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第0-2話 生活

 私の住んでいる所の近隣の村では、10数年前からある噂があります。。それはこのあたりの近くにある森に入ったら呪われるというつくならもっとましな噓をついてほしい何とも信憑性のないものです。

 しかし事実、その森に入ったほとんどの人達は何かに取り付かれたかのように性格が変わってしまったみたいです。


 最初に被害にあったのはその森に最も近いところに住んでいる農民でした。


 その人は内縁の1人の妻と5人の子供がいて一家の大黒柱として毎日働いていました。彼らの生活は決して裕福ではありませんでしたが、記録にある通りですと、1103年9月11日の日、いつも通りに彼は薪を集めるために森へ入っていきましたが、何とその日の夕方までに帰ってこなかったみたいなのです。心配に思った妻はすぐさま村の人々に相談し、夫を探してもらえるように頼みました。しかし夜のうちに探すのは危険と考え、捜索は翌日からになったみたいです。


 翌日の朝、村の捜索隊が結成し、これから探しに行こうと思っていた矢先、話題になっていた農民が帰ってきたみたいなのです。彼の帰ってきた時の姿はひどいものだったといいます。服はずたずたに引き裂かれ、胸部には何者かに爪でひっかかれた跡があり森に入るまではあった左腕は途中からなくなって、そんな状態でも何とか生還してきたのだと見れます。ここまでは村の人たちも驚かなかったみたいです。


 何故ならその森には森のヌシがいて、普段は温厚ですがヌシたちの食べ物を粗末に扱ったりヌシの子供に近づいたりすると怒ってその人を傷つけ、最悪死に至らす場合があるからです。


 ぼろぼろの状態だった彼は村の人々に治療されながら話します。案の定、村の人々が思っていた通り森のヌシの食べ物である果物が実っている木を間違えて切ってしまい、ヌシが切れて農民に襲ってきたみたいなのです。しかし、その後は村の人々たちには予想もしなかった出来事が起きました。


 ヌシに襲われ、後1回攻撃を食らったら終わりの状況で、助けに来た人がいたみたいなのです。その人は女性のような姿で灰色の髪、桔梗紫の目をした人だったようです。


 村の人々は震えあがりました。この世には髪が白、目はサファイアのように美しい青色の龍という種族がいました。龍といわれる種族は世界を変える力を全員持っており、今や龍の下位互換に近い性質を持つ竜人族が全世界の90%を占めているこの世界では竜人族はその力に畏れていました。さっきの女性はその色に近い髪と目を持っていたため、この龍に近い力を持つと考えたのです。

 しかし、被害にあった農民だけは違ったのでした。彼はその話をした後、こう言いました


「あれは愚かなる我らの為に降臨なさった神だ……あと可愛いかった」


 農民は回復した後、片腕で今までよりも多くの農作物を作り、収穫した後には毎年必ず家族・村人たちの静止を聞かず、収穫した1部の作物と共に森へ奉納のためといい入っていきました。

 村の人々は農民の心を奪った龍に恐れましたが、まだ被害が1人ということもありまだ村の噂程度にとどまっていました。


 ちなみに私の所にも1年に1回心優しい農民さんが家族を連れて1年分のお米をくれます。何だか私と状況が似ていますね。


 しかしその村で2,3人目の被害者が出てきたことで事態は急変したらしいです。


 2人目の森の被害者は被害にあった農民がいた村で一番の強者だったみたいです。彼は乱暴な性格で人の所有物を奪ったり、機嫌を悪くするとすぐ人や物に八つ当たりしたりするなど、少し村の人々は困っていた人物なのでした。

 うわさを聞いた時も農民の心配なんかより、自分より強いやつがいるのかもしれないということに腹を立て、森の中へ入っていきました。村の人々は厄介な人がいなくなったことに安堵し、気にも留めていませんでした。


 数日後、彼が帰ってきたとき、村の人々は驚きました。彼の姿は農民のようにひどくはなかったのですが(服は勿論ボロボロだったみたいです)、彼らが驚いたのは乱暴だったはずの強者の顔がひどく優しくなっていたのです。そのことを彼に問うと、彼は


「森の龍様のおかげで悟りを開いただよ……とっても美人だっただ」


と言いました。彼が言うには森に住んでいる龍様と何回も戦ったみたいなのですが、全敗しそして必ず戦った後には治療をしてくれたみたいです。その行動に乱暴だったその男は改心し、自分もそうあろうと考えたみたいです。その後は乱暴で怠け者だった彼はどこへやら、困っていた人がいたら助け、気に食わないことがあっても怒こることなく、むしろ笑って過ごしていました。更には働き始め、村の為に貢献するようになったみたいです。

 彼の性格の変わりように村の人々は恐れましたが、それでもまだ森を閉鎖するにはインパクトが足りませんでした。


 …私の所にもそんな人が来ましたね、偶然にしては共通点がありすぎますが…その人も「あなた様のおかげで悟れただよ」とか言ってましたね……


 3人目の被害者は隣の村に住んでいる村長の息子です。その村ではしきたりがあり、村長の息子が婚約するときは嫁になる人に勇気を示すため森の奥にある巨大な滝の水を取ってこないといけないらしいのです。彼の耳には隣の村では森に恐ろしい龍がいるという噂が入っていました。しかし彼は怖がるどころかその恐ろしい竜を倒してみんなに認めてもらいたいと意気込んでいました。結果は…上記の二人のようになってしまいました。


 数日後彼が帰ってきたときは何者かにリンチにあったかのような跡がいっぱい残っていました。彼が言うには滝のあたりで噂である龍を見つけ、倒そうとしたら突然周りにいた(ドラゴン)たちが襲ってきたのです。彼は瀕死の状態まで襲われましたが、何とあの龍に助けられ、治療までしてくれたのです。そして彼は心配している村の人々に


「この美しい龍様のお姿を、俺は表現しなければならない。それが俺の役目だ。」


と言いました。彼は絵が得意であったため、その灰髪桔梗紫目の女性の龍を持ち前の画力で表現しようと何日も何回も書き続けました。その姿に感銘を受けた婚約者は彼に一生添い遂げると誓ったそうです。

 ちなみに描かれた絵は今では高値で取引されるほどの人気商品となっています。


 ……私もその絵を見たことありますけれど…めっちゃ私ですね……どっからどうみてもわたしですね……


 村長の息子が変わり果ててしまったことをきっかけに森の龍の噂は瞬く間に広がり、似たような事件がそのほかにもたくさん上がったため、遂に森は誰も入らないように閉鎖し厳重な警備が敷かれるようになりました。


「てかその例の龍って完全に私ですよね……」

「今頃気づいたか、遅すぎるぞこの間抜けが」

「ぐうの音も出ません……」


噂に出ていた森の中、私のことを間抜け呼ばわりする人は先ほどまでの噂を私に教えてくれた人で、私の師匠です。艶やかな白髪を持ち、目は宝石でも入れたのかのような美しい青色が輝いています。とっくに1000年以上生きているのに見た目は若い青年のままです。みんなそうでしょうけれども。

 私が師匠と呼んでいる人と、今は三階の天井の空いたキッチンで対面で朝食を食べています。

 家はバオバブという木の中をくり抜いたものでできていて、3階構造でできています。大雑把に説明をすると、3階は先ほど言った通り天井に屋根がなく、ほぼ食べるだけのスペースです。2階は私と師匠の部屋、一回は道場になっています。


「でもそれこそ師匠のほうこそ何故みんなが言う龍の見た目をしているのに噂にならないんですか?」

「それはワシが長年研究した技の後遺症で、ほとんどの人には見えなくなってしまったのじゃよ。」

「何ですかその悲しい後遺症は……」


大体、私は見えているのでそんなことないでしょうと言いながら私はお米を口に運びます。。


「玲奈、さっきの龍の話がもしそなたではなかったのなら、どうするつもりだったんじゃ?」

「フフフ……それはもちろん稽古をつけていただきたいと懇願しに行きますよ」

「どこぞの戦闘狂かおぬしは」


自信満々に語る私に対して師匠はあきれながらツッコみます。


「大体そなたはもう十分強い。ワシなんてすぐ倒せるであろう。」

「そんなこと言って、私師匠に勝ったの一回しかないですか。」

「あれは運ではない、そなたの実力じゃ。現に今ワシが勝っているのは、そなたが手加減しておるからじゃ」

「手加減なんてしていません、あれは本気です。」

「そう言うと思っておったよ。まあ良い、今日もヴィクトリアへ行くぞ。」


そう言い残して師匠はごちそうさまを言う代わりに両手を合わせ、食器を片付け部屋へと戻っていきました。

 私も残っている朝食を焦らずゆっくりと噛み続ける。

 それにしても、農民さんからのお米はいつ食べても美味しいです。お返しをしようとしても「私が好きでやっていることなので大丈夫です」と断られてしまいます。それでも流石に申し訳ないので、洞窟から手に入れたキラキラする石を渡しています。師匠の目の色のように美しい石を。

 いつか師匠もシャバに出てきてほしいです。師匠は自身は龍ではないとおっしゃっていますが、仮にそうでなかったとしても、今の時代あのような姿ではどこでも恐れられ、迫害されるに違いありません。極東部にある国にまで行ければ、迫害されることもなく過ごせると思います。

 家にある本によると、その国は如月と呼ばれ、人口10万人の竜人族とは違う、鬼人族が住んでいる珍しい国です。約100年前までは竜人族の代表国と友好関係を結んでいたみたいですが、その代表国がクーデターにより滅びてしまったらしく、その時から国交断絶し始めたみたいです。たった10万人で一億もいる国と渡り合えるその力、是非とも人生で一回は行ってみたい国です。

 行ったことない国に想いを馳せているうちに食器の中は空っぽになっていました。私は手を合わせ、


「ごちそうさま」


と言い片づけます。

 階段を降り、自分の部屋に入り出発する準備をします。


 私は衣服に関しては全くの無知で、大体来ている服は師匠が作ってくれたものを着ています。王女が着るようなドレスを作ってきたときは流石に驚きました。そんなものは着たくないというと師匠は少ししょんぼりしていました。それ以来、私が動きやすいものを作ってくれます。

 稽古などをする関係ですぐ服がボロボロになってしまうので、多めに作ってくれます。何十枚もある袖の無い服に短い服を着ます。聖書で出てくる田舎?のやんちゃな少年がよくする格好に見えますが、残念ながら私は女なので、聖書には出てこれないでしょう。


 2つの木刀を細長い鞄に入れ、最後の準備を整えます。木刀は2種類入っていて、1つは東部の人が使う片刃の刀、もう1つは西部の人が良く使う両刃剣です。師匠は両方とも使えるようにと教えてくださいました。師匠は両刃剣の方が得意ですけど、私は刀の方が得意なようです。師匠の教えが下手ということでもないのですが、是非とも本場の東部で教えをいただきたいです。

 壁にかけてある機械式時計を見ると、針は午前7時を指していました。いつもは10時に出発するので、まだ3時間も残っています。


 なぜこんなにも早く準備したのかと驚かれることでしょう。フフフ…そう!私の大好きな聖書を読む時間を増やすためなのです!もはや聖書を読むためだけに生きているといっても過言はないです。私の頭の中には常に聖書のことを考えていて、稽古するときも、歩く時もずっと考えています。本当はお風呂の時や、食事中にも本を読みたいのですが、師匠には食事中はお行儀がよくないといわれ、お風呂に入っているときは濡れて読めなくなってしまうので、泣く泣く諦めています。

 私の部屋には師匠が作ったベッドと、机椅子があり、これまた師匠が作った棚がずらりと並んでいます。そこには読んだことがある聖書と読んでない聖書があり、私はまだ読んでいない聖書の一冊を手に取り、ベッドにダイブしてうつ伏せで読み始めます。


 今日読む聖書はこれ!いま私の中で話題沸騰中の「時々ボソッと古代語でデレる隣国の王女様」です!約110年前に発行されて今もなお根強い人気を誇っています。

 あらすじとしては主人公が婚約予定の王女様と一緒に学校を過ごしていて、その王女様はいつも主人公にそっけない態度をとるのですけれど、時々古代語でボソッとデレていて、主人公は実はその言語がわかるというラブ&コメディーの作品となっております。

 私は一応古代語が読めるのですが、昔は私もみんなも知らなくて、この聖書が発行されたときは王女様の言葉の意味を理解しようとみんながみんな躍起になって勉強してしまったものですから、勉学も技術も普通だった私の国が古代語だけ結構研究が進んでしまい、古代ブームが起こってしまいましたね、あれは懐かしいです。

 ……懐かしい?夢でも見ていたのでしょうか。


 その聖書は比較的読みやすく、とても面白い作品でしたので、時間が過ぎるのを忘れるほど読んでしまいました。何故か既視感が多く、展開を先読みしてしまった部分が腑に落ちませんが、それでも私はこの聖書が好きです。

 それにしてもこの王女様、私によく似ていますね、髪と目の色は違えども形やくせ毛まで私と一緒です。しかも龍ですし…昔の人は畏れていなかったのでしょうか

 

 時計を見るとちょうど10時を指していたので、本をもとの位置に仕舞い、木刀の入った鞄を背負い、1階に下ります。

 1階に降りると右に扉があり、そこを開けると師匠がすでに道場の真ん中で胡坐をかきながら待っていました。小さな道場なので大勢を指導するには不向きですが、それでも2人だと広く見えます。

 私は磯の香りを感じながら道場に入ります。師匠は私の気配を察知したかこちらを向かずに


「では行くか」


 と言い立って扉から出ていきます。私も慌てて師匠の後をついていきます。


太平歴1118年 8月16日午前

 如月 玲奈

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