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意志

 時計の針が進むにつれて、村に漂う静けさが心に重くのしかかる。僕たちは広間を抜け出し、村長の住む家へ向かった。ヴォルニーが先頭を歩き、僕、コルル、マツリがその後ろをついていく。僕の足はまだ完全に回復していないが、この状況では悠長にしていられない。村の外れに位置する村長の家は、ほかの家々よりも少しだけ立派だった。


「村長さん、いますか?」


 ヴォルニーが扉をノックすると、少しして中から年配の男性が姿を現した。彼の顔には深い皺が刻まれ、白く長い髭からも長い年月の経験が感じられる。


「おお、ヴォルニーさん。朝食はどうしたんですか?」


 村長の声は穏やかだったが、その奥に潜む警戒心を僕は感じ取った。ヴォルニーは短く息を吐き、言葉を選びながら話し始める。


「村長さん、話があります。俺たち、ここを出て行くことにしました」

「出て行く? どうして急にそんな話に?」


 村長の目が鋭くなる。無理もない。つい先ほどまではこの村と僕たちで、奴隷たちに衣食住をどうやって与えるかの話し合いをしていたのだから。


「俺たちがここにいることで、村に危険が及ぶ可能性が出てきました」

「危険? 一体どういうことだ?」


 ヴォルニーの声に真剣さがこもる。


「詳しくは話せないですけど、俺たちが関わった事件の影響で、ここに追っ手が来るかもしれないんです」


 村長は黙り込み、目を細めて僕たちを順番に見つめた。その視線に耐えながら、僕も口を開く。


「村を危険に晒したくないんです。この場所は解放された奴隷たちの新しい始まりの場です。僕たちがここにいるせいでそれが壊されるのは耐えられません」


 しばらくの沈黙の後、村長は深いため息をついた。


「わかった。君たちがそう決めたのなら、私は止めない。しかし、何かあればすぐに知らせてくれ」

「ありがとうございます」


 僕たちは頭を下げて村長の家を後にした。村長には指名手配のことを伝えなかったが、それでよかったのだと思う。彼に余計な心配をかけるわけにはいかない。

 広間に戻ると、エイトとヒカリが僕たちを探しているところだった。二人の顔には心配の色が濃く浮かんでいる。


「トワさん、どこに行ってたんですか? 足は!?」


 ヒカリが駆け寄り、僕の腕を掴む。その手の震えが彼女の不安を物語っていた。僕は彼女を安心させるように微笑み、言葉を紡ぐ。


「大丈夫。もう心配はご無用だ。それより、君たちに大事な話がある」

「大事な話って?」

「ヒカリ、エイト。僕たち、すぐにここを出ていくことにした」

「え……?」


 ヒカリの目が大きく見開かれる。エイトも驚いた表情で僕たちを見つめていた。


「どうして……どうしてそんなことを言うんですか? ここはあなたたちが助けてくれた人でいっぱいなんですよ!」

「そうですよ! 僕たちでさえまだ感謝しきれてないのに、ここに残された人たちはどうしたらいいんですか?」


 ヒカリの言葉にエイトも乗っかってくる。


「わかってる。でも、ここにいれば村が危険に晒される可能性が高いんだ」


 僕の言葉にヒカリは首を横に振る。


「じゃあ、私たちも一緒に行きます! このまま見送るなんてできません!」

「それはできない」


 僕はきっぱりと断った。ヒカリの目には涙が浮かび始めている。エイトも何か言おうと口を開きかけたが、僕はそれを制した。


「ここにいる元奴隷たちを任せられるのは、君たち以外にいないんだ。君たちがいなければ、この村は再び混乱に陥るだろう」


 ヒカリは唇を噛みしめながら僕を見つめた。涙が頬を伝い落ちるのを見て、僕の胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


「わかり、ました……」

「ちょっと、ヒカリ!? 僕はまだ……」


 なにかを言いかけたエイトの口をヒカリの右手が咄嗟に塞いだ。


「私だって、私だってっ……まだ整理がついてないわよ! ずっとここにいてもらいたいし、まだまだ一緒にしたいことだってたくさんあったし、宴の用意だって」

「だから、もう一晩だけでも……」

「私たちが、邪魔をしてどうするのよっ!! 私もエイトも同じ気持ち。でも、トワさんたちが決めたことに口出しする資格なんて私たちにはない!!」

 

 そこまで言い切って、ヒカリはエイトの口元から手を離した。

 僕がどう言葉をかけていいか悩んでいると、僕の後ろから以外な声が聞こえてきた。


「それは違うよ、ヒカリちゃん……」

「マツリ、さん……?」


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