片鱗の旅
「あぁ。僕についてきて」
僕はさっきマツリを抱き抱えて走ってきた道を、まっすぐに折り返す。時々後ろを見て、みんながついてきているか確認しながら、ゆっくりと進んでいく。
「なぁヴォルニー。敵がまだいるかも知れないんじゃないか?」
「そのときはそのときだ。今回はマツリもいるし、三人で戦えれば十分に勝てる」
「ちょっと! 聞こえてたよ。コルも戦力に数えなさいよ!」
「でもコルル近距離は苦手って、ずっと言ってたじゃない。こんな森の中なんだから、マツリたちに任せててよ」
マツリが西方神楽を片手に、コルルに笑いかける。
「ふぅーん? トワだって、肉弾戦得意じゃないのに?」
聞こえてるぞ。コルル。
「あのなぁ、僕だって武器さえあれば近距離戦闘くらいできる。あのときは、たまたま刀を手放していたから」
「あのときって?」
マズイ。想定外のところでマツリにツッコまれた。実はルルージュに完敗したことはまだマツリには言っていない。
理由はただひとつ。負けたと語るのが恥ずかしいからだ。
こんなところでバレるわけにはいかない。
「えぇっと、ほら! さっき戦闘したって言ってただろ? あのときだよ!」
「へぇー。まぁそういうことにしといてあげる」
「そんなことより、この先に敵がいるかもしれないんだから、こんなくだらないこと詮索してる暇があるなら、もっと警戒心を強めておけよ」
「はいはぁーい」
だがそんな心配も見ず知らず、さっき戦闘したところには人っ子一人いなかった。
「ここから、どっちだ」
「向こうが港だから、ここまっすぐだ」
かすかに港の灯りが木々の間から見える。ヴォルニーは、そこから右を向いた方角を指さした。
「了解!」
僕はヴォルニーが指さした方向に、足を向けて歩き出した。僕のあとを、みんなもついてくる。
「そういえば、マツリたちのこと、どうやってここまで運んでこれたの?」
「えっと……そ、れはな……」
なんて言おうか。抱きかかえて走ったと真実を言えばいいのか?
「ん? 俺とトワで二人を抱いて走った」
「僕が言うかためらったことを皆までいうなよお前ぇ!」
「トワがマツリ軽いって言ってたぞ」
さらにヴォルニーが爆弾を放り投げてくる。
「トワ? それはどういう意味かな?」
マツリが笑顔で聞いてくる。だけどその目は笑っていない。
「い、いや、別に深い意味はないよ。僕は小さいほうが好きかなーって。あははー」
よし、笑って誤魔化そう。
「ったく! なんで男子ってみんなこんな脂肪の塊が好きなのかねぇ……?」
マツリがコルルの胸部を横目で見ながら、ため息をこぼす。
「コルだって大きいわけじゃないよ。マツリほどないわけでもないけど……」
「うるせー! 誰の胸がないってー!? マツリだってあるし!」
「そういうの負け惜しみっていうんだよ?」
コルルはおそらく意識して言ってないのだろうが、今のマツリには煽り文句にしか聞こえないだろう。
「いいもん。胸なんかなくたって、マツリのほうが可愛いし」
「こいつ、自分が可愛いって分かってやがる」
「それに、四条救済教会の中では断トツの美少女だったしね!」
「本当の美少女は自分で美少女とは言わないよ」
「ヴォルニー! さっきから影で言ってること全部聞こえてるからね」
マツリがヴォルニーの頭をペシぺシと叩く。俺は間違ったこと言ってないのに、とヴォルニーは不服そうにマツリに謝る。
「それは井の中の蛙だよ。マツリ?」
もうコルルは何も喋らないほうがいいと思う。
マツリの心に何本もの鋭い矢が、グサグサぶっ刺さる音が聞こえてくる。
「いいもん! どこかの男にマツリのこと盗られても知らないよ?」
「安心しろ。そのときは全力でお祝いしてやるから」
「そこは否定してよぉ」
「いや、お前が言ったんだろうが!」
マツリとヴォルニーがそんな掛け合をしている中、僕はマツリの横顔を見る。
正直、こいつは可愛い。コルルは井の中の蛙と言ったが、案外顔だけ見ればそうでもないかもしれない。スタイルも細身で、女の子らしい体つき。声も可愛さとしては申し分ないし、顔はモデル並みに整っている。
性格や考え方は可愛くないが、そこさえ直せば大抵の男は堕とせるはずだ。僕は全く恋愛感情は持ってないけど。
そもそも僕の最終目的は、奴らを殺すこと。それが達成できれば、エリア3rdで誰にも知られずにひっそりと死にたい。だから恋人なんてつくるだけ野暮だ。
なんてことを考えているうちに、だんだん小さな灯りが見えてきた。木々が少し拓けたところに、その村はあった。
「案外近かったんだな」
「その言いようだと、もっとかかると思ってたの? ヴォルニー?」
「あぁ。思っていた数倍は近かったな」
木やレンガで作られた家は、どう考えても現代に作られたものではなさそうだった。屋根は三角にとがっていて、どこかファンタジー感を彷彿とさせる家の造りだ。
村の規模に見合わないレンガ調の道路が整備されていて、橙黄色の街頭の灯りがそこはかとなく切なさを醸し出している。
まだ時刻は夜の十時くらいだが、外を歩いている人は見当たらない。
「ここが、さっき見てた村?」
「たぶんな。……向こうの建物にINNと書いてある。まだ宿泊できるか聞いてみよう」




