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予感

 僕たちは三十分ほど、黙々とパンを食べ続けた。久しぶりに食べる焼きたてのパンは、美味しい味、香ばしい香り、モチモチとした食感、どれをとっても最高だった。僕たちが食べるのを終えたときには、テーブルに並べられていたパンはほとんどなくなっていた。


「はーお腹いっぱい! 今が人生の中で一番幸せかもしれなーい」


 ロビーの端っこに置いてあるソファに、マツリは身を投げる。


「こーらマツリ、ここは公共の場だぞ」


 すかさずヴォルニーの注意が飛ぶ。


「ふふ。あなたたちとても仲がいいのね」


 ヴォルニーの後ろから、白髪の女性が歩いてくる。頭にはオレンジ色のバンダナを巻き、白いエプロンを身に纏っている。年は六十前後くらい。おおらかな笑みから、この人の性格の温厚さと優しさが溢れ出している。


「あなたは……?」

「私はこの宿の経営をしているシエールと申します。久しぶりの宿泊客何ですもの、少し張り切っちゃって。パンは美味しかったですか?」

「はい! それはとても!」


 マツリが満面の笑みで答える。


「それは、よかったです。生地をこねたのは私ですが、焼き上げたのは孫のサラなんです」

「お孫さんと、経営されてるのですか」


 一番近くにいるヴォルニーが聞く。こうやって外部の大人と話すときヴォルニーは頼りになる。僕やコルル、マツリも話そうとすれば話せるのだが、正しい敬語を扱えるのはヴォルニーしかいない。


「そうねぇ……。もう一年くらい一緒にやってるわね。サラー! おいでー!」


 シエーナさんは振り返って、カウンターの裏に呼びかけた。


「はーい。何ー?」


 カウンターの裏から出てきたのは、僕たちより五歳ほど年下の女の子。この娘も白髪で、白いエプロンを身につけている。背も低く、頭の上から伸びるツインテールが幼い女の子感を醸し出している。


「この方たちがお客さんだよ」


 シエールさんの声と、僕たちがいることに気づいて、その娘は頭を下げた。


「ありがとうございます! 私はサラといいます。十歳です」

「サラちゃん、パンすごく美味しかったよ! こちらこそありがとう!」


 マツリは年下相手なら、普通に話しかけられるんだけどなぁ。コルルは無理そうだけど。

 マツリの横で痙攣しているコルルはもう一言も喋られないだろう。


「本当ですか!? 美味しく召し上がっていただいて何よりです」

「ところで、失礼な質問かもしれませんが、あなたがたは一体どこから来たんですか?」


 シエールさんが尋ねてくる。すかさずヴォルニーが返事を返す。


「俺たちの自称孤児院がスカイシティに襲われて、生き残ったこの四人だけでここまで逃げてきたのです」

「それは……大変でしたね。……これからはどうするおつもりですか?」

「とりあえず、一週間ほどここに滞在させていただいて、そのあとは直接ニューヨークに殴り込みにいこうと……」


 マジかよ。あと一週間でニューヨーク攻めるのか。これは戦闘練習しっかりとしないとな。


「なので……」


 ヴォルニーが話を続けようとすると、ヴォルニーの手をサラちゃんが掴んだ。


「ねぇ、お兄ちゃんたち、強いの?」

「うーん。強いとは言い切れないけど、それなりの力は持ってると思ってるよ」


 お前だけは、それなりの力じゃあないけどな。


「お願い! パパとママを助けてっ!」


 僕たちが予想していた方向と、全く違うお願いが飛んできた。


「え? パパとママ?」


 ヴォルニーでさえ返答を迷っている。


「この娘の親は、|創生産都市米支部《プロダクトグラウンドUSA》に奴隷として連れて行かれたのです」


 一気に空気が重たくなり、緊張の風が走る。

 プロダクトグラウンドは世界各地に点在している。その中でも、最大の面積と生産量、奴隷量を誇る世界一巨大なプロダクトグラウンド、それがプロダクトグラウンドUSAだ。


「そこは、どこにあるんですか?」

「この村を出て、南西の方向にずうっと進むと、巨大な壁が見えてくるはずです。その先が、プロダクトグラウンドUSAです。私からもお願いします。この娘の親を助け出してやってください」


 シエールさんが頭を下げる。僕たちは慈善活動をして各地を回る勇者パーティではない。明確な目標だってある。

 けれど、一晩泊めてもらった上にこんなお願いをされたら、聞き入れる以外の選択肢はないと思う。


「僕としてはプロダクトグラウンドに乗り込むのはアリだと思うけどな」


 僕の発言でみんなが顔を見合わせた。マツリはどっちでもいいよと首を振っている。コルルはまだ話の内容を理解してなさそうだ。ヴォルニーはというと、そんな状況にため息をついていた。


「まぁ、こんな話を聞いて無視するほど俺たちは腐ってないですよ。……分かりました。必ずプロダクトグラウンドUSAをぶっ潰してくると約束しましょう」


 ヴォルニーの言葉を筆頭に、僕たちの顔には迷いがなかった。


「本当!? いいの!?」

「あぁ、もちろんだ。サラちゃんのパパとママも助けてくるからな」


 ヴォルニーは屈んで、サラちゃんと目線を合わせる。


「ありがとうございます。ありがとう……」


 シエールさんが何度も頭を下げる。


「顔を上げてください。こちらこそお世話になったお礼をするまでです。ほら、今夜に備えて今から下調べに行くぞ!」


 ヴォルニーが立ち上がって、宿の扉を指差す。


「……え? 今夜ぁぁぁ!?」


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