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転生の果てに  作者: 北丘淳士
ライカ―ル・ハムラス
12/39

錯乱

 ファルナブルはアンデベルグたちを追っていた。

 日頃から走り込んでいるファルナブルが徐々に間を詰めていくも、走っているタイミングを見て、ウルスナが鞭を振う。彼はそれをサイドステップで躱し、そのタイミングで間が開く。

 くそっ、追いつけない!

 アンデベルグも振り向きざまに炎を手から放ってきた。

 どうやっているんだ、あの技は!

 生身の人間が御伽噺のような技を使う事にファルナブルは動揺を隠せない。

 走ってパザウッド達から距離が開いた頃だった。

「ウルスナ、倒すぞ!」

 フラムの力を見極めることが出来ずに逃げに回ったアンデベルグは、体を反転させ地面に手をつき局所的な地震を起こす。

 突然の揺れにバランスを崩したファルナブルにウルスナの鞭が伸びる。その初動を目で追っていたファルナブルは咄嗟に地面を蹴って横転する。

 増援は来ないのか、二人は何している!

 鞭の連撃を辛うじて避け、防戦に入る。

 ライカ―ルとの組み手が役に立った。あのスピードに慣れてなかったら鞭を躱しきれなかったかもしれない。

 鞭との間合いをファルナブルは縮める。武器の特性上、根本に近ければダメージは少ないと踏んだ。

 アンデベルグはファルナブルに右手を翳す。ファルナブルはジグザグに走り、焦点を定めさせなかった。

 そのままアンデベルグに肉薄する。アンデベルグが手を翳した瞬間にその手を彼は弾いた。弾いた手から放たれた火球はウルスナへと向かっていく。

「きゃあっ!!」

 ウルスナが悲鳴を上げる中、ファルナブルは高速の突きを放とうとした。

 アンデベルグは笑みを浮かべる。

 突如として足元から土の壁がせり上がり、ファルナブルを弾き飛ばした。

「ぐっ……!」

「地に手をつけないと、この技が出せないと思っていたようだな!」

「赦さない!」ウルスナは寸でのところで火球を避けていた。

 彼らとの距離が開いたファルナブルは、もう一度接近戦に持っていこうとした。だが、彼の足が止まる。その視線はウルスナよりも高い場所を見ていた。

 一瞬、呆気にとられたウルスナ達は、その視線を無意識に追う。するとウルスナの背後、二メートル近くある岩の後ろにベリエルが剣を持った状態で立っていた。

「ベリエル!」

 驚いたウルスナは突如現れた頼もしい旧友に顔を綻ばせた。

 ベリエルはウルスナに問う。

「フラムはどうした?」

「フラム?」

「ああ」

 なぜベリエルがフラムの事を知っているのか僅かに違和感を覚えたが、ありていに答える。

「やつらに奪われたわ」

「そうか……」


「イいぞ! まだまダ私も上がっテいく!」

 弾丸のような速度と大砲のような威力を伴った互いの手足が体を掠めていく。

 ライカ―ルと若返ったパザウッドが距離を縮めていく。

「どう……したん……だ!」

 迂闊に口を開くと舌を噛む攻防の中、パザウッドの方に余力があるように見えた。

 パザウッドは高所から放った石が地上の的を射る感覚を刹那に感じた。ほんの僅かな間隙に拳を挟む。

 モらッた!

 その放った右拳はライカ―ルの顎先を捉えたかのように思えた。

 パザウッドには数手先の展開が一気に開ける。それは必中の一撃のはずだった。

 放った拳はにゅるりと顎をなぞり、逆にライカ―ルに十分な反撃の機会を与えた。

 奇妙な体勢で放った左拳は蹴り足から直線的にパザウッドの鳩尾に突き刺さる。大地の力を存分に伝えた一撃だった。

 腹に響くような破裂音と共にパザウッドの身体が宙に浮く。

 ナんだ……、イまノは……!

 その異変はフラムを取り込んだパザウッドだけが視認出来た。

 腹部に致命的な一撃を受けたパザウッドは膝を付き、もだえ苦しむ。

 それをライカ―ルは見下ろしていた。

「師範、それじゃあ勝てない」

 あれ程の攻防を終えてなお、ライカ―ルの息は上がっていない。

 オマえは、ドれホドのイきニ……。

 勝負はあったかに見え、ライカ―ルは残心の状態でパザウッドを見ていた。

「おじい……ちゃん」

 その時、フィノナがよろめきながらパザウッドに近づいてきた。

「フィノナ! 来ちゃだめだ!!」

 制止の声を聞かずにフィノナはパザウッドの間合いに入ってきた。そして優しく肩を抱く。

「おじいちゃん、もういい……、帰ろう」

「フィノ……、ナ……」

「危ないから離れるんだ!!」

「ウルサイ!!」

 低い位置から放ったパザウッドの裏拳がフィノナの頭を跳ね飛ばした。鮮血を噴き上げ、フィノナの身体がゆっくり倒れる。

「フ……! フィノナ!! あ……、あぁ……!!」

 ライカ―ルは涙を流しながら膝をついた。今までの思い出が鮮明に浮かび上がる。

 ライカ―ルの手を引っ張って道場に案内した彼女。ライカ―ルの食事を持って来る彼女。組み手で受けた傷を気にしてくれる彼女。どれもが笑顔だった。

 回復したパザウッドは立ち上がる。

 今度は頭の位置が逆になった。

 パザウッドが放った前蹴りを顔面に受け、ライカ―ルは十メートルほど吹き飛んだ。

 土煙の中、ライカ―ルは立膝をついて、パザウッドを睨む。

「キミョウダナ……」

「赦さない……」ライカ―ルは涙を拭きながら立ち上がる。「来い! パザウッド!!」

 立ち上がり構えたライカ―ルにパザウッドは跳躍して襲い掛かる。

 着地点にライカ―ルはいない。パザウッドの着地点目がけて、回し蹴りを脇腹に突き刺す。パザウッドは吹き飛び、ぶつかった岩が砕けた。

「もう、自分の教えも忘れたのか!」

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