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行動

「…………トワ?」


 後ろにいたコルルが聞いてくる。見ていないのが幸いか。


「……ここはまじでヤバいぞ。流石に正気を保てない」


 ドアの向こうには、現実だと思いたくない凄惨な光景が広がっていた。もう二度とドアを開けることなくここを立ち去りたい。


「何があったの?」

「一言で言うと地獄だ」

「答えになってないよ……」


 とは言ったものの、流石に自分で見に行く勇気はないみたいだ。さっきまでよりも、ずっと早く足が震えている。


「……これから、どうするの?」

「何もせずには帰れない。けど、あの人たちを救うのはほぼ不可能だ。精神が完全に破壊されている」


 奴らの言葉を借りるのは癪に障るが、確かに外見だけ見れば中の人たちは完全に人間のような()()に違いない。

 この施設を破壊して中の人を救出したとして、その人たちを社会復帰させることはおそらくできないだろう。むしろ行き場を失い、その辺りで野垂れ死ぬというのがオチだ。

  僕の異能──『浄化』は、人の精神の汚れを洗い落とすことも可能らしい。もし異能(こいつ)が使えたら、この状況は苦じゃないだろう。けれど、肝心の僕は異能が使えない。

 だとすると、この施設を破壊する最善の方法は──


「……コルル。悪いけど外に出ててくれないか?」

「えっ? なんで?」

「いいから! 絶対中に戻ってくるんじゃねぇぞ」

「……でもッ!!」

「頼む。これ以上の惨劇を見たくないだろ」


 それ以上は何も言わなかった。言いたくなかった。


「死なないでよ……」


 コルルはただ一言、そう呟いて階段の上へと姿を消していった。カンカンという足音が次第に遠ざかっていって、しまいには聞こえなくなった。

 真夏の深夜、得体の知れない地下施設に一人だというのに、何故か落ち着きがある。それはどんな感情にも表せないほどの、混沌とした心持ちだ。

 中の人はもう助からない。そして、この腐り切った施設をぶち壊して中の人を救出する。一見大矛盾が生じているこの問題だが、解決するにはひとつの策しか残されていない。

 それは最悪且つ、完全に禁じ手な愚策。


「……物理的に、この施設ごと活動を停止させる」


 ここはプロダクトグラウンドが運営する施設だ。奥までくまなく探せば、爆薬くらい見つかるだろう。そいつを設置して一斉に起爆すれば、中の人諸共施設を葬り去ることができる。


「ま、そんな量の爆薬があればの話だが……」


 とりあえずはここから動かないことには話が進まない。さっさと奥に行こう。なるべく檻の中の人は目に入れずに。

 もう一度ドアを開けて、中に入る。

 さっきは気づかなかったが、檻ごとに『18』や『23』などのプレートが貼ってある。おそらく産まされた子どもの数だろう。中の女性たちは鉄格子越しに言葉を僕に投げかけてくるが、しっかりとした発音ができていないため、何を言っているかはほとんど分からない。

 少し進むと、すぐに次の部屋に続くドアがあった。


「ずっとこの調子かよ……」


 ドアを開けた次の部屋でも同じように、部屋の両側に檻があり、その中に多くの人が閉じ込められている。


「助けて……」


 言葉がさっきの部屋より聞き取りやすい。プレートを見ると『5』と書かれてあった。

 規則性がまるで分からねぇ。A型発狂案件だろこんなの。


「本当に申し訳ない……。助けられないんだ」


 できるだけ檻の方は振り向かずに、足早と次の部屋へと向かう。

 次の部屋に足を踏み入れた途端、真上でピピピと小さく電子音が鳴った。


「やっぱりか。人間がいなかったのは」

「侵入者を感知。入館証をご提示ください」


 機械音声と共に天井からモニターが降りてくる。

 入館証? んなモンねぇよ。僕は入館証を提示する代わりに、刀でモニターを真っ二つに斬ってやった。


「敵意のある攻撃を感知。本部に通知後、直ちに処理に移行します」


 部屋の右側の壁がシャッターのようにガラっと持ち上がり、白い円柱の見た目をしたロボットが大量に放出された。

 おそらくこの施設に簡単に入り込めたのは、内部の管理を全て人工知能に委託しているからだろう。出てきた白い円柱(こいつら)も戦闘プログラムが仕込まれた人工知能ロボットだ。

 高さおよそ一メートル、右手が機関銃になっていて、左手には剣を持っている。足というものは見当たらず、代わりに戦車のようなキャタピラーが目立つ。ちょうど右手と左手が生えている高さには、赤光の輝きを放つ目があり、その鮮やかさが恐怖を駆り立ててくる。


「……人選をミスったな。マツリを解放チーム(こっち)に入れるべきだった」


 まぁ起きてしまったことは仕方がない。この超近距離戦では、コルルを呼び戻しても実力を発揮できないだろう。

 そもそもコルルは剣の腕があるわけでもないし、拳や蹴りを鍛えているわけでもない。言わば僕たちの中で、一番普通の女の子なんだ。銃の腕前だって、四条救済教会にいたころに射撃練習に勤しんでいたからの賜物であって、もともとの戦闘能力は高くない。

 というかマツリが異常すぎるだけなんだ。


「だから、ここは僕ひとりで片付ける」


 所詮は構築されたプログラム内でしか動けないロボットだ。

 斬り刻んでやる。


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