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最後の敵

「もうすぐ、来ます。戦闘に備えてっ!」


 ヒカリの声で、もう一度全員に緊張が走る。ついに、大将戦か。

 ゴゴゴゴゴゴゴ。地響きが起こり始めた。


「なに? どうしたの?」

「落ち着けコルル。取り乱したら敵の思うつぼだぞ」


 ドゴォォォォンと空から何かが着地した。着地の余波で、さらに地面が揺れる。土埃が舞い上げられ、前が見えなくなるほど空中を埃が舞った。


「いや登場の仕方、ゲームのラスボスかよ!」


 おそらく地響きは奴の放つエネルギーの一端が、地面を伝わってきたのだろう。

 少し経って、土埃が収まってきた。うっすらと奴の影が見えてくる。


「……少々威嚇してしまった。失礼」


 奴、もといマーシャル・ワシントンが姿を現した。こいつもマユネーズ同様、金色の長い髪をしている。目は鷹のように鋭く、冷酷無情な瞳だ。流石は最高権力者。マユネーズよりももっと上等そうな服を身に着けている。どちらかというと、偉い人というよりかは、そこら辺の冒険者のような見た目だ。ただ、羽織っている真っ黒いコートは、いかにも権力者の威厳を示している。


「私の名は、マーシャル・ワシントンだ。このプロダクトグラウンドUSAの統括理事長を任されている」


 全員がつばを飲む。緊張で喉がカラカラになってくる。ヴォルニーが口を開いた。


「ここにいる全ての奴隷に自由を与えた。プロダクトグラウンドからは解放され、この施設は終了する」

「ずいぶん思い切った行動をしてくれるね。でも、ここで私に負けたら、意味がないよなぁ」


 冷酷な目はちっとも笑ってはいない。マーシャルに負けるイコール死ぬということが、今更ながらも身体中を走り抜ける。

 パァンっと乾いた銃声が鳴った。横を見ると、拳銃を両手で握って立っているヒカリが見えた。


「その発砲、正式に宣戦布告ととるぞ」


 そう言った瞬間、マーシャルの身体が消えた。というより、高速で移動したせいで消えたように見えただけだった。

 ドゴッ、ドガァン。二度の攻撃がされると、僕たちの後ろにあったビルが崩壊を始めた。


「ッ! トワ後ろぉ!」


 ヴォルニーの声を聞いて、ヤバいと思った瞬間、右耳に激痛が走った。


「痛っ……つ!?」


 僕は耳を押さえる。やられた。右耳の半分ほど原型がない。顔を少し傾けたおかげで、これだけで済んだが、もし何もしていなければ、顔が吹っ飛んでいただろう。


「きゃぁあっ!」

「マツリっ! 変に応戦しようとするな、まずは動きを見極め……っ!?」


 マツリもヴォルニーも、姿が見えないまま攻撃されている。

 速すぎる。目が追いつかないどころじゃない。それに、どんな武器を使っているかすらも分からない。


「これが……プロダクトグラウンドのトップ……の、力」


 このままだと、奴の姿をもう一度見ない間に全滅してしまう。なんとかしないと。

 ドギャァァァンと何かがぶつかる音がした。音の方向を見ると、四メートル四方程の瓦礫を片手にしたヴォルニーとマーシャルが対峙していた。


「ほほう、瓦礫を振り回すことで私の移動を妨げるとは。なかなかやりますねぇ」


 いや、あんなデカい瓦礫振り回してのかよ。


「スピードには、パワーで勝つしかないからな」


 ヴォルニーがマーシャルに向けて、持っていた瓦礫を叩き込む。


「いやいやいやいやいや…………」


 流石にその攻撃の仕方はドン引きするって。横を見ると、ヒカリが絶句している。


「貴様、面白いな。いいだろう。少しだけ遊んでやろう」


 瓦礫を叩きつけられたマーシャルだが、なんともなかったかのように、瓦礫の下から這い上がってきた。


「貴様の武器はなんだ?」

「……見れば分かるだろ。俺は斧を持ってるんだよ」

「なるほど。では私も斧で戦おう」


 そう言うとまた姿を消した。が、今度はヴォルニーのほうが速かった。

 ガキィイン! 空中で金属音がした。何回か同じような音が続いて、次は地面から土煙が舞い上がった。


「速すぎて追いつかない……」


 ドォォォォンと何度か爆発音のような音も聞こえてくる。

 少しして、またヴォルニーとマーシャルが姿を現した。両者とも息すらも上がっていない。体力どうなってんだよ。このバケモンたちは。


「私についてくるとは。貴様、異能人か?」

「いや、一般人」

「…………? え、一般人……?」


 流石のマーシャルも動揺している。当たり前だ。ヴォルニーのこのバケモノみたいな体力は異能ではなく、ただの一般人の体力だからだ。


「ふふ、遊ばれていたのは私だったとは。なら、これでどうだ?」


 また姿を消した。しかし、今度はさっきまでと違った。近くにいたマツリや、コルル、僕やヒカリやエイトにまで攻撃がくるようになった。


「みんな、攻撃をしようとするなっ! 自分の身を守ることだけを優先しろっ!」


 僕はとりあえず声を張り、そう伝えた。無駄に攻撃を行えば、マーシャルの矛先がこっちに向くかもしれない。ヴォルニーの戦闘に集中させるためにも、今の僕たちは何もしないほうがいい。


「守ることだけをだと? そんな消極的な戦い方で私に勝てるとでも思っているのか?」


 ギィィィンッと重い斬撃が飛んでくる。僕は刀で受け止め、力のかぎりで押し返す。

 分かってんだよ。そんなことは。それより、今はヒカリとエイトを守るほうが先。

 ドッゴォォン。近くのビルが崩壊を始めた。さっきのビルより高さがある分、落ちてくる瓦礫の多さも大きさも桁が違う。そのひとつが、ヒカリの真上に飛んだ。


「ヒカリぃーー!」


 僕は地面を蹴る。刀を上向きにして構える。斬れなきゃ終わりだ。絶対に斬る。力を入れるな。


「トワさん! 後ろっー!」


 ふと後ろを見ると、マーシャルが斧を振りかざしていた。

 しまった、ハメられた。どうする、ここは空中。身をかわせるものが何も無い。一か八か、斧が当たらないことに賭けるしか──

 僕が覚悟を決めたとき、ズドォンと鈍い銃声が響き渡った。コルルのスナイパーライフルから放たれた銃弾は、まるで一本の線のようにマーシャルの斧を貫いて破壊した。


「なに!?」


 マーシャルがバランスを崩した。


「よし、再挑戦」


 僕はマーシャルの腕を踏み台にして、落ちてくる瓦礫の上に飛び乗った。そのまま瓦礫も踏み台にして、マーシャルに向かって一直線に跳んだ。

 あとはいつも通り、刀を振るだけ。


「は!?」


 マーシャルの目の前まできていたが、信じられないことが起こった。マーシャルが空中でバウンドして、僕の後ろに回ったのだ。まるで何かに引っ張られたかのように。


「まさか、それが異能……ッ!」


 読み違いだ。こいつの異能はてっきりマユネーズのような身体強化系だと推測していた。ということは、さっきのスピードもシラフってことか。

 僕は空中で体制を整え、そのまま地面に着地した。


「ヴォルニー、マツリ! ヒカリを連れてヒカリの妹の救助を頼む! コルル、エイト! 解放した人たちの誘導を頼む」

「えっ!? トワっ!?」

「ヴォルニー! 勝手にマウンド上がるぞ。ヒカリの怪我の手当と救助を任したっ!」


 マーシャルがゆっくりと地面に降りてくる。


「……しゃーないな。分かったよ。俺の勝ち潰したら許さねーからな、クローザー。行くぞみんな、散れっ!」


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