目覚めは空気
僕とヴォルニーはまた草木を手でかき分けながら、マツリとコルルを寝かせていた辺りまで戻る。
「あ、トワ! ヴォルニー! おはよ。ここどこ?」
何も知らないコルルが笑顔で挨拶をしてくる。
「ここどこじゃねぇんだわ! 僕とヴォルニーでお前ら抱きかかえて船から逃げ出してきたんだよ。あんなに銃音あったのに、なんで起きないんだお前らは」
一気に言いたかったことを言いきったが、怒りというよりかは疑問のほうが強くなったいた。
「だって寝てるもん!」
「なんだその訳のわからない言い訳は」
コルルは本当に寝付いたら、ちょっとやそっとのことでは目覚めない。もはや『睡眠』の異能を持っているのか疑うレベルだ。もちろんそんな異能は存在しないので、コルルの睡眠力は完全なるシラフということになる。
これが眠り姫の異名を持つコルルの実力か。
「あー! マツリの刀ー! なんでここにあるの!?」
マツリはヴォルニーの荷物に、立てかけるように置かれている西方神楽を手に取る。
「あーそれな。ヴォルニーが武器庫の中から取り戻してきてくれたんだぞ」
僕はヴォルニーの方に目配せを送る。
「…………」
マツリが急に黙って、ヴォルニーの方を向く。ヴォルニーもずっとマツリを見ているだけで口を開こうとしない。
しばらく沈黙が流れる。あれからほとんど会話をしてこなかった二人だ。こんな空気は今に始まったことじゃない。けど……。
「…………悪かったな。無責任な言葉並べちまって」
こうして外野から見ていると、素直になれない人間てのは視線が泳ぐんだなぁ、と思ってしまう。ヴォルニーは言い切った後、視線をふらふらとさせている。
「…………あたしだって、ずっと意固地で。……ごめん」
マツリも視線が泳ぎまくりだ。一通り泳いだ後、マツリは自分の手の中にある西方神楽に目を落とした。
「もー! 二人とも素直になりなよ。マツリだってありがとうくらい素直に言ったらいいじゃん。つれないなぁ」
ついに痺れを切らしたコルルが二人の間に割って入った。
「……うぅ。あ、ありがと」
コルルに背中を押されて、不服そうにマツリはヴォルニーにお礼を言った。
「今度は奪われないようにちゃんと肌身離さず持ってろよ。お前の相棒なんだろ?」
「……うん」
マツリの顔にも笑顔が戻る。よかった。これで一件落着だな。
さて。
「二人とも。さっきヴォルニーと話してたんだけど、この先の崖の下に小さな村があるんだ。そこで一晩泊めてもらおうと思ってるんだけど、どうだ?」
「泊まるって言っても、今、朝なんじゃないの?」
マツリがキョトンとした顔で聞いてくる。
「あのなぁ。それは今まで船の中に閉じ込められていたからで、俺たちは日本時間しか見てなかったんだよ。ここは日本から見て地球の裏側。昼夜が逆転してることくらいわかるだろ」
ヴォルニーが事細かに説明してくれたが、辺りのこの暗さで大体夜だってわかると思うんだけどな。
「どんなところなの?」
「そこの木の間をまっすぐ言ったところが崖になってる。俺について来て」
ヴォルニーがまた草木をかき分けて、コルルたちを案内する。
「うわ、すごい」
「マツリ前のめりになるのはいいけど、落ちるなよ」
ヴォルニーが忠告する。崖の高さはおよそ三十メートルほど。落ちたらまず助からない高さだ。
「村ってあれ?」
コルルが小さな灯りの集まりを指さして聞いてくる。
「うん。建物も数軒しかないけどね」
「トワ、行くってどうやって行くの?」
マツリが起き上がってくる。
「どうやって行くんだ? ヴォルニー」
僕は質問をそのままヴォルニーに横流しした。
「うーんそうだなぁ。さっき戦闘したあたりから下に降りられると思うから、そこまで戻るしかないな」
「さっき戦闘したところって、何? 戦ってたの?」
「お前らが起きないからだろうが! 船降りてから二回ほど戦闘があったんだよ」
本当にこいつらは。あれだけ斧振り回して、銃撃って、刀で斬りあってたのに。
僕は呆れを通り越して、もはやその睡眠力に引いていた。
「だって起きられないものは起きられないんだから仕方ないでしょ」
コルルが不貞腐れて唇を尖らせる。
「それより、行くのか、行かないのか?」
「行く! マツリもうお腹すいて死にそうなんだから!」
マツリがお腹を抑えてうずくまるふりをする。
「行っても食べ物がもらえるとは限らないぞ」
「もぉ、そんなこと今考えなくていいから。ここにいるよりかは食べ物にありつける確率は高いでしょ!」
「んじゃ、行くか。トワ、道わかるか?」
「あぁ。僕についてきて」
僕はさっきマツリを抱き抱えて走ってきた道を、まっすぐに折り返して進んだ。




