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鬼に男を生贄として出すはずが女の私が生贄にされた。と思ったら鬼じゃなくて龍だし、なんか嫁になるらしい

作者: 三日月蜜柑

思いついたのでガーっと書きました。

その為雑です。設定も甘いです。

それでもよいと広いお心で許していただける方はお進みください。



 とある山奥にある、小さな山村。

 その村には、いつからあるのかも分からない因習があった。


 二十年に一度、村から若い男を一人、村の奥にある森へ生贄として差し出す。

 古くから伝わり現在まで守られてきた因習だが、分からないことはたくさんある。

 例えば、生贄を捧げている存在。

 生贄を求めているのは「鬼」で、男を求めるのは「鬼」が若い女の姿をしているからだとか、食べるところが多い男がよいのだとか様々な説があるが、生贄にされた男が戻ってきた例はないので、確かめようがない。

 それに、生贄を差し出さなければ何が起こるかも、実のところよく分かっていない。「村に災いが起こる」と言い伝えられているものの、それがどのような形で村に降りかかるのか。村人が皆殺しにされるのか、天変地異でも起こって村そのものが滅ぶのか。

 いずれにしろ村人は「鬼」を恐れ、生贄を欠かしたことはない。


 そして今年、前回から二十年を経て約束の年となったわけだが、村では問題が起きていた。

 村には、若い男がいなかったのだ。近くで戦が起きたとかで、若い男は戦の兵隊となるため顔も知らない領主に徴兵されてしまった。村長は一人でいいから残してくれと懇願したが聞き入れられるはずがなく、村には年寄りと女子供だけが残された。


 二十年ごとに、畑を耕す季節が来る前に生贄を差し出す。

 村長や村の有力者達は一縷の望みを賭けて男達の帰還を待ったが、生贄を免れるために嬉々として参戦していった若者達は帰ってこない。そも、戦はまだ続いているらしい。

 限界だと悟った村長達は話し合いの末、一つの決定を下した。


 「めぐを男と偽って生贄として差し出す」


 突然家に押しかけて来た村長達にそう告げられためぐは、目を丸くした。


 「私は女です」

 「分かっている。だが男がいないのだ、仕方あるまい」

 「生贄を出さないよりはマシだろう」

 「お前がきちんと説明するのだ。我々は必死に生贄を工面したのだと。だから村を向こう二十年見逃すようにと「鬼」に伝えろ」


 生贄本人に、村の命乞いをしろとは。

 めぐはかぶりを振った。


 「嫌です。私は女です。不興を買って、その場で殺されてしまうかも」

 「その時は、自分だけで収めてくれと申し出ろ」

 「そんな」


 めぐの抗議は一切聞き入れられない。長老達の後ろからぞろぞろと女達が入ってくる。いずれも年嵩で、子を持つ母であった。生贄となるには歳を取り過ぎている彼女達は、自身の子供を守るために天涯孤独のめぐを抑えつけて縛り上げ、猿轡を噛ませると、顔を隠す面布をつけてから生贄を運ぶ為の輿へとめぐを乗せた。


 「でかいから乗らないかと思ったが、もとより男を運ぶ輿だ、乗らないはずがなかったな」


 長老の心ない一言に、めぐは羞恥を覚える。

 めぐは、女にしては背が高かった。同じ年齢の娘達と比べて、頭一つ分は大きい。そのうえ痩せていて女らしい丸みがないから、遠目に見ると男に間違われることもあった。それもまた、めぐを男と偽って生贄へ出そうとした理由だろう。パッと見ただけでは分かりにくい。「鬼」がわざわざ性別を確認しなければ、本当に気付かないまま食べられてしまうかもしれない。それがまた、悔しいし恥ずかしい。


 「そもそも、天涯孤独となったお前をここまで面倒見てやったんだ。感謝してほしいくらいだ」


 それも本当だった。めぐは両親を早くに亡くし、物心ついた頃には一人だった。だが庇護者のいないめぐの生活は、それなりにひどいものだった。

 あばら家を家として与えられ、寒さと暑さ、隙間風に耐える日々。「誰かがやらなければならない仕事」はめぐの仕事として任され、朝早くから夜遅くまで働かされた。それでいて、食べ物は支給される形だったから、どんなに腹が減っていてもそれ以上を与えられることはなかった。

 村の生活に嫌気がさしていたのは確かだが、だからと言って生贄になるのはもっとごめんだ。ましてや、こんな村人達を助けるために。

 悔しさに体を震わすも、輿は揺れが激しく、誰もめぐのことなんか気にも留めていない。

 何もできないまま、めぐは粛々と運ばれていった。




 村の奥の森には、普段は立ち入りを禁じられている場所だった。

 広く深い森で、この森に入って生きて出てきた者はいない。唯一の例外が、二十年に一度、生贄を差し出す輿である。

 この時は、不思議と道が分かるのだ。目印があるかのように、導かれるように森の奥にある洞窟へ辿り着く。洞窟の中には小さな祭壇があり、輿を運んできた者達が祭壇を掃除し、生贄を背負い籠のような大きな籠に詰めて布をかけて祭壇の前へ置く。そして空になった輿を担いでいくと、すんなりと村へ帰れる。この時、欲をかいて寄り道をしたりすると、森から出ることは不可能になる。過去に一度、帰りに森で狩りをしてから帰ってくると宣った輿持ち達は、そのまま帰ってこなかった。以降、輿持ち達は直行直帰を心得ている。

 それも、置き去りにされた生贄には関係のない事だ。縛られたまま窮屈な籠に詰められためぐは、身じろぎひとつしなかった。実際、狭すぎて動けない。


(本当に、「鬼」が来るのかな……食べられて、私は今日、死ぬの?)


 実感がまるでない。女として生まれれば、無条件に生贄のことを心配しなくてよかったはずなのに。こんなことになるなんて。

 めぐはまだ二十歳に満たないから、前回の生贄がどんな人で、何を思って生贄となったのか分からない。同じ目に遭って、犠牲の上に胡坐をかいていたという事にようやく気付く。


(死んだら、呪ってやろう。……どうすればいいのか分からないけど)


 そんなことを考えていると、不意に物音がした。めぐは思わず思考を止め、心なし息も潜める。猿轡のせいで苦しかった。

 砂利を踏むような音――足音だ。それが祭壇の方から聞こえた。


(どうして祭壇から? そっちは洞窟の行き止まりのはず。……いつからいたの?)


 分からなかったが、ただ一つ分かったのは、この足音の主が、めぐが捧げられる相手、「鬼」であるということだ。たちまち恐怖に震える。

 足音はめぐのすぐそばで止まった。布が取り払われる。


 「――おや?」


 聞こえたのは、男の声だった。恐ろしい唸り声や、そもそも言葉を介さない存在だと思い込んでいためぐは驚くき、思わず顔を上げた。しかし面布が邪魔で、「鬼」の顔は見えない。だが次の瞬間。面布が捲られて、めぐは鬼の姿を見ることが出来た。

 

(これが……「鬼」?)


 面布を捲った「鬼」は、青年のように見えた。麦藁のように美しい金の髪に、若葉色の瞳。頭からは鹿の角のようものが生えているが、若鹿のように三又くらいしかない。


 「君、女の子だよね? どうして女の子が運ばれてきたのかな?」


 めぐは目を見開いた。「鬼」は、早々にめぐの性別を見破ったらしい。めぐは言い訳をしようとして、自身の口が塞がれている事を思い出した。もごもごしていると、「鬼」が気付く。


 「ああ、ごめんごめん。苦しいよね。籠から出よう」


「鬼」はめぐの事を軽々と担いで籠から出すと、猿轡と、手足の縄を解いた。

 めぐは「鬼」の怪力に驚く。


 「で、どうして女の君が来たのかな?」


 そっと地面に下ろされるけど、めぐはたまらず座り込んでしまった。これまでの人生で経験したことはないが、どうも腰が抜けたらしい。

 それでも、めぐは必死に口を動かして答えた。


 「あ、その。村の若い男達は、戦に参加させるからと連れていかれてしまって。生贄になれる年代の男がいなかったから、私が代わりに」


 しどろもどろながら答えると、「鬼」は「ふぅん」と呟いた。


 「そういうことだったんだね。でも困ったな。新しい人、どうしよう。君、力仕事は得意かな?」

 「え? 力仕事?」

 「うん。畑仕事とかだけど、結構力がいるからさ」

 「え、あの……私、生贄ですよね?」


 思わず素で尋ねると、「鬼」はうーんと唸る。


 「生贄……になるのかなぁ。家族と引き離してるんだから、やっぱりそうなのかな」

 「? 食べたりとか……」

 「まさか。食べないよ、おいしくないもの(・・・・・・・・)。僕は昔ね、あの村の人間と約束したんだよ。二十年ごとに立派に働ける村の男を貸してほしいって。その代わり、水害がないように村を守る手伝いをするよ、ってね」

 「え……」

 「僕の里はいつも人手不足だからね。昔は元気な人が自分で歩いてきてくれたんだけど、最近は僕に食べられるために寄こされたと勘違いして無理やり縛られた人が寄こされるんだ」

 「お、「鬼」の里が、人手不足って事……ですか?」


 ああ、と「鬼」が笑う。


 「そこも毎回、訂正してるなぁ。僕は鬼じゃなくて、龍なんだよ」

 「龍?」


 めぐは思わず、「鬼」――彼の頭を見た。一対の角。ではあれは、鬼の角ではなく龍の角という事か。


(龍なんて。鬼よりよっぽど、おとぎ話の存在だ)


 病が流行ったり、一家が揃って急死したりすると、「鬼が悪さをした」と考えられる。対して龍は、大雨や川の氾濫、とんでもない強風の時などに「龍が怒っている」と喩えられた。どちらも人間からしたら人智の及ばぬ恐ろしい事だが――鬼と龍では規模が違う。

 目の前の存在がいかに強大で恐ろしいかに気付き、めぐは震えあがったが、龍の方は気にした様子もない。


 「――とにかく、僕は働き手になる元気な男に来てほしかったんだよね。困ったなぁ」


 龍は、腕組みをしてめぐを見下ろした。一瞥されただけで、どきりとしてしまう。

 男じゃないなら食べるしかない、とでも思われているのだろうか。そういえば、先程この龍は「人間はおいしくない」と言った。それはつまり、食べたことがあるという意味ではないか。


 「お、女じゃ駄目なんですか?」

 「駄目とは言わないけど……」


 「鬼」が頬を掻く。

 食べられるための生贄にされたと思ったけど、そうではなかった。ここにきて当初の想像通り食べると言われても困る。絶対に嫌だ。

 でも、腰が抜けているし、帰り道は多分ない。逃げられるとは思えない……。

 俯いてぐるぐると考えているめぐの頭上で、ぽんと手を叩く音がした。


 「そうだ。君、僕の嫁にならないかい?」

 「え?」


 全く予想外の単語が聞こえて、めぐは顔を上げた。すると、思ったより近くに龍の顔がある。美しい緑の瞳に、ぽかんと口を開けた自身の間抜けな顔が映っていた。


 「それがいいかも。ちょうど、皆して嫁を取れってうるさかったし」

 「え? え?」

 「君、名前は?」

 「あ、えっと。めぐ、です」

 「めぐか。いい名前だね」

 「どうも……」


 死んだ両親がつけたのか、村人が適当につけたのか、それすら分からない名前だが。


 「僕はヒスイというよ」

 「ヒスイ、様」

 「うん。じゃあ行こうか」

 「え? ど、どこへ」

 「僕の里。きっと気に入るよ」


 ヒスイと名乗った龍はめぐの手を取るが、めぐはまだ立てずにいた。それに気づいたヒスイが、ひょいっとめぐを横抱きにする。


 「え! ちょ、下ろしてください! 私、大きくて、重いから……!」


 羞恥で真っ赤になるめぐに、ヒスイは何でもないように笑った。


 「大きいのはいいことだよ、高いところに手が届く。それに重くないよ。ちょっと軽すぎるくらい。一緒にいっぱいご飯を食べようね」

 「……!」


 もはや何と返せばいいのか分からず、ただ口をパクパクさせるしかないめぐをよそに、ヒスイは歩き出す。


 


 こうして、鬼の生贄となるはずだっためぐは、龍の花嫁となったのである。



お読みいただきありがとうございました。

創作の生贄って女ばかりだから男にしてみよう! と考えた結果、こうなりました。

結局女じゃねーか!

ちなみに慣例通り男が選ばれていたら、龍の里で農業をして穏やかに暮らすだけの話になります。



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