表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/50

怒り

「仕方がないッ!」


 ヴォルニーに昔教えてもらった技を使おう。うまくできる自信はない。失敗したら死ぬだけだから、まぁできる限りのことはやろう。


「《炎流斬撃(フレアロッド)》!」


 刀を握る手に、これまでにないくらいの力を込める。ボッと炎が巻き起こった。手首に少し余裕ができた瞬間、刀を抜いて一振り、二振り、三振り。計七回ほど刀を振ると、もうすでに身体の周りの糸は焼き切れていた。


「なに!? 糸を?」

「これくらいなら、僕だってできる」


 そのまま向かってくるマーシャルに向けて、斬撃を飛ばした。

 がしかし、ひょいひょいと避けてどんどん間合いを詰めてくる。そして、ガキィインと剣と刀が金属音を鳴らしてぶつかった。

 マーシャルの剣と僕の刀が激しくぶつかり合い、火花を散らす。力の差は歴然だ。奴の剣圧が僕の腕に重くのしかかり、押し返すのに必死だった。


「どうした、もう息切れか? その程度で私に挑むとは、笑わせてくれる!」


 挑発混じりの声が頭をかすめる。わかってる。僕はまだ力が足りない。だけど、負けるわけにはいかないんだ。


「黙れっ!」


 一瞬の隙を突いて、僕は刀を下から上へ振り上げた。マーシャルは簡単に避け、さらに背後に回り込んでくる。その速さに目で追いきれない。それでも、感じるんだ。空気の揺れや殺気が、どこから攻撃が来るのかを教えてくれる。


「ほう。少しはやるようだな。だが、まだまだ甘い!」


 背後から伸びてきた糸が、僕の腕や脚に絡みつく。糸は驚くほど強靭で、一度捕まれば動きを封じられる。僕は瞬時に刀を振り、残っていた炎で糸を焼き切った。


「その炎、厄介だな。だが、それだけでは私を止められんぞ!」


 マーシャルの糸が地面から無数に湧き上がり、まるで生き物のように僕を取り囲む。糸が編み込まれて大きな網になり、逃げ場をなくすように狭まってきた。


「くっそ……!」


 僕は刀を振り回し、刀で糸を斬り払おうとするが、次々と新しい糸が現れる。そのたびに体力を削られ、じわじわと追い詰められていく。


「どうだ、この感覚! 抵抗するほど深く絡みつき、動けなくなる。これが私の糸の真髄だ!」


 マーシャルの声が周囲に響き渡る。奴の異能はただの糸ではない。おそらく、自らの意思で自在に操れる糸を生み出している。単純な力では決して突破できない。


「まだだ……終わらせない……!」


 僕は心の奥底から湧き上がる怒りと覚悟を燃料に、さらに刀に力を込めた。そして、全身を炎に包みながら糸を振り払う。


「《炎流斬撃(フレアロッド)・連刃》!」


 連続した斬撃が周囲の糸を切り裂き、一瞬だけ隙間が生まれる。その隙をついてマーシャルに突撃する。


「そんな小細工で届くと思ったか!」


 マーシャルは糸を剣状に変えて迎撃してくる。剣と刀が再び激しくぶつかり合う。


「ふふふ……貴様、本当に必死だな。そんなに命が惜しいか? それとも、誰かを守りたいのか?」

「そんなこと……お前に関係ない!」

「そうか? だが、教えてやろう。私を倒せばプロダクトグラウンドUSAを滅ぼせると思っているのだろう? その考え自体は正しい。だが、その先に何がある?」


 マーシャルの言葉に、一瞬動きが鈍る。奴の言葉には、何か含みがあった。


「貴様は知っているのか? 私たちがどれだけの力でこの地を支配しているのか。人間など、所詮使い捨ての駒にすぎないのだ。奴隷たちは食事も与えられず、家畜のように扱われる。それが我々のやり方だ」

「……っ!」


 マーシャルの言葉が胸を刺した。奴隷たちがどれだけ苦しんできたのか、その言葉から容易に想像できた。そして、それを当然のように語るマーシャルに、怒りが沸き上がる。


「お前ら……許せない!」

「怒りか? それで力が増すならやってみるがいい。だが、感情だけで勝てるほど甘くはない!」


 マーシャルは再び糸を操り、巨大な槍を作り出した。それを僕に向けて投げ放つ。その勢いは凄まじく、避ける間もなく迫ってくる。


「……くそっ!」


 僕は刀を振り上げ、斬撃で槍を打ち砕いた。しかし、その隙にマーシャルが懐に入り込む。


「貴様の終わりだ!」


 マーシャルの剣が振り下ろされる。僕は間一髪で体をひねり、致命傷を避けたものの、右肩に深い傷を負った。

 視認できるくらいには肉がえぐれている。生暖かい血が右半身に降り注いできて、僕の服やズボンを赤く染めていく。

 分かっていた。

 マーシャルは剣の切先に震える糸を纏わせていて、それがチェーンソーのようになっている。もちろんちょっとでもかすれば、振動している糸が肉に食い込んでえぐられる。


「ぐぁッ……!!」


 今まで当たらないようにはしてきたのだが、いざ喰らうとその痛みは尋常じゃない。


「どうだ、痛みを感じるか? それが命の終わりの兆候だ。さあ、もっと苦しめ!」


 マーシャルの嘲笑が耳に響く。だがこの戦いに勝たなければ、守りたい人たちを守れない。


「まだだ……まだ終わらせない!」


 僕は刀を強く握り直し、立ち上がる。マーシャルの異能を理解し、奴の動きを読み切らなければ勝機はない。奴の糸を操る力、それを逆手に取る方法を探る。

 糸を操るには、どこかに集中して意識を向ける必要があるはずだ。動きに隙が生まれる瞬間がある……その時を狙うんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ