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 レンガの舗装道路を少し進んだところに、確かにINNと書いてある建物が見える。ヴォルニーが歩きだしたので、僕たちもあとについて歩いていく。


「宿屋なんてこんな小さな村にもあるんだな」

「ニューヨークが近いからじゃない?」


 マツリが僕の独り言に反応してくる。


「そうだとしても誰のための宿なんだよ」


 ニューヨークはスカイシティ常任理事会の者しか入れないから、こんなところに宿屋があったとしても全くの無意味なんだけどな。

 それにしても、今の時代にこんな建物があるなんてなぁ。

 僕は目の前の宿屋を見上げた。三階建ての木造建築で、おそらく二階、三階の部分が客室になっているのだろう。二階と三階の窓の下には鉢が設置されていて、建物の木の柱といい具合に影響しあって建物全体で一つの木のように感じられる。


「灯りはついてるな。入ってみよう」


 ヴォルニーが躊躇なく木製の扉に手をかける。

 チリンチリンと鈴の音が鳴って、扉が開いた。

 ロビーは思っていたほど広くはなく、こじんまりとした空間が広がっていた。外の街頭よりももっと橙色が強い照明が輝いていて、申し訳程度に小さい観葉植物が端っこに置いてある。

 フロントには誰もいなかった。カウンターにはタブレットが一台置いてあるだけだった。今時タブレットなんかで受付している宿なんてあるんだな。


「すいませーん」


 ヴォルニーがフロントの奥に向かって声を上げた。が、返事はない。


「すいませーん」


 ヴォルニーが再び呼びかけた。が、やはり返事はない。


「無人宿なんじゃない? ほら、街のホテルとかでも、ほとんど受付とか人いないじゃない」


 コルルの言う通りだ。現代じゃ、受付に人がいる方が珍しい。

 僕は実際にホテルとやらに行ったことはないが、本で読んだ限りでは、予約をしたときに出されたコード番号をホテルのロビーで入力すると、部屋のカードキーが貰えるらしい。


「そもそも受付なんて文化が廃れてるからな。昔はあったみたいだけど」

「そうか」


 ヴォルニーは呼ぶのをやめ、カウンターの上に置いてあるタブレットに指を置いた。

 ぱっと画面が明るくなって、部屋の空き数が表示された。


「二階か、三階。どっちがいい?」

「どっちの方が空き部屋多いの?」

「三階はほとんどの部屋が空いてるな。埋まってるのは一部屋だけだ」

「じゃあ三階がいい。というかコルたち四人で一部屋なの?」

「俺とトワ、コルルとマツリで別れて二部屋でどうだ?」

「せっかくだし、一人一部屋行こうよ! どうせもうお客さん入んないでしょ」

「それは失礼すぎるぞマツリ。それにお金の問題だって……」

「お金足りなきゃマツリが身体で払うから心配ないよ」

「アホか。二部屋にするぞ」


 ヴォルニーはマツリの言葉を一蹴してタブレットを操作していく。

 二分ほど経って、ヴォルニーが顔を上げた。


「よし、手配完了。今カードキーを発行してくれてる」


 カウンターの横のカードキー発行と書かれた窓口から、銀色のカードキーが二枚出てくる。ヴォルニーはそれを取ると、一枚をコルルに渡した。


「俺たちが三〇七室で、コルルたちが三〇八室だな」


 僕たちは部屋番号を確認すると、カウンターの横の階段で三階まで昇った。


「じゃ、俺たちここだから」


 ヴォルニーが三〇七室の前で立ち止まる。


「うん。まぁコルたちも隣なんだけどね」

「じゃあ、明日の朝呼びに行くから」


 ヴォルニーはコルルとマツリにそう告げて、ドアにカードキーを挿してドアを開けた。


「うん、じゃあまた明日ね」


 コルルも同じようにカードキーを挿す。

 僕はヴォルニーに続いて部屋の中に足を入れた。

 奥には八畳ほどの広間があり、窓際にベッドが二台置いてある。部屋の入り口の横にはバストイレと洗面台もついている。


「ふぅん、結構いい宿じゃんか」


 ヴォルニーが斧を壁に立てかける。


「シャワーもあるみたいだな。ヴォルニー先入るか?」

「いいのか?」

「あぁ、少し疲れたからな。ベッドで休憩しとくよ」


 僕は手に持っていた荷物を床に置いて、ベッドに身を投げる。バフっと音がして、布団が沈み込む。

 久しぶりのふかふかの布団だ。疲れが癒される。


「トワ。シャワー先入るぞ」

「あぁ」


 ベッドに顔をうずめながら、適当に返事をする。ヴォルニーはバスルームの電気をつけて中に入り、ドアを閉める。一気に部屋が暗くなった気がした。

 まだこの部屋の電気はつけていないな。

 僕は布団から顔を上げた。格子状の窓から月明りが漏れてきている。部屋の照明をつけていなくても、辺りが見えるくらいに月明りが部屋を照らしている。

 身体を起こしてベッドに腰かけてみた。床に僕の影が映る。その影をじっと見つめる。

 数分経って僕は思い立ったように立ち上がった。ポケットから充電の切れたスマホを取り出し、ヴォルニーのカバンから充電器も引っ張り出して壁のコンセントに挿す。フォンと音が鳴って充電中と表示された。

 そのとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「誰だ……」


 かすかに呟いて、僕は静かにドアに近づく。


「トワ? マツリだけど、開けてくれる?」


 ドアの向こうでマツリの声がした。僕は鍵を回してドアを開ける。ドアの前には、さっきと同じ格好のマツリが立っていた。


「どうしたんだ?」

「もう寝る?」

「いや……まだ、寝ないと思うけど」

「ちょっと、歩かない……?」

「あぁ、いいぞ。ちょっと待っててな」


 僕は部屋のテーブルに置いてある紙にボールペンで、ちょっとマツリと外ぶらついてくる、と書き残してマツリと一緒に宿屋を後にした。


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