『浮かずもの人に非ず』
また攻撃を仕掛けてきた。肩が痛むがどうせ数十分の痛みだ。無理したってどうってことはないだろう。
マーシャルの糸がまた動く。僕を取り囲むように、壁のように立ち塞がり、まるで逃げ場を完全に塞ぐかのようだ。
「糸の檻……か」
僕は刀を構え直しながら、慎重にマーシャルの動きを見極める。だが、糸はどんどん複雑に動き、僕の視界を惑わせてくる。その中で、マーシャルの声が響いた。
「どうだ、これが私の異能の本領だ。糸はただ操るだけではない。形を変え、用途を変え、無限の戦略を生み出す。貴様のような小僧が、この私に敵うはずがない!」
奴の言葉には、確かに自信と誇りがあった。でも、僕には負けられない理由がある。僕は刀を軽く一振りして答えた。
「無限の戦略? でも、その割にやることは単調じゃないか。囲んで、縛って、斬る。それだけだろ?」
「貴様……!」
マーシャルの声がわずかに苛立ちを帯びる。いいぞ、わざと奴のペースを乱すんだ。言葉で揺さぶりをかけながら、攻撃の隙を探す。
次の瞬間、マーシャルの糸が僕に向かって鋭く突き出される。槍のように鋭く編まれたそれは、空気を裂く音を立てて僕の身体を狙う。
「くっ……!」
僕はその場で身を低くし、刃先をかわすと同時に反撃に転じた。刀を横一文字に振り抜き、迫ってきた糸を焼き切る。
「貴様ぁ!」
マーシャルが叫び、地面からまた新たな糸が湧き上がる。まるで生き物のようにうねりながら僕の足元を狙ってくる。それを見て、僕はわざと後退しながら、マーシャルの次の動きを観察した。
この糸、確かに強力だが、無敵ではない。奴がどんなに器用に操っても、一度に全方向を完全に制圧することはできないはずだ。今のように糸を再生成する瞬間──その一瞬だけ、奴の集中が散る。
「お前の異能……確かに手強い。でも、万能じゃない! 《炎流斬撃》」
そう叫びながら、僕は刀に再び炎をまとわせた。燃え上がる炎が周囲の糸を焼き払い、瞬間的に僕の周りの空間を作り出す。その隙を突いて、マーシャルに向かって突撃した。
「その炎が厄介だと言っただろうが!」
マーシャルは再び糸を剣状に変えて迎撃してくる。激しい衝突音が響き、奴の剣圧が僕の腕に重くのしかかる。それでも僕は一歩も引かず、逆に力を込めて押し返す。
「実に惜しいな。貴様が地上人でなければ、このプロダクトグラウンド、いやスカイシティ軍事部でも活躍できたろうに」
「何を言っている?」
「理解できないか。所詮は地上人に過ぎない。貴様、こんな言葉を知っているか? 『浮かず者人にあらず』」
聞いたことがある。この世界はそもそも、スカイシティをすべての基準にして物事が考えられている。つまりスカイシティの市民だけが人間だとすれば、スカイシティに住んでいない人は人間ではないと判断される。
「……地上人は人間じゃないってことか」
「そうだ。貴様は地上人であるという時点で、我々人間とは違う下等な蔑まれた存在だ。つまり、もし貴様が人間であったならば、私にも引けを取らない軍人になっているくらいの実力を持っていただろうということだ!」
マーシャルはまた糸を生み出し、下から僕を狙ってきた。
ここにきてまだこんなに糸を出せるとは。刀が耐えられないだろうから、もう炎流斬撃を使うことはできない。
ここからは自力で糸を斬らなきゃいけないってことか。
いったんジャンプして糸を交わし、空中で伸びてきた糸を片っ端から切断していく。
「無駄だ。もう止したほうがいい。貴様が足掻いたとてこの世界は変わらない。地上に産まれた己の運命を恨むんだなッ!」
「ふざけるな! お前たちのやっていること、全部間違ってるんだ!」
「間違いだと? 笑わせるな! 我々プロダクトグラウンドの理念は、人間を効率的に管理し、支配することだ。それこそが世界の理だ!」
「理だって? 奴隷たちを家畜のように扱うのが理だっていうのか!」
「そうだ! 弱者は強者に従う。地上の人間は全てスカイシティに従う。それがこの世の真理だ。貴様も、それを理解するべきだったな!」
奴の剣が一段と激しく僕を押し込んでくる。だが、僕はその言葉にますます怒りが燃え上がった。
「そんな理屈……僕は絶対に認めない!」
僕は全身に力を込め、マーシャルの剣を押し返す。




