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世界の中心

「行くぞ。トワ」


 ヴォルニーは斧で十字を切った。目の前のドアノブのないドアに、十字の亀裂が入る。そして、真ん中を思いっきり蹴り上げた。ドゴッと鈍い音がして、ドアが外れた。こいつの規格外の力にはもう慣れたが、久しぶりに見るとやはり圧倒される。リンゴどころかそこら辺の岩すら握りつぶせる握力を持ち、大理石の柱を蹴り砕き、斧を振れば衝撃波すら生まれる。

 誰もが認める力イコール正義の脳筋タイプだが、外見はそうには見えない。どこからあんなスーパーパワーが生まれているんだ。


「大丈夫だ。人影はない」


 ヴォルニーの声が廊下でした。僕は台車の取っ手に手をかけて力を入れた。

 僕とヴォルニーは慎重に台車を押して、長い廊下を進んでいった。だが、そんな僕たちとは裏腹に、船内にはびっくりするほど人気がない。カラコロと台車の車輪の音だけが、静かな船内へ響き渡る。


「あ、トワ。一瞬待ってて」


 ヴォルニーはふと足を止めてそう言った。


「なんだ? 忘れ物でもしたか」

「あーまぁそんなところだ」


 ヴォルニーはそういうと、すぐ横のドアに向かって斧を振りかざした。


「馬鹿っ、何やって……っ!」


 僕が止める間もなく、ガァンという音が船内に響き渡った。ヴォルニーは何も言わず、外れたドアの隙間から部屋の中に入った。数十秒ほど経って、ヴォルニーが顔を出した。


「なんで今更武器庫なんかに。お前斧持ってるじゃねぇか……!」


 ひしゃげたドアのプレートには武器庫と書いてあったのだ。

 ヴォルニーはドアを取り外して、廊下に出てくる。


「これを忘れていくわけがねぇだろ」


 部屋から出てきたヴォルニーの手には、西方神楽(マツリの刀)が握られていた。


「ヴォルニー……。お前……」

「行くぞ」


 ヴォルニーは西方神楽を木のコンテナに突っ込んで、歩き出した。


「どこから出るのか分かるのか?」

「あぁ。二階の搬入口だな。一回甲板に出る必要がある。そこでバレなきゃ勝ったも同然だ。っておい聞いてんのか」

「うん……まぁ」


 話は聞いていたが。なぜ知っているのか、その疑問のほうが大きかった。

 そんなことを考えながら、僕は先導しているヴォルニーについて行った。


「この先が甲板だ。堂々としていれば大丈夫だろう」


 ヴォルニーはそう言って、ドアを開けて甲板に出た。その後ろに僕も台車を押しながらついて行く。甲板の上には誰もいなかった。その代わり僕を待ちわびていたかのように、ニューヨークの街があった。


 これが、世界の中心。スカイシティを操作できる唯一の場所。

 数百メートルにも及ぶ通信タワー。それを中心に、高層ビルが林立している。街全体を巨大な壁が取り囲んでいて、完全に外部との接触を断絶している。

 ここにエリアのみんなや、教会のみんなを殺した奴らが、のうのうと生きていやがるのか──。


「……ワ! ……トワっ!」


 ヴォルニーの声が聞こえてきた。


「何怖い顔して固まってんだよ。行くぞ?」

「……っ! あ、ごめん」


 我に返った僕は、ヴォルニーが足を向ける先に歩き出した。広い甲板を横断し、僕たちはもう一度船内に入った。


「ここの階段を降りた先に、搬入口がある」


 慎重に階段を降り始めた。だんだん搬入口が見えてくる。なぜここまで来ても人一人にも会わないのだろう。もしかしてもう全員船を降りているのか。

 階段を降りきったそこには、分厚い外開きの扉が開いていた。


「出るぞ」

「うん」

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