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戦闘開始

「……しゃーないな。分かったよ。俺の勝ち潰したら許さねーからな、クローザー。行くぞみんな、散れっ!」


 こういうときの理解が早くて助かる。

 ヴォルニーたちが去り、場に残ったのは僕とマーシャルだけになった。彼はゆっくりと地面に降り立ち、冷ややかな笑みを浮かべている。


「仲間を逃がしたか。見上げた覚悟だが、貴様一人で私に勝てると思ったのか?」


 マーシャルの声は低く響き、冷酷そのものだった。


「勝てる、勝てないじゃない。勝つからこうしたんだ」


 僕は刀を握り直し、深く息を吐く。緊張が背筋を這い上がるのを感じながら、相手の一挙手一投足を見逃さないようにする。

 ひゅううと風が吹いた。マーシャルのコートがバサバサと風でなびく音以外、何の音もしない静寂な空間がここにはあった。


「ふふ、負け惜しみか? 貴様には私を倒す手立てはないだろう。さっきから私の動きを追えていない。まだ私の異能が分からないんじゃないか?」


 挑発的な口調に、内心焦りが募る。こいつの異能。身体強化系だと思っていたが、そうではなかった。あの空中での動き方を見るに、何かを操る系でもなさそうだ。今のところ有力なのは、空中浮遊系。だけど、あんな不自然な動き方はしないはずだ。

 マーシャルはさらに続ける。


「貴様は愚かだ。無駄な抵抗をせず、膝をついて命乞いでもすればいいものを。さあ、どうする? 死にたくないなら素直に諦めろ」

「……うるさいな」


 僕はその言葉を振り払うように答えたが、頭の中は冷静にマーシャルの異能を探っていた。先ほどの戦闘で見せた空中の不自然な動き。斧を振るう際に生じたわずかな腕の軌跡。どちらも何かに引っ張られているように見えた。


「どうした? 黙り込んでしまったか? もう少し喋ってくれないとつまらないぞ」


 マーシャルが一歩前に踏み出す。僕は無意識に後退したが、目は彼の細かな動きから一瞬たりとも逸らさない。


「……お前の動きは速い。ただ、速さだけならここまでの違和感は生じない。あの不自然な軌道、あれは何かの力が関与している」


 マーシャルの口角がわずかに上がる。その様子に確信が深まる。


「ほう、推測か? それとも確信か? どちらにせよ、貴様にはそれを証明する時間もないだろう。私の異能を見抜けないまま、今ここで死ぬだけだ」


 その言葉と同時にマーシャルの姿が再び消えた。いや、正確には高速で移動しているだけだ。だが、僕には彼の動きがわずかに見える。


「くっ……!」


 マーシャルの攻撃を間一髪で刀で受け流す。しかし、その刹那、また別の方向から斬撃が迫る。まるで見えない力で引っ張られているようだ。

 その瞬間、頭に閃きが走った。

 引っ張られている? ──糸だ。


「…………お前の異能。糸、だろ?」

「……お見事だ」


 マーシャルは姿を現してから少し黙ってからそう言い、パチパチとゆっくり手を叩いた。


「貴様が言った通り、私の異能は糸だ。糸を生成し、糸を操る。だから、貴様の首を一瞬で絞めることもできる」

「ふーん……」

「なんだその態度は」

「ハッタリだろ? お前の糸はそんな強度はない。首を絞めることができる? だったら最初から全員の首を絞めておけばよかったじゃないか。でもやらなかったのは、できなかったからだ!」

「少し口を慎め。私を相手にそうも挑発を続けるとは、いい度胸だ。殺してやろう」

「いい度胸はお前だな。せいぜい、その何の役にも立たねぇ糸で遊んどきな」


 僕は刀を構えなおして、マーシャルに突撃する。


「この、クソガキィィッ!」


 ビュルルルルと両手から白い糸が飛び出し、僕の腕に絡まりついた。


「潰すッ!」


 両手の糸を一旦切ると、次は地面から何本も糸が伸びてきた。

 すかさず僕はジャンプをして糸を交わす。が、うねうねと空中まで伸びてきた糸に足が絡まれる。

 僕はかろうじて糸のついていない左手に刀を持ち替え、一回転しながら周りの糸を全て切断する。


「なんだこれっ……気持ち悪い」


 斬ったはずの糸だったが、空中でもう一度くっつき始め、一本の糸に戻って僕の身体を縛り付けた。


「そうなりゃ誰も逃げられない。終わりだぁっ!」


 マーシャルは糸を何本か重ね、鋭くした剣のようなもので僕に向かってくる。

 なるほど。糸で拘束してから攻撃をするのか。けれど、刀があればこんな糸何度でも斬れる。と思ったのも束の間、刀を握る手は固く縛られていて、ビクともしなかった。


「嘘、だろ」


 マーシャルの剣はすぐそこにきている。顔を傾けたってもう無駄だろう。


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