前線
「当たり前だ」
僕は鞘をコルルに託すと、前線に向かって突っ込んだ。
もうすでにそこら中で負傷者が出始めていた。よく見ると割合は大体半々くらいだ。結構いい勝負なんだな。
そんなことを思いながら、僕は刀を構えた。
──瞬間に目の前に武器が現れる。
弾き返してそいつの胸元に切先を突き刺す。ブシャっと血しぶきが上がって、そいつは倒れ込んだ。
久しぶりに血の匂いを嗅いだな。いつまで経っても慣れない気色の悪い鉄分の匂いだ。
「クッソ……こんなとこで戦わなきゃいけねーのかよ」
まぁ、分かっていたことだ。人の死ってのは、エリア3rdにいた頃から死ぬほど味わってる。それが大切な人の死でも、全く知らない奴の死でも。
この世界というのは、どんなことでもスカイシティが正しい。トップに踏ん反り返っている偉い人たちが一声かければ、地上の街なんて一瞬で破壊される。奴らは僕たちのことを人間だと思っていない。
そして、プロダクトグラウンドもただの工場としか認識していない。どこで誰がどれだけ死のうと、奴らにとっちゃ微塵も興味のないことだ。
「ふざけんじゃねぇよ…………ッ!」
思うがままに刀を振った。次々に向かってくる敵を斬っていく。
だが、思っていたよりも前線での戦闘はきつかった。確かに今までも刀を使って戦ったことはある。けれど、こんな本格的な戦争で刀を振ったことはない。
だが、こちら側の人間はみんな奴隷。敵の兵士は僕たちを殺さないように命令されているから、奴らの攻撃はぬるい。一人、また一人と斬っていく。
「クソっ……数が多すぎるっ!」
強さより数が圧倒的に問題だった。
斬っても斬ってもどんどん奥から湧いてくる。
「ゴキブリじゃねぇんだから、少しは手応えを感じさせろよ……」
相手が動くよりも前に、僕は刀を振る。まるで風のように動き、一振りで致命傷を与える。殺しはしていない。
こんな戦場で敵一人が死ぬまで攻撃を繰り返している時間はない。一撃で戦えない身体にする。
一人を斬ると、また別の敵が襲いかかってくる。奴らは剣や槍を持って攻撃を仕掛けてくるが、刀で薙ぎ払い、お返しに斬りつける。
甲高い金属音が鳴り響き、そこらかしこで火花が散っている。鼓舞する声、うめき声、発狂。様々な声が飛び交い、血の匂いが広がってきた。
遠くでは銃声や砲音が鳴り、深夜一時とは思えないほど大きな音が鳴り続けている。
「おい兄ちゃん、アンタ協力者か?」
後ろから声が聞こえた。おそらく奴隷の中の誰かだろう。
「あぁ。シエールさんに頼まれて、ここに飛び込んできた」
返事は返すが、刀を振る手は止めない。そもそも止められない。
「だったらこんなとこで戦ってちゃあいかんだろ。もっと重要部破壊してくれないか?」
「……それがどこか教えてくれ」
ったく、ここで戦うのが駄目なんなら、早く教えてほしかった。こっちからしたら、どこで戦えばいいか、分かってすらいないんだから。
「この軍の司令部、緑の旗を掲げてるやつだ」
「あぁ、そいつは味方がもう殺ってるから心配ない」
「はぁっ!?」
まぁそんな反応されるとは思っていた。
「じゃあそこの赤いビルから……」
「あぁ、それも味方が配置済み。さっきから援軍が来ないのは、そのおかげ」
「嘘だろ!? アンタの味方ナニモンなんだよ!?」
これがコルルのすごいところだ。こんな初見の土地ですら、どこが有利でどこが不利かを一発で見極めて判断できる。
「さて、誰だか知らんが、ここは任せたぞ!」
だんだん敵の数が減ってきたから、僕は前線から飛び退き、もう一度マンションの上に登った。
「お疲れ様。ずいぶん血被ったね」
コルルがタオルを渡してくれる。
「サンキュー」
渡されたタオルで額の汗を拭う。すーはーと数回深呼吸をして、タオルをコルルに返す。
「こっちはどうだ。なんか変化あったか?」
「ううん。この一帯はもう解放し終わったから、あとはずっと進軍していくのみだよ」
「そうか。言ってた問題は解決できたのか?」
進軍が一直線になっているのが気になるって、コルルがさっき言ってたんだが。
「うん。エイトくんに指示して、進軍の方向も少し変えてもらったから」
「じゃあもう心配いらないな。次のところに行こう」
「うん!」




