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現実

 僕たちは森の中を、走って走って走り続けた。

 人を抱えて走るというのは、普通に走るよりも随分体力を使う。いくら体力に自信があったとしても、初見の森の中を人を抱えて走ると、すぐに体力が尽きる。それはヴォルニーも一緒だった。


「そろそろいいんじゃないか。後ろ来てないぞ」

「そうだな」


 ヴォルニーは僕に返事をすると、振り返って止まった。ヴォルニーでさえ息が上がっている。


「こいつらどうする……?」


 僕は苦笑いしながら、腕の中ですやすやと寝息を立てているマツリを見る。


「そこの木にもたれかけさせとくか」


 ヴォルニーは近くの大木に、視線を送る。


「分かった」


 僕は大木の根っこに近づき、座りやすそうな場所を探す。少し窪んでいる根っこの隙間に、マツリを静かに腕から降ろして座らした。


「というか……あんな戦火が飛び散る中でよく寝てられるな、こいつら」


 コルルを降ろしたヴォルニーが呆れ顔を浮かべて苦笑する。


「もはや才能だよ。昨日何時まで起きてたんだか」


 僕はコルルとマツリの寝顔を見る。僕とヴォルニーがあんなに大変な思いで逃げ出してきたってのに、こんなに気持ちよさそうに寝てやがる。あとで何か奢ってもらおう。

 振り向くと、ヴォルニーの姿がなかった。荷物をそこに置いているから、そんなに遠くには行っていないのだろうが、少し心配になった。


「ヴォルニー!? どこだ? 返事してくれ!」

「おーい、こっち来てみろよトワ。街が見えるぞ」


 声がしたほうを見ると、ヴォルニーが草木をかき分けて進んだところで、僕を呼んでいる。

 

「なんだ、そっちにいたのか」


 安心して生い茂る草木の間を抜けると、その先は断崖絶壁になっていた。そして崖の下には小さな集落が儚い灯りを灯している。家と思われる建物は数軒で、住んでいる人はそんなに多くないだろうと推測できる。


「二人が起きたら行ってみるか?」

「行ってみるのには賛成だが、どんなところかも分からないところに飛び込むのは少し危険じゃないか?」


 確かにヴォルニーの言う通りだ。だけど、こんな森の中で一夜を明かすほうが危険な気もする。


「ここの方が危険じゃないか? 少しでも人のいるところにいた方が……」

「そうか。それもそうだな」


 ヴォルニーは少し遠くにある真っ黒い海を睨んでいた。

 そんなヴォルニーの横顔を見ながら、ずっと思っていたことをヴォルニーにぶつけてみることにした。


「なぁヴォルニー。少し、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「どうした……?」


 ヴォルニーは顔を動かさずに、静かに答えた。


「なんで、手錠の外し方を知っていたんだ? それだけじゃない。あの制服が清掃員のものだってのも、客船の搬入口までの道や武器庫の位置も、プロダクトグラウンドまでの所要時間も。なぜ全部分かるんだ?」


 真夏の夜にしては冷たい風が頬に打ち付けた。ザァっという木の葉が揺れる音がして、風が通り過ぎていった。辺りがもう一度静かになって、ヴォルニーが口を開いた。


「そうだな……少し、前の話をしてもいいか……?」

「あぁ」

「俺は四条救済教会に来る前、似たようなところに数年いたことがあるんだ。そこはよくある自称孤児院で、俺みたいな子どもがたくさんいた」


 四条救済教会も、子どもたちが作り、子どもたちで運営されている自称孤児院だ。今から七年前に当時子どもだったダニエルさんが立ち上げたと聞いている。


「地上には、プロダクトグラウンドやエリアの他に、普通にスカイシティに納税することで存在を許可されている一般都市もある。まぁ、普通に地上で生活している人間たちの街だな。でも、そこがもし財政破綻か何かで、スカイシティに納税が出来なくなったら、どうなると思う?」

「……滅ぼされる。もしくは全員虐殺か?」

「全員虐殺で済めばいいんだけどな。まず最初にプロダクトグラウンドの役人が来て、働ける大人を新たな奴隷として連れて行くんだ。男性は問答無用で奴隷送り。女性は健康ならばオークションにかけられる。まぁ奴隷というよりかは、躰目的で買われる人がほとんどだけどな」


 ヴォルニーは遠くを見ながら話している。僕も向こうの方へ広がる海を、同じように見つめることにした。


「そうやってほとんどの大人が連れて行かれた後、残るのは誰だと思う?」

「…………子ども、か」


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