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叫び

「分かった」


 コルルは頷いて階段を駆け上がっていく。コルルにはああ言ったが、もう二人は助からない。撃たれたところはそこまで大事じゃないが、ここが安全になるまでに出血多量で死ぬだろう。

 さて、問題は、あの制服にあの紋章。間違いない、政府の奴らだ。正式名称空中浮遊円状基盤都市(スカイシティ)常任理事会。しかもその中の軍事部。つまり、僕の育ったエリア3rdに容赦なく何発も核爆弾を撃ち込みやがった奴らと同じ部隊だ。

 ということは話が通じるとは思えない。かといって力ずくで押して勝てる相手ではない。奴らはケンとサナを乗り越えて宿舎の中に入ってきているが、幸い階段の傍に隠れている僕はまだ見つかっていない。このまま階段の裏に回り込んで、一階のブレーカーを落とす。これで少しの間だけだが、奴らを混乱されることができるだろう。

 僕は階段の裏側にあるブレーカーを落としに行く。パッと辺りが暗闇に包まれ、階段の向こうで怒声が飛び交う。


「おい、なんだこれ!」

「誰かブレーカーを上げに行け!」


 ここまで出来たらあとは、備え付けの暗視ゴーグルと自分の持ち刀でやり過ごすしかない。

 僕は暗視ゴーグルを装着し、静かに刀を抜く。そして、ゆっくりと奴らに近づく。


「誰だっ!?」


 やっべ。結構早く気づかれたな。奴らの中の一人が懐中電灯を持って近づいてくる。まぁいい。斬るべき敵はもう見定めた。

 僕は刀を持ち直して、ダッシュで奴らの真ん中に突っ込む。まず最初に狙うのは腕章をつけていない奴らだ。こいつらは小銃手。アサルトライフルを使う奴らは、刀で戦う僕と相性が悪い。できるだけこちらの姿が捉えられていない時に倒しておきたい。

 一人、また一人。延々といる小銃手を容赦なく斬っていく。別に殺してはいない。今は敵の動きを止めることが最優先だ。

 パッと辺りが明るくなる。もうブレーカーの位置がバレたのか。しょうがない。

 僕は暗視ゴーグルを投げ捨てて、階段の陰に隠れる。奴らは僕を見失ったのか、あたりを見回している。

 ここはこれくらいでいいだろう。僕もさっさと三階に行ってコルルたちと逃げよう。僕がちょうど二階に着いた時、タタタタタタタッと銃声が聞こえてきた。僕は窓の外を見てみる。


「なるほどなぁ……最初(ハナ)っから全員殺すつもりで来たってのか……」


 窓の外には、この宿舎をびっしりと囲うようにライフル銃を持った奴らが見えた。いくら裏口といえどもこの状態で外に出るのは危険すぎる。少しでも敵を減らしておいた方が良い。

 僕はベランダに出て、敵に気づかれないように飛び降りる。毎日身体を動かしているから、二階くらいの高さから飛び降りったってどうってことはない。そのまま近くの草むらに身を潜め、ポケットからスマートフォンを取り出す。コルルに宿舎に立てこもるように指示を出しておかないと。コール音が三回ほど鳴って、コルルが出た。


『どうしたの? 今から外に出るとこなんだけど』

「敵の数が思ったより多い。今外に出ると全員もれなくハチノスになる。もう少し宿舎に立てこもっておいて欲しい」

『……それが本当ならそうしたいんだけど、無理なの』

「どういうことだ?」


 聞き返しておいてなんだが、宿舎の方に目をやると、すぐにコルルの言っている意味が分かった。

 宿舎に火の手が上がっていた。


『もうそこまで火が……』

「分かった。コルルは子どもたちの命優先で。ヴォルニーとマツリに戦闘準備するように伝えて!」

『分かった!』


 コルルはそう言って電話を切った。見ると、もう宿舎の半分以上が炎に包まれている。

 やってくれたな。

 僕はスマホをポケットに入れ、刀を右手でぎゅっと握る。そして草むらを飛び出して裏口に走る。


「なんとか全員が助かればいいんだけど」


 僕が裏口に着いたときには、そこは戦場になっていた。前線でヴォルニーとマツリが戦っているおかげで、少しだけ道ができている。このままいけば上手く逃げ出せるだろう。

 と考えたも束の間、向こうにロケットランチャーを構える奴らが視界に入った。そりゃそうか。慈悲もなく核爆弾放つ奴らが、ライフル銃だけで攻めてくる訳がない。


「コルル! 一旦列を切れ!」


 子どもたちを一列にして裏口から出しているコルルに、思いっきり叫んだ。


「トワ! どうして!?」

「いいから!」


 僕はコルルを突き飛ばした。その瞬間だった。今までコルルの立っていた場所にロケットランチャーの弾が勢いよく突っ込んできたのは。

 ドゴォンと大きな爆発音が耳をかすめ、裏口のドアが吹き飛んだ。もちろん木造の宿舎の壁などカタチを保てるわけもなく、次第にバキバキと音を立てて崩れ始める。

 あ然とするコルルに手を差し伸べ、立つように促す。


「危なかったな……。ほら走るぞ、立て!」

「でも、まだ中に子どもたちがっ……!」


 僕は後ろを振り返らずにコルルの手を引っ張って立たせる。


「後ろを見てみろ。入口が完全に瓦礫で塞がれてる。しかも中は火の海。今からじゃ救助に間に合わない」


 そこにヴォルニーが戻ってくる。


「お前ら早く逃げろ。俺とマツリじゃこの数は捌けない。マツリに先導を行ってもらってる。俺たちも走るぞ!」

「ヴォルニー待って! まだ残ってる子が!」

「残念だが、もう諦めるしかない……。今は外にいる子が優先だ」


 ヴォルニーが顔を伏せて言う。当たり前だ。この状況が辛くないやつなんている訳がない。


「……なんでっ!? なんでそんな顔ができるのよ……。死なせたくないんでしょ!? 助けたいんでしょ!? なのに……っ、なんで……っ!!」


 決死に訴えてくるコルルの瞳には、大粒の涙が光っていた。

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