決着
僕はその糸に目を凝らし、咄嗟に次の行動を決めた。
「いや、終わりじゃない!」
マーシャルが放った糸が僕に向かって飛んでくる。その瞬間、僕は余力の限りを尽くしてその糸に飛びついた。太い糸にしがみつき、まるでターザンのように宙を舞う。
「なんだと!? 貴様!」
マーシャルの驚愕の声が響く。僕はそのまま糸を伝って跳躍し、マーシャルが立つ糸の地面に飛び乗った。奴との距離はもうほとんどゼロだ。
この近距離戦ではマーシャルも、地面の糸を取るわけにはいかない。それに自分も巻き込まれるから、下手に大きな糸は動かせない。
「ここまで来れば関係ない!」
痛む体を無理やり動かし、僕は残った力を振り絞って刀を振るった。マーシャルが糸を操り、盾で防ごうとするが、僕の執念が奴の動きを狂わせているのがわかる。
「くそ、これが狙いだったのか!」
僕は無我夢中で刀を振るい続けた。これが最大で最後のチャンスだ。ここを逃せば、僕に勝ち目はない。
激しい衝撃音が響き、刀と糸がぶつかり合うたびに火花が飛び散っていく。
糸を焼き払いながらマーシャルに攻め寄る。奴の糸が僕の攻撃を受け止めるたび、奴の動きに焦りが見え始める。
「なぜッ貴様はここまでできる!? 何がそうさせているんだ!」
「何がとかはもう忘れた! なんでもいい! お前を殺す。そして、プロダクトグラウンドをぶっ潰すんだっ!」
どうなっても良い。最悪僕が死んでも良い。ただ目の前のマーシャル・ワシントンという男をぶち殺せるなら、それでいい。
「これが……最後の攻撃だ。これで……プロダクトグラウンドの戦争に終止符を打つ!」
「させるかっ、クソガキィ!」
刀を軽く握りなおす。地面を強く蹴って、マーシャルの心臓部へ刀を滑らした。
「《一耀喜千》!」
ズバンと音がして、マーシャルの鮮血が宙を舞った。
ギョロリと悪意に飢えた目が、僕を睨む。
「きさっ、貴様ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!」
フッと地面の糸が消えた。マズい、落ちる。
なけなしの余力を使い切ったんだ。今さら着地なんかできるわけがない。地面に叩きつけられても生き残る自信もないしな。
僕はゆっくりと目を閉じた。そのときだった。
「トワさぁあん! 掴まってぇ!」
目を開けると、誰かが僕の名前を呼んで空を飛んできている。女の子だ。ヒカリに似ているが、見たことないの顔だ。
「早くっ!」
その少女は腕を伸ばしてくる。
「ありがとう……」
僕はしっかりとその腕に掴まった。というか腕の中に入った。
「このまま村まで飛びますよ。しっかり掴まっててくださいっ!」
僕をお姫様抱っこで持ち上げると、少女は急上昇し、飛ぶスピードを上げた。
「……君は?」
「私はミライ。ヒカリの妹です。ほら、プロダクトグラウンドの壁を超えます。後ろで爆発が起こりますが、絶対に振り向かないでくださいね!」
ミライと名乗った少女が言い終わる前に、ものすごい爆発音が後ろで鳴り響いた。しかも、一発だけじゃない。二発、三発と鳴り続けていた。
「なんで……空を飛べるんだ?」
「私の異能は、《飛翔》です。村が見えてきたので、降りますよ」
降下し始めた。下を見ると、村の広場に何人もの人々が集まっている。
「そうか……。プロダクトグラウンドをひとつ救ったのか……」
はるか東の海の上から、明るい光が漏れていた。
「はい! プロダクトグラウンドUSAに本当に朝日が昇ったんですよ!」
ミライはそう告げた。遠のく意識の中でうっすらと、真っ赤な日の出だけは鮮明に記憶に刻まれていた。
「下に降りたら、コルル、ヴォルニー、マツリと一緒に勝利を分かち合おう」
ミライは僕をしっかり抱きしめながら、ゆっくりと朝日に照らされる村に降り立った。
後に聞いたことだが、僕が村に着いたこの時には既に宴の準備や奴隷たちの居場所についての会議が速攻で開かれていたらしい。
「トワさん!」
ヒカリが駆け寄ってきた。後ろにはエイトもいる。声を出そうとするが、息をするのが精一杯で発声することは難しかった。
「ヒカリ、コルルさんたちが宿舎で休んでる。早くトワさんを」
「うん」
僕の身体がミライからヒカリの腕へと移される。
「もう少しですから、頑張ってください」
事件に巻き込まれた患者が病院に運ばれる気分てのはこんな感じなんだろうな。
ヒカリに抱っこされたまま昨日泊まった宿に持って帰られると、すぐに先に着いていたコルルたちが駆け寄ってきた。
「トワ!? なんで、こんなッ!」
そりゃそんな反応になるのも無理はない。何しろ今の僕は切り刻まれた死体ほど流血しているし、息も浅い。もし僕が異能人でなければ死んでいただろうから。
「トワ! 生きてんの!? 無事でよかったあああああああ!」
マツリうるさい。こっちは全身傷だらけなんだから、傷に触るような大声はやめていただきたい。
が、そんなことを言う力も残ってないので、大人しくベッドへと連行され、泣きじゃくるマツリとコルルをぼーっと眺めていることになった。




