怒り
「仕方がないッ!」
ヴォルニーに昔教えてもらった技を使おう。うまくできる自信はない。失敗したら死ぬだけだから、まぁできる限りのことはやろう。
「《炎流斬撃》!」
刀を握る手に、これまでにないくらいの力を込める。ボッと炎が巻き起こった。手首に少し余裕ができた瞬間、刀を抜いて一振り、二振り、三振り。計七回ほど刀を振ると、もうすでに身体の周りの糸は焼き切れていた。
「なに!? 糸を?」
「これくらいなら、僕だってできる」
そのまま向かってくるマーシャルに向けて、斬撃を飛ばした。
がしかし、ひょいひょいと避けてどんどん間合いを詰めてくる。そして、ガキィインと剣と刀が金属音を鳴らしてぶつかった。
マーシャルの剣と僕の刀が激しくぶつかり合い、火花を散らす。力の差は歴然だ。奴の剣圧が僕の腕に重くのしかかり、押し返すのに必死だった。
「どうした、もう息切れか? その程度で私に挑むとは、笑わせてくれる!」
挑発混じりの声が頭をかすめる。わかってる。僕はまだ力が足りない。だけど、負けるわけにはいかないんだ。
「黙れっ!」
一瞬の隙を突いて、僕は刀を下から上へ振り上げた。マーシャルは簡単に避け、さらに背後に回り込んでくる。その速さに目で追いきれない。それでも、感じるんだ。空気の揺れや殺気が、どこから攻撃が来るのかを教えてくれる。
「ほう。少しはやるようだな。だが、まだまだ甘い!」
背後から伸びてきた糸が、僕の腕や脚に絡みつく。糸は驚くほど強靭で、一度捕まれば動きを封じられる。僕は瞬時に刀を振り、残っていた炎で糸を焼き切った。
「その炎、厄介だな。だが、それだけでは私を止められんぞ!」
マーシャルの糸が地面から無数に湧き上がり、まるで生き物のように僕を取り囲む。糸が編み込まれて大きな網になり、逃げ場をなくすように狭まってきた。
「くっそ……!」
僕は刀を振り回し、刀で糸を斬り払おうとするが、次々と新しい糸が現れる。そのたびに体力を削られ、じわじわと追い詰められていく。
「どうだ、この感覚! 抵抗するほど深く絡みつき、動けなくなる。これが私の糸の真髄だ!」
マーシャルの声が周囲に響き渡る。奴の異能はただの糸ではない。おそらく、自らの意思で自在に操れる糸を生み出している。単純な力では決して突破できない。
「まだだ……終わらせない……!」
僕は心の奥底から湧き上がる怒りと覚悟を燃料に、さらに刀に力を込めた。そして、全身を炎に包みながら糸を振り払う。
「《炎流斬撃・連刃》!」
連続した斬撃が周囲の糸を切り裂き、一瞬だけ隙間が生まれる。その隙をついてマーシャルに突撃する。
「そんな小細工で届くと思ったか!」
マーシャルは糸を剣状に変えて迎撃してくる。剣と刀が再び激しくぶつかり合う。
「ふふふ……貴様、本当に必死だな。そんなに命が惜しいか? それとも、誰かを守りたいのか?」
「そんなこと……お前に関係ない!」
「そうか? だが、教えてやろう。私を倒せばプロダクトグラウンドUSAを滅ぼせると思っているのだろう? その考え自体は正しい。だが、その先に何がある?」
マーシャルの言葉に、一瞬動きが鈍る。奴の言葉には、何か含みがあった。
「貴様は知っているのか? 私たちがどれだけの力でこの地を支配しているのか。人間など、所詮使い捨ての駒にすぎないのだ。奴隷たちは食事も与えられず、家畜のように扱われる。それが我々のやり方だ」
「……っ!」
マーシャルの言葉が胸を刺した。奴隷たちがどれだけ苦しんできたのか、その言葉から容易に想像できた。そして、それを当然のように語るマーシャルに、怒りが沸き上がる。
「お前ら……許せない!」
「怒りか? それで力が増すならやってみるがいい。だが、感情だけで勝てるほど甘くはない!」
マーシャルは再び糸を操り、巨大な槍を作り出した。それを僕に向けて投げ放つ。その勢いは凄まじく、避ける間もなく迫ってくる。
「……くそっ!」
僕は刀を振り上げ、斬撃で槍を打ち砕いた。しかし、その隙にマーシャルが懐に入り込む。
「貴様の終わりだ!」
マーシャルの剣が振り下ろされる。僕は間一髪で体をひねり、致命傷を避けたものの、右肩に深い傷を負った。
視認できるくらいには肉がえぐれている。生暖かい血が右半身に降り注いできて、僕の服やズボンを赤く染めていく。
分かっていた。
マーシャルは剣の切先に震える糸を纏わせていて、それがチェーンソーのようになっている。もちろんちょっとでもかすれば、振動している糸が肉に食い込んでえぐられる。
「ぐぁッ……!!」
今まで当たらないようにはしてきたのだが、いざ喰らうとその痛みは尋常じゃない。
「どうだ、痛みを感じるか? それが命の終わりの兆候だ。さあ、もっと苦しめ!」
マーシャルの嘲笑が耳に響く。だがこの戦いに勝たなければ、守りたい人たちを守れない。
「まだだ……まだ終わらせない!」
僕は刀を強く握り直し、立ち上がる。マーシャルの異能を理解し、奴の動きを読み切らなければ勝機はない。奴の糸を操る力、それを逆手に取る方法を探る。
糸を操るには、どこかに集中して意識を向ける必要があるはずだ。動きに隙が生まれる瞬間がある……その時を狙うんだ。




