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南下

 あれから数日が経った。僕たちは焼け落ちた教会で拾い集めた、なけなしの食料と水を持って海を目指して南下を進めていた。


「よし。今日は日も暮れてきたし、ここで休息といくか」


 ヴォルニーが僕らを振り向き、そう告げてバッグを地面に降ろした。


「ヴォルニー、地図はどこまで進んだ?」


 最後尾にいたマツリが、先頭のヴォルニーに聞く。


「そうだなぁ……。あと半日あれば、海に出るはずなんだけど」


 ヴォルニーが地図を描いているノートをマツリに見せて説明を始める。

 僕たちが立っているこの大地は、元々は日本という国があった列島だ。スカイシティの開発、製造にも深く関わった国らしく、スカイシティの建設は主に日本とアメリカの二国が主力になったと聞いたことがある。もともとこの土地に住んでいた者たちは、スカイシティに移り住み、この列島は無法地帯と化した。

 僕たちがいた教会は、元々京都と呼ばれていた地域にある。そして僕たちは京都から大阪湾に向かって南下している。


「思ってるよりだいぶ早いペースで歩けている。なんならもうちょっと進めば海が見えてくるはずだな」

「へぇー。でもなんで海を目指してるの?」

「海、というか大阪港に行きたいんだ。この列島の関東平野というところに創生産都市(プロダクトグ)日本支部(ラウンドJP)があるだろう?」


 ヴォルニーはこの列島の地図を見せる。


「うん」

「関東平野に唯一船が出てるのは大阪港だけだからな。そこから船に乗り込んで、プロダクトグラウンドまで移動するんだ」

「そんなのどうやって船に乗るのよ? どう考えたってマツリたちのような地上の人間は乗せてくれないと思うけど……」

「まぁ、運だな。良けりゃプロダクトグラウンドに着くし、悪けりゃ死ぬ」

「ちょっと!? そんな博打に命かけらんないよ!?」


 マツリが青ざめて裏返った声で叫ぶ。


「悪い悪い、冗談だよ。そんな本気にしないでくれ。さ、コルルがもうやってくれてるし、俺たちも夜営の準備をしよう」


 ヴォルニーは笑いながら、ノートをバッグに仕舞う。

 ふと横を見ると、コルルによって建てられたテントが目に入った。最初は説明書見ながら一時間もかかっていたのに、数日でこんなにタイムが早くなるとは。


「すごい上達具合だな、コルル」

「うん。あとは、今晩のご飯なんだけど……」


 コルルがバッグの中身を取り出す。


「これじゃあね……」


 今コルルが取り出したのは、サバ缶ふたつ。僕たちが教会から持ってきた食料が底を尽きかけているということは明白である。


「うーん……。大阪港に着けばなんとかなるし、今夜はちょっとだけでも」

「お前が食べ過ぎるからだぞ。もともとの原因は」


 ヴォルニーがコツンと、コルルの頭を小突く。


「だってぇ……」

「まぁ、食べてしまったものは仕方がない。明日には新たな食料を確保できるから、今日はこれで我慢しよう」


 ヴォルニーがサバ缶を開けて、中身を紙皿の上に乗せる。

 僕たちは夜営をした。といっても、これまでと同じようにテントの中で雑魚寝をするというものだが。

 

 一夜を過ごし、僕たちは大阪港を目指して歩き続けた。


「見て、みんな!」


 先頭を歩いていたマツリが振り向いて叫ぶ。木の葉の間から、マツリの指差した方向を見る。


「港だ……」


 でも何か様子がおかしい。人が動いている気配がない。僕が木の影から身を出そうとすると、コルルに袖を引っ張られた。


「待ってトワ」

「うん、分かってる。様子がおかしいんだろ港の」

「そう。やっぱりトワも気づいてたんだ。あの港、人がいない。それどころか、建物が……」


 コルルはこう見えて、めちゃくちゃ視力が良い。僕が見えないところまで平気で見てくる。


「建物が、どうしたんだ?」

「ほとんどが焼け落ちてる」

「嘘だろっ!?」


 コルルの発言に、僕ら三人が同時に反応する。


「とにかく、行ってみるしかないよ」


 僕たちは港を目指して走り始めた。

 そして、港に近づけば近づくほど、事の深刻さが分かってきた。

 静寂が貫く港に足を踏み入れると、人々が去った後の静寂が重くのしかかるように感じられる。船着き場には荷物が散乱し、焼け落ちた建物の中から真っ黒なコンテナが姿を表していた。目の前に広がる青い海は、襲撃があったことなど忘れたかのように穏やかな波を立てていた。


「なるほどなぁ。明らかに何者かに襲撃されたって感じだな」


 燃え尽きた瓦礫の中を進みながら、僕たちは海へと近づく。


「頼みの綱が、切れたね」


 まだ微かに焦げ付く匂いが漂ってくる。どうやら襲撃にあってから、まだそんなに時間が経っていないようだ。まだ地面もほんのり温かい。


「襲撃があったのは昨日の深夜だろうな。そこに使い捨てライトが落ちてた」


 ヴォルニーが壊れた懐中電灯を持ってきた。


「単なる偶然か、それとも……」

「見て! 向こうに船が!」


 ヴォルニーの声をかき消すように突然マツリが叫んだ。反射的にマツリの方を向くと、確かに大型の船が港の端っこに停泊しているのが見えた。明らかに軍艦や貨物船ではない。

 全長はおよそ二百メートルほどであり、純白の船体は太陽光に照らされて輝いている。側面には金色のラインが走っていて、優美さを感じさせられる。白と金はスペースイニシアティブの紋章の色だ。そびえたつ何層ものデッキは水色のガラス張りになっていて、デッキのあらゆるところに、旗がなびいている。


「コルル、あの旗見えるか?」

「んーと……、多分政府の船だね」


 僕たちは顔を見合わせた。


「どうする? 乗る?」


 コルルが提案する。


「ここが襲われたことはおそらく政府の奴らも認知しているだろう。ここにいても、船がくることはもうないかもしれない」


 ヴォルニーがやけに低い声で言う。


「乗るか」

「うん」


 僕たちはニッと笑って、船の方へと走り出した。


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