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第0-4話 依頼:狂想化竜人の討伐

 噓だ…噓に決まってる。

あのヌシだよ?死ぬはずがない…

  そんなわけがない…

だれが……誰がやったの!

  私の大切な家族の1人……

なんでこんなことに……


 玲奈は目の前の状況についていけず、混乱していた。膝から崩れ落ち、手で顔をおおい、涙を流しながら声にならない悲鳴を上げた。

 頬を強く引っ張り、いつもの夢であることを祈ったが、痛みを感じて絶望した。


「あ…ああ……あああ!」

「なんで、なんでこんなことに……」


 そんな彼女を見て、他の6人はただ呆然とするほかなかった。

 最初に動いたのは黒髪赤目の男、シンである。シンは目の前の化け物が自分たちにまだ攻撃する意思がないことを確認し、玲奈を立たせる。


「ほら、しっかりしろ。取り敢えずここから逃げるんだ。あの子熊たちも連れてな」

「……」

「しょうがないか…失礼するぞ。おい、お前たちも子熊を連れて逃げるんだよ」


 シンは玲奈の首元に手刀をして黙らしてからおんぶし、他の5人にも声をかけた。シンの声にはっとした5人はすぐさま行動し、なおも泣きわめく子熊をどうにかしてなだめて1人2匹、両脇に抱えて逃げた。

 逃げるのを見た女性型の化け物はほかの獲物が逃げる所を察知して、黒い宝石をまじまじと見ていたのをやめ、すぐさま胃の中に放り込んで6人を追いかけた。


「やばいよ!これじゃすぐ追いつかれるよ!」

「大丈夫、そのための煙幕だろ!」

「あれ使えるの⁉絶対不良品よ!」

「失礼な!百聞は一見に如かずなり!出せお梅!」

「承知」


 子熊が8匹しかいなかったため手ぶらだった黒髪猫耳の梅は背中に抱えているリュックから桃髪少女の小雪が反対した半径5センチのボールを5個、走りながら取り出し、後ろに向けて投げた。


「⁉グワッ」


 化け物は急に目の前に現れた煙に驚き、足を止めた。どうやら中に入れないと思ったらしい。



 何とか逃げ切れた6人は20分走り続け、追手が来ないことを確認すると足を止め、休憩をとった。


「はあはあ…さすがに疲れた…」

「だな……」

「私も同感」

「ねえ…」「玲奈は…」「大丈」「夫?」

 梅はいまだにシンの背中にいる玲奈を確認した。

「……どうやらショックで寝ているだけです。」

「そうか」「それは」「よかった」

「にしても疲れたぜぇ……シン、なんであのまま戦わなかった?」

「それは……ここに別の依頼目標がいるからだ。」

「だけど、彼女結局戦いに行きそうだがな」

「そうだ、だから先にこの子たちを降ろして、俺たちだけでいく。彼女を巻き込みたくない。」

「……了解、リーダー。赤くなったのは後で聞いてやる。」

「ありがとう。それじゃ、皆行くぞ。」


 彼らは息を整えたと同時に事件現場へ駆け出して行った。あの化け物はまだそこにいると確信しながら。




 目を覚ますと6人の義賊団さんたちと化け物はどこにもいなくて、代わりにヌシの8匹の子供たちだけが取り残されていました。

 気絶する前の記憶がなんとも朧気で……ええと、確かシンさんに手刀を入れられて、そうでしたあの化け物にヌシさんが殺されていました

 不思議です 心の中ではブチ切れてますのに、意外と冷静に考えることができます。はたから見ると目が据わっているように見えるはずです。いつもより視界がクリアに見え、いま私が何をすべきなのか見えます。

 さて、どうやって化け物とシンさんたちを見つけに行きましょう…そんな時は瞑想です。

 私はヌシ戦の時とは違い、足を組んで目をつぶりました。いつも私を包む液体は紫です。しかし今回は赤色に染まっていました。師匠が言っていた色になりました。しかし私自身、特別強くなった気がしません。なぜ師匠は赤く染めろといったのでしょうか。不思議です。では心を無にしていきましょう。










……よし、落ち着きました。

 ではシンさんたちを探しに行くのですが、さっきから存在が朧気に分かります。ざっと6人でしょうか、もとの現場に近いところに向かっているのがわかります。まさか私を置いて戦う気でしょうか。許せませんねぇ私のことを舐めてもらっては困ります。早く私の強さを見せていきたいです。そのためにも急ぎましょう。

 くまちゃんたちはここに置いていきます。待っていたら母熊たちが見つけてくれるでしょう。それにしてもかわいい寝顔ですね。この子たちはまだ幼すぎるので、死についてまだ理解ができていないのかもしれないですね。トラウマになっていないことを願います。


 ここは私が15年過ごしてきた場所です。いくら足が速くても、道を知っている私の方がはるかに有利です。木々の間をすり抜け、絡まっているツタを伝っていくと、あっという間にに6人の背中が見えてきました。

 ところで私は今は素手です。見た限りヌシを一方的に倒した相手には流石に心許なさすぎます。ではどこで武器を調達すればいいでしょう。

 正解はあの6人から奪うことです!特にシンさんと小雪さんの大太刀、家にある私の太刀と同じ形をしているので、使い易いと思います。


 フフフ、急いでいながらも、背後まで警戒している様は流石にと言えます。しかし、長年培った私の技術の前にはその警戒も無防備に近い!タイミングよく見計らって、すぐさま相手のゴール(大太刀)にシュート!!!


「ん?なんか来るぞ?てい」

「グハー!」

「「「「「玲奈ちゃん⁉」」」」」


 さすがの警戒網、この私でも潜り抜けない網があるとは一生の不覚です。


「……ピクニックてみんなで行くと楽しいですよね。」




「何やってんだこの馬鹿!!!」

「ひぃ⁉ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「まあまあ祐樹、こんなに謝ってるんだし、許してやりなよ。」「そうよそうよ、ダントお兄ちゃんもそういってることだし。」


双子の人のおかげで、赤髪の人の怒りが少しだけ弱まりました。


「ぐっ、分かった。だがどうして付いてきた。俺たちは別に生半可な気持ちで戦いに行くつもりじゃないぞ」

「わかっています。ですが、私の森の家族が殺されたんです。これは私たちの問題であって、あなた達がかかわるべきものではありません。」

「じゃああんたはどうするって言うんだ?まさか素手で戦うっていうのか?」

「いいえ。なのであなた達の持っている大太刀を奪っていこうとしました。」

「馬鹿言ってるんじゃねえ!人のものを奪うな!あとこいつらのはあんたの持ってる両手剣とは違うんだ!戦う間もなく、死んでしまうぞ!」

「???」


 どうして私の武器が両手剣だけだと思っているのでしょう。


「誰と勘違いしているかわかりませんが、私は正真正銘大太刀が主流の人ですよ?」

「ああん?何言ってるんだおめえはそんなわけ……」

「やめろ、祐樹。」


 割って入ってくれたのは今まで黙っていたシンさんです。


「彼女がこう言ってるんだ、好きにさせよう。」

「どういう風の吹き回しだ?シンだってさっきまであんなに……」

「ここは彼女の庭で、俺たちよりも遥かに森のことに詳しい。。それに、彼女の戦いを今は見たことがない。見てから考えよう。」

「……分かった。その代わり、危ないことになったらすぐ後方に移動させるからな、覚えていろよ、玲奈。」

「は、はい!ありがとうございます!」


 なんかよくわからないですけど、うまく収まりましたね。

 彼らは危ないことがあったらいけないと戦闘用の和服と、シンさんと小雪さんとも違う大太刀を用意してくれました。大太刀は目算刃渡り1m50㎝もあり、反りがあまりないようなものを渡されました。私の使っている太刀と同じですね。和服は布でできていますが、防御力は格段に上がるそうなので、一応着ました。


「梅さん、私が自分でやりますから!」

「いえ、玲奈様の見繕いをするのも私の役目、これだけは譲れません。」

「ええ……」


 わざわざ作ってもらった簡易更衣室でひと悶着あったのは忘れましょう。ともあれ、6人を説得し(シンさん)、武器を用意し(小雪さん),服まで新しく来ました(梅さん)……私何もやってないですね。

 時間を掛け過ぎたように見えますが、何とあの化け物の類は地縛霊のようにその場にとどまるそうですので、急ぐ必要がないようです。


「戦う前に、相手の情報について教える。」

「分かりました。シンさん、ではどんな相手何ですか?」

「あの化け物はあんな姿をしているが、元人間だ。なぜそのような姿をしているかだが……その人間は狂想化をしたんだ。狂想化についてはわかっているな。」

「はい。」


 狂想化とは、種族問わず最後に望んだことをかなえるために狂暴になることです。特徴は片翼片角が生えていることです。狂想化する条件は判明していて、死の淵に立たされているときに制御できないほどの願いや感情が溢れた後、360秒以内に死亡することです。狂想化した人はほとんどが特殊な能力を手に入れるため、一般人には対処の方法がないです。狂想化期間が長いと恐龍化してしまう可能性が高くなるため、早めに討伐しないといけません。


「狂想化になってから何日くらい経っていますか?」

「ざっと1ヶ月くらいだ。いつ狂龍化してもおかしくない。それでもやるか?」

「やります!ヌシの仇のために」

「了解だ。俺たちも手伝う。再び死なせるような真似はしない。」


 背中に小雪さんからもらった大太刀を背負い、少し打ち合わせをしみんなと一緒に化け物がいるところへ向かいます。


 数分もしないうちに化け物の姿が見えてきました。未だにヌシの死体をあさっています。しかし先ほど見た時とは姿形が変わっています。腕は太く赤く染まり、片翼だった翼が両翼になろうと成長しています。あの黒い宝石はヌシの核です。核は生きているものなら誰にでもあります。それには個体のデータが入っており、食べるとほとんどの場合自我が崩壊し死に至りますが、元から自我が壊れている狂想化には関係ないみたいです。そしてその核を食べたことによりヌシの、アカクマの能力を手に入れたようです。


「義賊団から許可が下りた。対象の討伐を開始する。ダント、アリナ!対狂想化弾用意!発射!」


 シンさんは繋げていたイヤホン型の無線機に指示を出しました。

 打ち合わせ通り、5キロほど離れた周りが見える高所から「ダァン!」と双子の筒から弾が出た音が聞こえました。双子のその筒から出た弾は見事2発とも化け物に命中し、「グワァ⁉」とよろめきます。しかしその弾ごときでは皮膚を貫通できなかったようです。ですが驚かすことには成功です。化け物は何があったと周りをくるくると見渡します。

 この後からは私が1人で戦うため、私一人化け物の前に歩きながら出ます。

 化け物は私の姿を見るなりすぐさま攻撃に出ました。右腕の形を刃に変形し、私の心臓にめがけて一直線に突きます。ヌシの仇、ここで殺す。

 すぐさま背中から大太刀を取り出しながら攻撃をよけ、そのまま片手で化け物の右腕を切り落とします。体を失った腕は無様に血しぶきを上げ空で踊っています。状況が理解できていないような顔に向かってそのまま首元を狙います。

 しかし流石はヌシを倒した愚か者、すぐさま後ろによけ、私の攻撃による被害を首の皮一枚だけに抑えました。すぐさま飛びずさり、私の攻撃を警戒しています。

 アカクマの能力を得たといっても、特徴的な赤い腕が使えないことには無用の長物。苦痛を与える間もなく殺してやる。

 師匠が言うには狂想化の討伐方法は単純らしいです。胸の中心にある核を砕くか、脳を破壊するかのどちらかみたいです。しかし頭部はとても固いため、一太刀入れるにも苦労するので、大体は核を砕くのがセオリーらしいです。しかも格や脳以外は短時間で修復するため、長期戦は私に不利でしょう。今切った右腕がもう既に修復されています。

 突然、化け物は両手を広げ、私が攻撃するのを待つ姿勢をとりました。ヌシの記憶から私と戦った記録を見たのでしょうか、それは熊拳のカウンターです。しかしあの時とは状況が違います。私は拳ではなく、得物を持っています。その差は歴然でしょう。

 私は敢えてそのカウンターに真正面で戦います。左足を前に出し、半身の姿勢で右足に重心を載せます。そして大太刀を顔の右側で構えます。この型は如月零戦流攻の型「鬼人一連切り」。これは真正面から目にもとまらぬ速さで切るこれまた単純な攻撃です。この型の真骨頂は一回だけでなく、練度が上がるにつれ14回連続攻撃などができる点にあります。このバケモノ程度には一連で十分です。

 腰を落とし、足に力を籠め、一気に飛び出します。音を超え、衝撃波を与えた一瞬の後、既に化け物の目の前に私はいました。そのまま右下から左上へ振り上げます。

 私は侮っていました。狂想化した人がどれくらい強いのか、どれくらい固いのか、全て師匠から聞いたことでしかありません。ですので私は狂想化の人たち話を聞く度、狂想化は弱いと勝手に思っていました。

 化け物は私の一太刀を左腕で難なく掴まれました。引き抜こうにも力が強すぎて抜けません。同時に私は行動を制限されてしまいました。化け物は勝利を確信し、にたりと笑顔で私を見ていました。そのまま右腕を鎌の形に変形し、首めがけて振り下ろしました。いくら私でも首を切り落とされれば再生できずに死んでしまいます。

 流石に死を覚悟しました。師匠、先に死んでしまって申し訳ないです。親切な義賊団さん、私のわがままを聞いてくださってありがとうございました。まだやりたいことありました。家にある聖書全て読み切っていません。まだ記憶も戻っていない、そんな悲しい人生で終わらせたくなかったでした。目を瞑り、その時を待ちました。



……なかなか来ませんね、目を開けてみましょう。

 底には首から上がないバケモノと、その後ろに大太刀を持つシンさんがいました。シンさんは汗を滝のように流しながら振り返りました。


「危なかった。怪我はないか……よかった」

「……へ?」


 私は啞然としたまま情報を処理できませんでした。私と化け物が戦っていたのはほんの数秒。その間に、私たちよりも遠いところから早く一振りしたということですか?

 私はその技術に驚くと同時に、その強さに憧れました。目を輝かせている私を見て、シンさんは少し照れながら言いました。


「粗があるが動きも強さも申し分ない。よかったら、俺たちの義賊団に入らないか?」


 願ってもないことです。義賊団に入るということは世界中の旅をするということ。私の記憶の手掛かりになることも見つけることができます。そして何より、その強さに一目ぼれしたシンさんと旅ができるのです。私は喜んで返事をしました。


「……!はい!喜んで!」


 私はこの選択を、どんな悲劇があろうとも後悔はしません。それほど大事なもので、嬉しいものでありますから。

 だからみんなが死んでしまった今でも、悲しむことはあろうとも、悔やむことはありません。あるのは、殺された恨みだけです。


太平歴1132年8月16日

 如月玲奈

ここでプロローグが終わりました。

今回の物語作成において至らぬ点が多く見つかったので、次回作では改善していきます!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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