開戦の合図
「ほら、中に行きますよ」
僕たちが爆発でできた穴を通った途端、鼓膜が破れるほどの大きな警報音が鳴り始めた。
「なにこれ?」
「ここの壁を破ると警報がなるんです。まぁ、破ったのは今回が史上初なので音を聞いたのは初めてですけどね」
エイトに続いて入ったプロダクトグラウンド内は、思っていたよりも普通の街だった。
アスファルトで舗装された道路があり、車だってある。道路脇に並んでいる建物はマンションのようなものがほとんどで、その光景はエリア3rdを彷彿とさせる。
「さーて、面白くなってきましたよ。トワさんとコルルさんはどんどん建物に突っ込んじゃって下さい! ここにいる人たちは作戦を理解してますから、建物を壊すだけで味方を得られます」
「わかった。エイトがいると、すごく心強い。行くぞコルル」
「うん」
返事をするや否や、コルルは持ってきたロケットランチャーをそこらの建物に向かって乱射し始めた。
ドドォォン、ドドォォン、ドドォォンと爆発がそこらで起き始める。コルルのロケットランチャーの乱射が開戦の合図だったんだろう。マンションから大勢の人が、武器を持って出てきた。
「よし、コルル。どんどん進むぞ」
「おっけー」
コルルは弾薬の切れたロケットランチャーを放り投げると、スナイパーライフルに持ち替えた。
どっから出したその武器。
「その調子です! 進行お願いします!」
上からエイトの声が聞こえてくる。見ると、マンションの屋上を飛び回っている。
「いくら異能人だからって、無茶しすぎだろ」
でも僕も負けてはいられない。シエールさんにもらった刀を鞘から抜くと、息を吐いて走り出した。
前線ではすでに多くのプロダクトグラウンド軍が到着し、こちら側の軍と死闘を繰り広げていた。
「どうする? この中じゃコルルは戦いにくいだろ」
「別に大丈夫……なわけはないね。ここ一体を見渡せるところに行きたいんだけど」
「だよな。とりあえずマンションの屋上に行こう」
押し寄せてくる軍勢から少し距離を取り、僕たちは道路脇に建っているマンションに入り込んだ。
カンカンカンと階段の金属音が静寂なマンションの中に響き渡る。どうやらここまでは、まだ外の声が聞こえてきていないらしい。
「ねぇ、あの進軍の仕方ではマズイよ。一発でも攻撃範囲が広い爆弾とか使用されたら、確実に一網打尽に合う。軍の分散と、飛び攻撃の対策部隊を配置しないと」
「さすがだな。一瞬であの軍の欠点を見抜いたのか」
「これは分かりやすいよ。昼なら軍のど真ん中を集中砲火されて一瞬で負けるだろうね。もちろん後ろからも周り込まれて」
それもそうか。
今こっちの軍はマンション街の真ん中の四車線道路を、真っ直ぐに進んでいるだけだ。言わばご丁寧に軍が一直線上に並んでいるんだ。そりゃ敵から見たら格好の餌食だわな。
「よし、ここからならよく見えるだろう」
僕たちはマンションの上に登り終えると、軍を見下ろした。
多少目が慣れてきたとはいえ、今は深夜だ。遠くの方まではあまりよく見えない。
「あれが敵軍かぁ。思っていたよりも数が多いね」
「世界一のプロダクトグラウンドだからな。けど、これは想像の八倍くらいはいってる」
軽く見積もっても、ざっと十万人は超えている。しかも全てが訓練されたスペースイニシアティブの一流兵士たちだ。
この戦いはヴォルニーの想定通り、二極化だな。
一流兵士相手に苦戦して戦争が長期化するか、上層部を再起不能まで叩いて一方的に終わらせるか。
「さて、そろそろコルたちも始めよう」
「うん。コルル、指揮官狙えるか?」
コルルはスナイパーライフルを構え、片目でスコープを覗いた。
「んーと、あの緑のやつがそうだと思うんだけどね……ま、撃っちゃうか」
ズドンと重い音が隣で鳴った。コルルが肩を二度ほどこすって、もう一度スコープを覗いた。
「命中! これで奴らの動きが少し鈍くなるでしょ」
エイムいいよな。暗視付いているとはいえ、一発で殺れるとは。
コルルはこういう遠距離での戦闘を最も得意とする。それに、戦略で魅せる読みと確実さはヴォルニーですら頭が上がらないほどだ。
「トワさん! コルルさん! 今どんな状況ですか?」
後ろからエイトがやってくる。
「エイトくん、ここの地形じゃこっちの軍が少し不利になってるから、向こうの赤い建物に銃手を置いてみて。それと、反対から回り込みされる可能性があるから、後ろに砲台を組んで!」
「分かりました!」
コルルの指示で、エイトがすかさず連絡をとりに戻っていく。
「調子はいいみたいだな。じゃ僕も前線に突っ込んでくるから、よろしくな」
「うん。死なないでよ」
「当たり前だ」
僕は鞘をコルルに託すと、前線に向かって突っ込んだ。




