仲間
盾から放たれた無数の氷の刃が、一瞬のうちに僕の周囲を包んだ。冷たい風が吹き荒れ、鋭利な氷の破片が次々と突き刺さる。
必死に身を捩らせ、刀で氷を払いながら何とか避けようとするが、全てを防ぎきることはできない。肩や足に次々と刃が突き刺さり、鋭い痛みが体中を駆け巡った。血が流れ、氷の冷たさが傷口に染みる。
「くっそ、このままじゃ……」
僕は距離を取るべく後退しようとするが、ロボットはその機を逃さず再び接近してくる。剣を振り上げ、その威圧的な姿勢が視界いっぱいに迫ってきた。
「これ以上、後には退けない……!」
ロボットの動きは鈍重だが、その一撃は致命的だ。僕は残る力を振り絞り、正面から突っ込むことに決めた。後退すればいずれ壁に追い詰められる。ならば、リスクを承知で前に出るしかない。
「行くぞ……!」
僕は刀を握り直し、ロボットの正面へと飛び込む。
ロボットの剣が振り下ろされる瞬間、僕は右にステップを踏み、その剣の軌道をギリギリで外す。風圧だけで身体が揺れるほどの一撃だ。
「今だッ!」
ロボットの剣が床に突き刺さり、動きが一瞬止まる。その隙を逃さず、僕は刀を振りかざしてロボットの側面を斬りつけた。
「……効いてるか?」
しかし、ロボットの装甲は予想以上に硬かった。刀が表面を斬り裂いたものの、致命的なダメージにはなっていない。赤い目が再びこちらを睨みつけ、その身体が不気味に震えた。
すぐさまロボットは剣を引き抜き、反撃に転じてきた。剣を横に薙ぎ払うその動きは、先ほどよりもさらに速くなっている。僕は急いで身を低くして避けようとしたが、避けきれず剣の側面が僕の刀に激突した。
「うわっ!」
衝撃で刀が手から弾き飛ばされ、遠くへ転がっていく。無防備な状態のまま、僕は後方へと吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられた。痛みが全身を駆け巡り、息が詰まる。
「くそっ……」
何とか立ち上がろうとするが、身体が思うように動かない。目の前には、赤い目を光らせるロボットが立ち、ゆっくりとこちらに迫ってくる。
「まずい……!」
刀は遠くに転がっており、今の僕には武器がない。ロボットの剣が再び振り下ろされるのを感じた時、僕は咄嗟に壁を蹴って横へ転がり込む。
しかし、その避けた先は壁の端だった。これ以上後退する場所はない。
ロボットが再び剣を構え、今度こそ確実にとどめを刺そうとしている。
身体中に痛みが走り、呼吸もままならない状況。壁に追い込まれた僕は、絶望的な状況に立たされていた。しかし、まだ諦めるわけにはいかない。ロボットの赤い目が点滅する中、僕は最後の策を考えた。
「どうする、どうする……?」
このまま剣を受ければ、僕は確実に終わる。だが、あの剣を避けきれるだけの力ももう残っていない。追い詰められた僕は、僅かに転がる刀に視線を走らせたが、そこに手を伸ばす時間は残されていない。
「……くそっ!」
「トワー!!」
甲高い声の後に、ズドンッと重たい音が響き渡った。真っ白い直線が見えたかと思うと、それは鮮やかにロボットの右肩を貫いた。バチバチと電流が走り、ロボットが膝をつく。
上を見ると、崩れた瓦礫の隙間からスナイパーライフルを構えるコルルが見えた。
「ッ!? コルル!!」
「なにひとりで突っ込んでんのよ!! コルだって、コルだってッまだ戦えるのに……。トワが死んだら悲しむのはコルなんだよ!?」
さっきの音がもう一度鳴り響いた。その銃声は僕を救うような、それでいてコルルの強い想いを乗せたような音だった。
再び放たれた弾丸は、ロボットの顔面に着弾した。ガチャンと仮面が割れて完全に基盤が姿を現した。
僕はコルルの狙撃によってロボットが一瞬動きを止めた隙に、転がっていた刀に目を走らせた。
しかし、ロボットはまだ完全に倒れていない。仮面が割れ、基盤が露出したとはいえ、機能が完全に停止するには至っていない。むしろ、赤い光が以前よりも強くなり、その体が再びゆっくりと動き出していた。
「トワ、早く! あいつが動けるうちにとどめを刺さないと!」
瓦礫の上から叫ぶコルルの声が響く。僕はその言葉を背に受け、刀に向かって全力で走り出した。呼吸を整える間もなく、ただ一心不乱に足を動かす。背後から聞こえる機械の重い動作音が僕の焦燥感を煽る。
ロボットの目が僕を追っている。装甲が破損しているせいか、その動きは鈍くなっているが、依然として攻撃能力は健在だ。
僕が刀に手を伸ばすと同時に、ロボットは片腕で残った氷の盾を振りかざし、氷の刃を再び僕に向かって放ってきた。
「くっ……!」
僕は身を翻して何とか避けようとするが、足元が崩れた瓦礫に引っかかり、バランスを崩してしまった。
その瞬間、氷の刃が僕の背中を掠め、鋭い痛みが全身を駆け巡る。だが、それでも僕は刀に手を伸ばし、ついにその柄を握り締めた。
「これで……!」
僕は刀をしっかりと握り直し、立ち上がった。再びロボットに向き直ると、奴の目が赤く光を放ちながらこちらに迫ってきた。
「コルル、今からあいつを仕留める。もう一発頼めるか?」
僕の声に、コルルがすぐさま応じた。
「もちろん! でも、奴の防御力が強すぎる……。ただ撃つだけじゃ足りない!」
コルルは冷静に状況を見極めている。
僕も分かっていた。今のままでは、コルルの狙撃だけではロボットの防御を破りきれない。
「よし、作戦だ。僕が奴の足元に斬り込む。その瞬間、コアを狙ってくれ!」
ロボットはすでにかなり損傷している。機動力が下がっている今なら、僕が囮になりつつ奴の動きを封じることができるかもしれない。あとはコルルの精密な狙撃でコアを破壊すれば、勝機が見える。
「りょーかい! 合図して!」
コルルは瓦礫の上でライフルを構え直し、狙撃の準備を整えた。
僕は再びロボットに向かって駆け出した。鋼の巨体がこちらに剣を振り下ろそうとする。
だが、その動きは確かに鈍くなっている。僕はその剣をギリギリでかわしつつ、ロボットの足元に向かって一直線に飛び込んだ。
ロボットが盾を振り回し、氷の刃を放とうとするが、今度は僕の動きが先だった。刀を振りかざし、ロボットの脚部の関節部分を狙って斬りつける。硬い装甲に打撃音が響くが、その衝撃でロボットの動きが一瞬止まる。
「今だ、コルル!」
僕は叫びながら、ロボットの足元から飛び退いた。その瞬間、コルルのスナイパーライフルが火を噴いた。
銃声が響き、ロボットの胸部にある露出した基盤に正確に弾丸が命中した。バチバチと電流が走り、ロボットの動きが一瞬で止まる。
「やったか……?」
僕は息を切らしながらロボットを見上げた。機体が微かに揺れているが、赤い目の光は弱まり、明らかに機能が低下している。ついに倒したか、と思ったその瞬間──
「まだ動いてる!」
コルルが叫んだ。ロボットは胸部のコアが損傷したにもかかわらず、再び動き出そうとしていた。機体が震え、その剣を再び構えようとしている。
「なんだ、この化け物は……!」
僕は再び刀を構え直す。だが、ロボットの動きは明らかに遅くなっていた。今こそ、最後の一撃を加えるべき時だ。
「トワ下がって!」
コルルの声が上から響く。聞こえた通り、力一杯床を蹴って後ろに跳ぶ。刹那の差で僕が立っていた場所に弾丸が通過し、ロボットの左足を吹き飛ばした。
ガタンとバランスを崩してロボットが倒れかけた。
「これで終わらせる!」
僕は全身の力を振り絞って、ロボットに向かって突進した。ロボットが再び剣を振り下ろそうとするが、その動きは遅い。僕はその隙を突き、再びステップを踏んで剣の軌道を外し、刀を振りかざした。
「終わりだ……」
僕の刀は、ロボットの露出したコアに一直線に突き刺さった。
ガチャンと機械音が響き、ロボットの赤い目が一瞬のうちに光を失った。全身がガクンと崩れ、巨大な鋼の体が地面に倒れ込んだ。
「終わった……!」
僕は刀を引き抜き、肩で大きく息をした。全身の力が抜けて、その場に膝をつく。
「トワ! 大丈夫!?」
瓦礫の上からコルルが駆け降りてきた。僕は彼女を見上げ、笑顔を返した。
「ああ、なんとか……お前のおかげでな」
「ふふん、まあね! でも、これからもちゃんとコルのことを頼ってよ。一人で突っ込んでばかりじゃダメなんだから!」
コルルは腕を組んで、少し照れくさそうに笑った。笑ったけど、その奥には涙が光っていた。




