第0-1話 正夢
わたくし上田ウメの処女作でございます。
読んで面白いと思って頂ければとても嬉しいです。
今日は記憶のある時からよく見る夢について書きます。
師匠はそれはわしにもよくあるから気にするなと言われましたが、この15年ずっと悩まされているので、書いていこうと思います。
私は時々、夢を見ます。
ある時はデートしていて、またある時は人の輪の中心で音楽に合わせ歌って踊る。時には稽古をつけていて、ボコボコに負けていましたが、それでも楽しそうでした。
でもその夢は私の記憶にはないです。知っています、夢に出てくるものは大体現実みたいに現れる幻覚のようなものであると。また、夢は寝ているときに脳が無意識に記憶を処理しているとも聞きます。だから、夢は私の記憶にないのが普通で、当たり前なのでしょう。
けれど私は覚えています。それがただの夢ではなくて実際に現実で起きた出来事だったと。脳は覚えていなくても体が覚えています。実際に起きた現象であり、体験していたと訴えています。
しかし、覚えていません。いつ、どこで、誰と、何をしたのか一切その全てを。
その夢を見るたび、見たことを思い出すたび、懐かしいと感じます。今初めてこの店来たのに前行ったように感じるデジャブのように、私もその夢に対し、デジャブを感じます。その景色が二度と戻らない悲しみと、大切なものを奪ったものに対する憎しみの気持ちが湧き上がってくるのが体を通して伝わってきます。
それでも夢はただの夢です。今いるこの現実とは何ら関係がありません。今の生活に不満はないですけれど、隣の芝生は青く見えるように、今とは別の道を歩んでみたいと心のどこかでは思っているのかもしれません。その思いが夢という幻想として現れているだけなのかもしれないです。
だから私は夢を見るのがはっきり言って嫌いです。懐かしく悲哀に満ちていて、目覚めたときには喪失感に襲われてしまうのなら、夢なんて見たくない。今いるこの現実に目をやり、今この瞬間を生きていくべきだと思います。
でも、それでも夢が現実であったのならば、
昔の私は幸せであったのでしょうか
太平歴1118年 8月15日
如月 玲奈