザウッドの皮膚を貫き、彼の肋骨を掴む。

 パザウッドはその腕を手刀で切り落とした。

 ライカ―ルの手首から先が、パザウッドの体内に残される。ライカ―ルはすぐさま切断面を金属と化し、出血を防いだ。

「ははっ、切ってくれてありがとう」

 不敵な笑みを見せるライカ―ルを見たパザウッドの動きが止まる。

 体内に埋め込まれたライカ―ルの手先が青白い光を放ち始めた。その光は放射線を放つことを意味するチェレンコフ光だった。

「デーモン……コアだよ」

 デーモンコアと呼ばれるプルトニウムの塊を、ベリリウムで包み込んだそれは、臨界に達し放射線の一種、中性子線とガンマ線を放射する。

 放たれる放射能は細胞の遺伝子を傷つけ、パザウッドの再生能力を無効化していた。だがパザウッドは朦朧としてくる意識の中、這いながら逃げるライカ―ルの足首を掴む。

 離せ!

 赤黒く焼けただれていくパザウッドは、それでもライカ―ルを離さなかった。

 これでは俺も被曝する!

 ライカ―ルは焦るが、パザウッドの手は離れない。

 ヤバい、吐き気がする。目もかすんできた……。もう……駄目かもしれない……。

 意識が朦朧とする中、ライカ―ルは頭を働かせた。

 僕の遺体があると師範代が近づいてくるかもしれない。せめて僕の遺体だけでも消し去らないと……。

 死を観念したライカ―ルは最後の力を振り絞って、自らを塵に変えていく。

 師範代……。

 焼けただれた肉塊の近くで、ライカ―ルは塵となって消滅した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 北丘先生ーーー!!! 壮絶な戦いに手に汗握りました! バトルシーンの描写も、激しさはもちろん、スピード感が伝わって来てクラクラしましたよ!!! そしてまさかのフィノナ……orz 色々と…
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