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第0-3話 邂逅

2024年9月14日 文章を一部改訂しました。

 ヴィクトリアと呼ぶ場所は私たちが蟻のように見えるほど大きな滝のことであります。古代ではそこをヴィクトリアの滝と呼んでいたらしいので、そのまま使用した名で呼んでいます。流石に滝の下では流されてしまいますので、滝の上にある大きな川のようなほとりで稽古をします。

 家からは30分ほどで行ける場所なので、とても近いです。

 稽古自体はただ木刀を10000回素振りするだけなので、2~3時間ほどで終わります。これでも早くなったもんです。始めたての頃は日が落ちても終わらず、4000回ちょっとで諦めてしまいました。


 11時から開始した素振り10000回は今日は早く、13時半には終わりました。

 素振りが終わった後は暇です。普段は師匠や水を飲みに来た竜と闘ったり、本を読んだりしています。そして日が暮れるころには帰ります。

 今日は師匠の勧めでこの森のヌシと対戦することになりました。

 ヌシは「熊竜アフリカブローベア(通称アカクマ)」という竜の群れの長です。アカクマは腕と口が赤く染まっていて、全長約3メートル、群れのヌシだと5メートルにも達する。腕と口が赤いのは仲間との縄張り争いや獲物の返り血がそのまま付着した説などがありますが、彼らの主食であるアドヒマンゴーのせいです。このマンゴーは食べると血のようなドバドバした赤い液体が出てきます。その液体は着いたらすぐに水などで洗えば取れますが、もし取らなかったら色素が体内に侵食して皮膚が赤くなってしまうという恐ろしい食べ物です。しかしアカクマはそれが大好物なので、腕と口が赤くなるくらいなら食べていたほうがましだ理論で腕と口が赤くなっていきました。

 ここまで見ればただの果物好きの熊ですが、森の頂点に君臨しているのは別の理由です。何とアカクマは賢いため他の竜に負けないために独自の戦い方を身に着けました。その技の総称は「熊拳」と私は呼んでいます。型などは無く、強いて言えば常に戦うことで己のスタイルを獲得することが型とも言えます。戦う相手も倒すためにあの手この手で勝とうとするので、固定スタイルはあまりないです。

 ヌシはとても優しく、森に来たばかりで環境が変化して少し引きこもりしていた私を元気つけるために命の次に大切なマンゴーをくれたり、初めて稽古をつけて下さったとき、私の実力に合わせて指導してくれました。おかげで私は森でのびのびと生活ができ、熊拳を会得しました。


 ヴィクトリアから少し離れた広場のような場所で今、師匠を挟みヌシと対峙しています。ヌシは賢者かと思うくらい頭がいいので、普通に人の言語を聴き取れます。


「ではワシは今日来るお客さんのためにもてなす準備をするから先に帰っておるぞ。」

「お客さんですか…師匠って知り合いとかいたんですね。」

「ワシのことをなめすぎじゃ。…まあ良い。せいぜい頑張っとれ。ヌシよ、手加減無用じゃぞ。」

「ガオー!(任せろ!)」


 師匠はそう言い残し、家の方角へ歩いて行きました。私は再びヌシと対峙します。

 ここにいるのは私とヌシのほかに、ヌシの家族や他の竜たちが戦いを見るために集まってきています。ヌシと戦うときは木刀を使用せず、拳で戦います。それは熊拳の作法であると同時に、木刀程度ではヌシが倒れる前に木刀が壊れてしまうからです。


 私は左足と左腕を前に出し、右足に重心を乗せ半身の姿勢を。対するヌシは後ろ足で立ち、両手を大きく見せびらかすように広げました。

 私は戦闘態勢のまま瞑想をします。瞑想は心の乱れを緩くしてくれるので、いつも闘う前などに重宝しています。ヌシもそれを知っているので、終わるまで待ってくれます。

 目をつぶると私は自身が紫色の液体に包まれているかのような錯覚に陥ります。師匠にその話をした時、それが赤く染めれば強くなるといわれました。正直方法は今でもつかめませんが、勝負前は必ず瞑想をします。心を無に

                  (古代王女の続き気になる…)







……よし。

 ヌシに目で合図をします。


「ガオオオオオオオオ!!!」


 私は真正面から飛び込むように全速で入り、懐に入ろうと試みます。この戦いの肝は短時間で私が懐に入れるかどうかです。時間が掛かれば掛かるほどヌシは懐への防御を強化するでしょう。その前に入ります。

 案の定ヌシはそれを待ち構えたかのように迷いなく広げていた右手をスタンプのように振り下ろし、カウンターを狙いました。それが当たるギリギリでかわし右へステップ。しかしそれも読んでいたか躱した先にすでに私を狙った左アッパーを繰り出してきました。

 その攻撃を何とか体を逸らしてかわし、懐に侵入成功です。そのまま左わき腹に拳を入れようとしますが、バランスを崩していて1テンポ遅れます。

 その間にヌシが不安定に見える体制から右足で回し蹴りをしてきました。流石に避け切れないので、右腕を使い防御姿勢をとり、回し蹴りの速度に合わせ私も左に逸れ、受け流します。このまま攻撃してもいいですが、敢えて飛び上がり、上から攻撃を仕掛けようとします。

 ヌシもそこまで読めなかったのか私との対戦で初めて慌てた様子で上にいる私に右アッパーを繰り出します。

 私は空気を踏み台にし、一気に地面へと降り、再び懐へ侵入を成功させました。ここまで来たら私の勝ちはほぼ確定です。後は目の前にある無防備なお腹に一撃をぶつけるだけです。しかし懐に入られたヌシは不意に笑いました。実はここまで私の行動を読んでいたようで、私から見て右からヌシの渾身の左フックが押し寄せてきます。流石は歴戦の個体。私との経験の差は歴然です。だけど私の拳がヌシに到達する方が半瞬早いです!

 ここまでは順調でした。野生としての経験が豊富で、師匠とも私より長く戦えるヌシに対してよく優勢に立ち回れました。アカクマに負けずとも劣らないスピード、空気を踏むとかいう高度な技術、どれをとっても私は強くなったと思います。それでも私とヌシには明確な差がありました。それは体でも技術でもなく、戦いの経験でした。

 私がヌシのお腹にあたる直前、突然「パァン!!!!」という大きな音が聞こえました。その音は私の記憶にあるどの音にも当てはまらず、無意識にその音を分析しようと一瞬体を止めてしまいました。半瞬速い攻撃が一瞬遅れるとどうなるかわかりますね。正解は半瞬遅れる攻撃になりました。なんとヌシはその音に何も反応せず、左フックの速さを少しも遅らすこともなく私の右わき腹に直撃しました。どうやらヌシは突然現れた音の正体を知っていたため、びっくりしたり怖がったりすることがなかったみたいです。

 直撃をもろに食らった私の右わき腹からグチャグチャと聞こえてはならない体を破壊される音が聞こえました。内臓は破壊され、あばらを何本も砕き、更には脊髄まで衝撃が伝わり、ポキッっと折れる音が聞こえて慣性のままに吹っ飛ばされました。

 私は目の前が真っ暗にな







『レーナさまレーナさま!私も   へ行きたいです!』

『しょうがないなぁ   は。じゃあ私と手をつなぐんだよ。』

『分かりました!レーナ  さま!』





 ……どれくらい寝ていたのでしょう。まだそんなに時間は経っていないように感じますが。また夢を見ました。

 誰と何処へ行くか大事なところが抜けている夢を。夢なんて来てほしくないと何度思いましたか。この終わりの見えない喪失感があるならいっそ……いえ、それ以上はやめましょう。

 それにしてもヌシは本気で私を吹っ飛ばしましたね。私がまだ回復できるからいいものを、一般人にしたらホントに木っ端みじんですね。


「……ゕ……ですか!大丈夫ですか!」


……誰かが私の体を抱えていますね。師匠でしょうか。

 目を開けるとそこには私をお姫様抱っこのように抱えている見知らぬ少年がいました。服は武士が着ているような動きやすい着物、背中には見たことない程大きな刀を背負い、髪は烏竜のように真っ黒でした。確か極東部の鬼人族がそんな髪色をしていると聞きました。そして目は血のように赤く染まっているとも。

 しかし少年の目の色は真っ白でした。何も書かれていないキャンパスのように、純粋を手に入れたバラのようにそれはとても真っ白でした。白い眼をした少年は心配そうに私を見下ろしています。

 一応体のほとんどは修復していますが、一番損傷の大きい脊髄が治りきっていないため、下半身が動きません。しばらくはこのままでいいでしょう。

 私の周りには少年他に、大きな盾と片手剣をヌシに向けた甲冑を着た赤髪緑目の大柄な少年、その後ろに白い眼の少年と同じような刀を構える腹出し和装の桃髪金目のツインテ少女、少し遠く離れたところに大きな筒をそれぞれ抱え髪と目が同じの緑髪藍色目の男女、白い眼の少年の横で心配そうに私を見下ろす猫耳の生えた黒髪赤目の少女がいます。

 ヌシも突然現れた少年たちに敵意を向けられたため、距離を取り臨戦状態に入っていましたが、私がヌシにウインクをすると私が大丈夫だと理解し、ゆっくりとその場を後にしました。彼らは恐ろしい竜が離れたとほっと胸を下ろし武器をしまいました。白い眼の少年は再び私の方を見て、


「大丈夫だよ灰目の人、あなたの傷は浅い。」


 と悲しそうな眼で見てきます。どうやら私のぶっ飛んだ後の状態を見ていたのでしょう。このまま村にいる医者の所に行ってしまったら大問題です。それならば一芝居打って死んだと錯覚してここに置いて行って頂きましょう。


「……み、みればわかります…わたしはもう……」

「お、おい!しっかりしろよ!まだ大丈夫だ、村に行けば」

「だんだんまわりが…みえな……く……」

「俺たちが付いている。だから安心しろ!」

「もうだいじょうぶです……わたしはじゅうぶん生きました…あなたたちはわたしのぶんまで…いきてください。」


 ここまで演技すれば諦めてくれるでしょうか。私は目を閉じ、彼が地面においてくれることを今か今かと待ちます。

 しかしその時は永遠に来なくて、替わりに私の頬に一粒の水滴が伝ってきました。何事かと少し目を見開くと、彼は口を開け眼を赤く染めながら見開いたまま涙を流していました。世界の真理にでも気づいてしまったのでしょうか、それとも初めて会った人にも感情移入する人でしょうか。前者はともかく後者は私が始めた物語なので、申し訳ないです。

 私は思い切り目を開け、すぐに起き上がり白い眼の少年に極東部の伝統土下座(本に書いてあった)をしました。なんと既に脊髄は治っていたようですので、下半身も動きました。


「すみません!じ、実は私あのくらいの傷なら治せて……私はここに住んでいるものでして、えっとえっとわ、私こんな髪色と目をしているので、村に行くときっと大騒ぎになるから死体の振りでもしてやり過ごそうとしていました!本当にすみませんでした!!!」


 ……数秒待っても許しの言葉が聞こえないどころか、誰一人言葉を発しません。まさか言葉にならないほど起こっているのでしょうか?

 恐る恐る赤く染まった眼の少年の方に目を向けると、涙を流したままずっと私を凝視していました。ひえっ、本当に出来心だったんです!彼はどんな言葉を私にいうのでしょうか。出来れば優しくお願いします……

 しかし彼は怒ることも喜ぶこともなく、ただ一言


「……玲奈」


 と発しました。びっくりです。どこで私の名前を知ったのでしょうか。私だけでなく彼の仲間らしい人たちも彼を見て驚いていることにもびっくりです。彼は私の反応で名前が玲奈だと確信したそうです。彼の目からブワッ!と涙が溢れ嗚咽しました。まるで死人に再び会えたかのような泣き様です。拭ってもぬぐってもあふれ出てくる様はヴィクトリアみたいです。彼の聖書のような顔が台無しです。

 少し時間がたち、彼はようやく泣き止みました。


「……すまない、みっともないところを見せてしまった。」

「いえ、大丈夫です。ところで、あなた達は誰ですか?」

「そうか、記憶は……」

「?記憶が何ですか?」

「いや、こっちの話だ、玲奈、また死んでなくてよかった…俺はシン。それと赤髪のは……」


 赤い眼の男の人はどうやら落ち着いたようで、私にひどく優しい声で名前と目的を教えてくれました。話を要約します。

赤髪の大柄少年:祐樹

ツインテ桃髪腹出し少女:小雪

緑髪双子の兄:ダント・ノムラ

緑髪双子の妹:アリナ・ノムラ

猫耳鬼人族:如月 梅

 の6人で世界中の人を助ける義賊団をしていて、今回はその依頼でこの森に来たのだということです。

 義賊団とは太平歴が制定する前にいた、あらゆるものから人々を守るために49人の英雄が立ち上がった時に使用したチーム名で、その英雄の1人が他の人も助けるために立ち上げた会社?も義賊団という名前だったと思います。言わば聖書でいうギルドみたいなものです。世界中に知名度があり、今では困ったらとりあえず義賊団にお願いすると師匠も言ってました。


「その依頼ってのは何ですか?」

「ああ、1つは人探し。もう1つは……」

「キャオオオオオオオン!!!!!!」


 唐突にアカクマの群れにいる子供の悲鳴が聞こえました。なんだか嫌な予感がします。


「シンさん、アカクマの様子が変なので、見に行ってもいいですか?」

「ああ。それに、俺たちが追っているものに関係があるかもしれないからな」


……ショックを受けた顔で言われても困ります。

 ともあれシンさんたちと悲鳴がした先へ向かいました。アカクマの子供たちはみんなで縮こまってしまっています。そこから先へ進むと、恐ろしい光景がありました。

 そこには体をボロボロに切り刻まれ心臓付近をくり抜かれ穴の開いた森のヌシと、手に黒い宝石のようなものを今にも食べようとしている、背中に片方だけしかない翼が生えている女の人がいました。

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